2014/06/19

シニアだって出会いたい

アメリカにも男女のマッチング市場は存在しており、人気の高いモバイルアプリ「Tinder」は、一日に1,000万人以上が利用するそうだ。このアプリは、そもそもは広大な大学のキャンパスで、男女が知り合うために作られたらしい。位置情報を使って近くに同じアプリを使っている異性がいないか検出し、いたら顔写真で紹介してくれて、♡か×かを決める。相手にも自分が紹介され、お互いに♡ならメッセージのやり取りを行うことができる。Facebookのアカウントで認証する手軽さが受けているらしい。

こうした若者向けのマッチングサイトやアプリは、スマートフォン時代の前からたくさんあるが、シニア層向けには目立ったものがない。しかし、年齢を重ねたからといって出会いを求めていないわけではない。ただ、ニーズは若年層とは違うようだ。そんなシニアのニーズに合ったウェブサービスが「Stitch」だ。開発したのはシドニーのスタートアップTapestry社からスピンアウトしたStitch社。

Tapestry社が開発した「Tapestry」は無料のスマートフォン用アプリで、テクノロジーの進歩についていけない(あるいはついていく必要性を感じてもいない)シニアを、離れた場所にいる子どもや孫たちと結びつけることが目的だ。Facebookを利用していないおじいちゃんおばあちゃんとメッセージを交換し、写真を共有するのを支援する。Tapestryの提供を通じて分かったことは、シニア層も同年代との出会いを求めているということだったそうで、そこでStitchの開発に至ったわけだ。つづれ織り(Tapestry)の次は縫い合わせる(Stitch)ということだろうか。

Stitchでは、シニア層が自分のプロフィールや趣味、嗜好などを会員登録すると、近所に住む会員のベーシックな情報を閲覧することができる。若者向けと違って、ある人に関心があるというチェックをしても、すぐには相手に伝えない。相手もこちらに興味ありとチェックした時点で、双方に通知が送られる。少し悠長な気もするが、この方法なら相手を拒絶する必要もないし、拒絶されて悲しい思いをすることもない。振ったり振られたりの苦い思いはなくて、出会いの喜びだけがあるという仕組みらしい。そして出会いがあったら、料金が発生する。

シニアの出会いは、恋愛の対象を求めているとは限らない。友達や話し相手を求めている場合が多く、若者と違ってWhatsAppなどでメッセージ交換するのではなく、コンタクトを取るフェーズでは、例えば、電話などの伝統的手段が好まれるそうだ。Stitchはこうしたニーズに応える設計になっている。当初はオーストラリア、アメリカ、カナダ、イギリスをターゲットにしているが、非英語圏への進出も考えているらしい。

著者:信國 謙司(のぶくに・けんじ)

NTT、東京めたりっく通信、NECビッグローブなどでインターネット関連の事業開発にあたる。現在はビジネスアーキテクツ社にてモバイルヘルス分野の新事業立ち上げに従事。同志社大学ビジネススクール嘱託教員として「技術開発と事業化戦略」を担当している。