2014/06/17

ブロードバンドが実現する『どこでも診察室』と『どこでも薬局』

遠隔医療に必要な設備を備えたヘルススポットステーション(HealthSpot)

国土が広大なアメリカでは、医師不足・病院不足の地域での医療サービスを支援する有望な手段として、モバイルや有線のブロードバンドを利用した遠隔医療が大いに期待されている。

ATA(American Telemedicine Association)は、遠隔医療を「患者の健康状態を改善するために電気通信により伝送された医療情報を利用すること」と定義している。そう聞いて思い浮かべるのは、「一旦は病院で診察を受け、治療方法は決定したものの、自宅と病院の距離が離れていて治療のための通院が難しい」といった場合に、自宅に映像通信設備(テレビ電話システム)を入れて、自宅の患者と遠くの病院にいる主治医が互いの顔を見ながら療養の進み具合を確認するといったシーンではないだろうか。

しかし、オハイオ州ダブリンのスタートアップ、ヘルススポット社(HealthSpot)の「ヘルススポットステーション(HealthSpot Station)」は、いわば遠隔診療キオスクで、どこにでも設置できる病院の診察室だ。スーパーマーケットや大きめの薬局、学校や企業の中、さらには地方の診療所の中に設置することを想定している。

ステーションは個室になっているので、ドアを閉めればプライバシーは守られる。中にはデジタルの体温計や血圧計、デジタル聴診器、ホクロなどを観察するダーモスコープ、耳の中を見るオトスコープ、体重計が装備されている。アメリカ通信大手の4G携帯電話網等で大病院と接続し、高精細ビデオ会議システムの向こう側にいる医師の指示で、患者は自分で聴診器を胸などに当てるなどの処置をする。

むろん、注射を打ったり手術を行ったりすることはできないが、比較的軽度の疾患ならカバーできる。ヘルススポット社は自社で医療スタッフをそろえるのではなく、既存の病院などの「出先機関」を作ることを支援するビジネスにフォーカスしている。

一方、カナダのMedAvail Technologies社は「どこでも薬局」とでも呼ぶべきキオスクを開発しているが、両社は今年の1月に提携を発表している。MedAvailのキオスクは個室ではなく、銀行のATMのような形状だ。診察室キオスクを出た患者が隣の薬局キオスクで薬を受け取れることになるが、将来的には診察室と薬局を1つのキオスクに統合する計画もあるようだ。病院のない地域で、ワンストップで医療サービスを受けられるようになる可能性が広がりそうだ。

著者:信國 謙司(のぶくに・けんじ)

NTT、東京めたりっく通信、NECビッグローブなどでインターネット関連の事業開発にあたる。現在はビジネスアーキテクツ社にてモバイルヘルス分野の新事業立ち上げに従事。同志社大学ビジネススクール嘱託教員として「技術開発と事業化戦略」を担当している。