2014/06/03

脳トレアプリで『視力』が向上?

「見る」という行為は、目に入った光を網膜の受容器が捉えて、視神経で脳に伝え、脳がその情報を処理する一連の流れで成り立っている。なので、目ではなく、脳の機能を上げても「よく見える」ようになるらしい。カリフォルニア大学リバーサイド校で開発された「Ultimeyes」は、パソコンやiPadで動作するアプリで、同校による実験では、25分のトレーニングを30セッション実施すると、視力が平均で31パーセントも向上したそうだ。

このアプリは同校の野球選手でテスト済みで、実際に視力の向上が確認され、野球の成績も向上したとのこと。視力の低下は水晶体(目のレンズに当たる部分)の厚みを変える筋肉の衰えや眼球の歪みが原因とされるが、Ultimeyesは目の筋肉ではなく、脳の視覚野を鍛える。アプリの説明によると、脳は目から入って来る情報をガボール(Gabor)視覚刺激というパターンで処理しているのだが、このパターンは小さな円形の中に細かいストライプが縦、横、あるいは斜めに入っている。そこで、このガボール刺激を直接スクリーンに短時間表示して、この存在を脳が認識する力を高めるトレーニングを行うという。研究成果は論文として発表されているが、効果はともかく、視力向上の理由やその持続時間などにはまだ研究の余地があるとのこと。

Ultimeyesは大学生の視力を向上させたが、2007年設立のGlassesOff社(ニューヨーク)のアプリ「GlassesOff」は老眼を改善するというスマートフォン用アプリ。一週間に3回以上、3カ月のトレーニングセッションで老眼の視力が改善し、老眼鏡なしで手元の文字などが見えるようになるという。こちらは90パーセント近い成功率とうたっている。とはいえ、90パーセントの人が完全に老眼を克服するということではなく、数年前の視力に戻ったと実感できるくらいの効果が見られる人が90パーセントいるということのようだ。

GlassesOffも、Ultimeyesと同じように、画面にガボール刺激を短い時間表示して、見えたかどうかを判定しながらトレーニングを進める。目の筋肉の衰えを筋肉トレーニングで改善するのではなく、視覚野での情報処理能力を向上させることで「見る」力をアップさせようとする点では共通だ。

GlassesOff社は学会誌などに論文を多数発表しており、このトレーニングが科学的に裏付けされていることを強調している。

著者:信國 謙司(のぶくに・けんじ)

NTT、東京めたりっく通信、NECビッグローブなどでインターネット関連の事業開発にあたる。現在はビジネスアーキテクツ社にてモバイルヘルス分野の新事業立ち上げに従事。同志社大学ビジネススクール嘱託教員として「技術開発と事業化戦略」を担当している。