2014/06/02

スマートイヤホンはスマートグラスを超えるか?

Dashの装着イメージ(BRAGI)

ドイツのBRAGI社が開発中のイヤホン「The Dash」は、1,000曲(容量4GB)の音楽を持ち歩くことができ、Bluetoothヘッドセットとしてスマートフォンの音声通話のスピーカーとマイクにもなる。3月にKickstarterで行った資金調達では、目標額26万ドル(約2,646万円)に対して13倍の339万ドル(約3億4,500万円)を集めた。

The Dashは単に"聴く"だけのイヤホンやヘッドセットではなく、活動量計(トラッカー)でもあるし、身体状態の計測器でもある。GPSによる測位はスマートフォンに頼らなければならないが、ランニングやウォーキングを記録するほか、心拍数も計測する。本体へ指でタッチしてコントロールするのだが、左耳用がトラッカー、右耳用がオーディオの操作になっている。重さは片耳あたり13.8グラムで、水深1メートル防水、価格は299ドルで10月発売予定だ。

多くの人々の関心(と資金)を得た理由の一つは、The Dashの用途の広さだろう。音楽プレイヤーやワイヤレスイヤホンではあるが、通信機器の一部でもある。フィットネスやレクリエーションに使えるだけでなく、心拍数の変化を通知するなど遠隔医療にも役立ちそうだし、プレゼンテーションのプロンプターにもなり得る。観光地や美術館で音声ガイドを聴くこともできるし、音声認識、音声合成、自動翻訳を組み合わせれば機械同時通訳にもなる。消火作業に当たる消防士との通信に使いつつ、消防士の身体の状況をモニタリングするといった用途も想定できる。

腕時計型やメガネ型のウエアラブル機器が関心を集め始めて久しいが、これらの機器は視覚に頼るため、何かを注視しなければならない状況では利用しにくいし、人と顔を合わせて会話しながら使う際には、どうしても利用者の注意を向ける先が会話の相手から離れてしまうという問題がある。メガネ型でも、先日発表されたJINS MEME(参照記事)は、視覚情報や頭の動きを検知するセンサーとして身体状況のモニタリングに特化しており、視覚を必要とする外部情報の表示には対応しないが、イヤホンならば視線を泳がせることなく情報を出し入れできるだろう。

耳に注目しているのはBRAGI社だけではない。LGは、LifebandTouch(リストバンド型ウエアラブル)に組み合わせて心拍数のモニタリングができるイヤホンを発売している。また、Plantronicsは顔の向きを検知できるBluetoothヘッドセットを開発しており、インテルもイヤホン型トラッカーの試作を行っているようだ。スマートウォッチやスマートグラスを超えるウエアラブル機器の可能性は、耳にあるのかもしれない。

著者:信國 謙司(のぶくに・けんじ)

NTT、東京めたりっく通信、NECビッグローブなどでインターネット関連の事業開発にあたる。現在はビジネスアーキテクツ社にてモバイルヘルス分野の新事業立ち上げに従事。同志社大学ビジネススクール嘱託教員として「技術開発と事業化戦略」を担当している。