2014/04/30

"デジタル速読"を可能にする新しいユーザーインターフェース

紙の本を読むスピードを上げる速読の技術はたくさん研究されており、その一つに、読む場所をある地点から別の地点にジャンプさせながら読むことで、より多くの情報量を得る方法が知られている。ボストンに拠点を置くSpritz社ではこの方法を生かし、デジタルデバイス上での速読を可能にする新しいユーザーインターフェース技術を開発した。

テキストを読むには単語の流れに沿って視点を移動させる必要がある。だが、Spritzが開発した方法では、ストリーミング技術を使って同じ場所に次々に単語を表示し、視点を変えずに文章を読めるようにする。こうすることで、画面の端から端へと視線を移動して、そこで再びページをめくるといった操作が不要になり、特に小さなディスプレイで多くのテキストを読み込むのが快適になる。合わせて、ストリーミングを実現するための高速な通信技術も提供され、表示のもたつきや、テキストが表示されるまでのタイムラグからも開放されるという。

もう一つの特徴は、フラッシュ的に表示される単語に集中するため、表示部分の周囲に水平線と単語のセンターを示す目盛を表示し、さらに一部の文字を赤色で表示すること。これらを含めたトータルな技術を特許として出願中である。具体的にどのように表示されるかは、Spritzのウェブサイトで確認できる。言語と表示スピードを指定して画面をクリックすると単語が次々と表示されていくが、意外に速く読めることが分かる。

創設者にはMITの技術者らをはじめ、ミュンヘン工科大学のエンジニア出身の起業家や、医療デバイスの開発企業出身者らが参加している。写真やビデオ、地図などと統合でき、多様なシーンでの採用が見込まれているが、特に注目されているのが、スマートウォッチやスマートグラスなど、画面が小さいウエアラブルデバイスでの採用である。すでに実装可能なレベルであり、サムスンのGALAXY Gear2 とGALAXY S5に試験的に採用されたことが発表された。ウェブサイトやAndroid向け以外にも、iOS向けのJavaScript SDKとAPIなど、デベロッパー向け開発キットの提供が始まっている。

単語単位での表示であることから、日本語にも対応できるかどうかは不明だが、今後、テキストを読むスタイルそのものに大きな影響を与える技術の一つになるかもしれない。

著者:野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」、「DIME」、「App DIME」「ライフハッカー」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。