2014/01/27

虚空から電力を"収穫"する

人工の物質には、光などの電磁波に対して自然界に存在する物質では「あり得ない」振る舞いをする物質「メタマテリアル(電磁メタマテリアルともいう)」がある。これらを並べて、マイクロ波を捕まえる装置をデューク大学の研究者たちが開発した。電磁波を電気に変換できるので、Wi-Fiの電波を使った「発電」が可能になる。

Wi-Fiのアクセスポイントから放出されている電波は、四方八方に飛び去って減衰していくので、データ信号の送受信に使われる部分以外はほとんどが虚しく消えていってしまう。彼らのエネルギー変換装置はマイクロ波を7.3Vの電力に変換できるというから、屋内などで「無駄」に飛び交って消えてしまうエネルギーを再利用することが本当に可能になる。今後、小型化や軽量化が進み、変換効率が劇的に上がっていくならば、基地局から受信する電波を電力に変換して携帯電話を動作させることも可能になるのかもしれない。常時この電源に頼ることが難しいとしても、災害時など充電する手立てがない場合には非常に役に立つはずだ。

周囲の環境にあるもの(光、振動、圧力、温度差、風など)から微弱な電力などを取り出す「エネルギーハーベスティング」は、環境問題の深刻化とともに注目が集まる分野だ。紹介した例以外にも、電波から電力を"収穫"する研究成果は相次いで発表されている。携帯電話の普及で、電力を必要とする持ち運べる装置が日常のライフラインになった今、太陽光や身体の動きだけでなく、利用されずにいる電波から電力を取り出す技術は重要性を増してきている。

著者:信國 謙司(のぶくに・けんじ)

NTT、東京めたりっく通信、NECビッグローブなどでインターネット関連の事業開発にあたる。現在はビジネスアーキテクツ社にてモバイルヘルス分野の新事業立ち上げに従事。同志社大学ビジネススクール嘱託教員として「技術開発と事業化戦略」を担当している。