2014/01/17

スマートフォンの普及がモータリゼーションの終焉を招く?

アメリカでは1920年代から、日本でも東京オリンピックの頃から「モータリゼーション」が進んだ。特にアメリカは車社会で、通勤にも買い物にも車を利用する人が大変多い。そんなアメリカに変化をもたらしているのがスマートフォンだ。

APTA(アメリカ公共輸送協会)のレポート「新世紀世代と移動性(Millennials and Mobility)」は、21世紀の若い世代には、移動中に仕事することができる点から、自動車よりも鉄道など公共輸送機関のほうが優れていると考えている人が多いとしている。ボストン、シカゴ、ワシントンDCなど交通機関の選択の幅の広い大都市では、1週間のうちに数回はバスや地下鉄を利用すると答えた人が40%を超える。場所によっては電車に自転車を持ち込むこともできるので、特に若者には便利な移動方法となっているようだ。

非営利団体WashPIRG基金の調査「新しい行き方(A New Way to Go)」によると、ライドシェア(車の相乗り)、バイクシェア(自転車の相乗り)や、リアルタイムの運行状況・乗換案内などを提供するスマートフォン用アプリの普及が、公共交通機関の利用を押し上げているという。シカゴでは、リアルタイム運行情報提供が開始されてからバスの利用者が増えている。スマートフォンで運賃を支払うことができたり、3Gや4Gだけでなく、車内でWi-Fiが利用可能な交通機関が増えたりしたことも一因だ。

アメリカにおけるモータリゼーションの始まりが第一次世界大戦以後とすれば、自動車に依存しないライフスタイルへの変化は、歴史的にも大きな文化や価値観の変化といえるのではないだろうか。

公共交通機関を使いたい従業員が増えれば、オフィスのロケーション選びのポイントも変化するだろうし、他社との打ち合わせ場所の選び方にも、駐車場ではなくて、駅やバス停からの距離などを考えるようになる。駅の近くでの買い物が増え、一度に買う量は手で運べる分量に制限されるようになるか、宅配の利用が増えるようになる。

メールやグループウェア、CRMのモバイル用アプリを使えば、電車やバスでの移動中に仕事をすることは十分可能だし、ニュースやソーシャルメディア、エンターテインメントなどのコンテンツに触れることもできる。環境意識の高まりとも重なって、公共交通機関へのシフトが21世紀前半の大きなトレンドになるのかもしれない。

著者:信國 謙司(のぶくに・けんじ)

NTT、東京めたりっく通信、NECビッグローブなどでインターネット関連の事業開発にあたる。現在はビジネスアーキテクツ社にてモバイルヘルス分野の新事業立ち上げに従事。同志社大学ビジネススクール嘱託教員として「技術開発と事業化戦略」を担当している。