2014/01/16

無人宅配ヘリはオーストラリアの空を舞うか

宅配便といえば、トラックで荷物を届けるほか、バイク、自転車、最近では手押し車や、自転車の後ろにつないだリヤカーが使われるが、いずれにしても道を通って人間が運んでいる。地図上の2点を結ぶ最短距離を進むことはできないし、渋滞もするから時間がかかり、配達する人の人件費もかかる。

オーストラリアで教科書のレンタル業を営むスタートアップ企業、Zookalが無人機(ドローン)メーカーのFlirteyと組んで、教科書を無人機で空輸するサービスを計画している。早ければ、来春にもシドニーの空を飛ぶ教科書宅配の無人ヘリを見ることができるかもしれない。

大学の教科書は重く、使う期間が短いのに高額だから、古本が流通する。良き先輩の使った教科書が手に入れば、試験に役立つアンダーラインや書き込みも安価に手に入る。古本を販売するのではなく、貸本にすれば、学生にとっては売買の手間はなく、借りて返すだけになる。ただし、重たいので配達するとなると送料が高額になってしまう。本や水など重たい物には宅配が便利なのだが、高い送料を負担するとなると消費者側が二の足を踏んでしまう。

そこでZookalは、既存の宅配事業者の送料を受け入れることができず、ドローンによる配送を行うことにした。オーストラリアは2002年に無人機に関する法律を定めており、ドローン技術の民生利用には理解のある国と目されている。メルボルンの消防隊の緊急無人偵察機など、50余りの事業者がすでにライセンスを得ているが、CASA(民間航空安全公団)がZookalの宅配事業を承認するかどうかはまだ不明だ。同社は2014年にシドニーでサービスを開始し、2015年にはアメリカへの進出を目論んでいるとのことだ。運ぶ物も教科書から食品や飲料、救命用品(ライフベストなど)や輸血用血液などへ広げていくプランがあるとのこと。

Zookalのドローンは2キログラムの荷物を運ぶことができる。ドローンの多くは遠隔操作で飛行するが、Flirteyのドローンは遠隔操縦に加えて自律的に鳥や建物などを避けながら飛ぶ衝突回避技術を持っている。飛行高度は122メートル以下だが、人にはぶつからない高さを飛ぶそうだ。利用者のAndroidアプリから導き出したGPSの座標に向かって飛び、目的地に着くと3メートルの高さでホバリングしながら荷物の教科書だけを吊り下ろし、利用者が受け取ってコードを引くと荷物を離して高度を上げ、帰還するらしい。危険を理由に任意の場所に届けることが認められない場合には、公園など、受け取ることのできる場所を限定することで認可を受けるという案もあるようだ。

オーストラリアでは、当日配送の宅配便の送料は29.95ドルにも達するが、ドローンを使えば2.99ドルに抑えることができ、コストメリットは十分にあるという。もちろん、配送時間も短縮できる。電柱と電線、電話線が張り巡らされた日本では、なかなか難しいかもしれないが、もしかしたら近い将来、ビルの屋上でピザを受け取る日が来るかもしれないと想像すると楽しいのではないだろうか。

著者:信國 謙司(のぶくに・けんじ)
NTT、東京めたりっく通信、NECビッグローブなどでインターネット関連の事業開発にあたる。現在はビジネスアーキテクツ社にてモバイルヘルス分野の新事業立ち上げに従事。同志社大学ビジネススクール嘱託教員として「技術開発と事業化戦略」を担当している。