2014/01/08

ウエアラブル・テック・エクスポ 現地リポート2

ウエアラブルコンピュータの代表格といえば、やはりGoogle Glassだろう。2013年12月10日~11日に米国ロサンゼルスで開催されたウエアラブル・テック・エクスポでも、Google Glassを使った新しいサービスや商品のアイデアが提案され、注目を浴びた。

LynxFitの画面表示例(LynxFit)

LynxFitを開発したセシリア・アバディ氏

カリフォルニア州在住のソフトウェア開発者のセシリア・アバディ氏は、「LynxFit」というグラス用のフィットネス・アプリを開発した。

Google Glassを装着し、例えば「初心者レベル」のエクササイズを選ぶと、「スクワット25回」などというメニューが出てくる。画面には人型のアバターが表示され、その身体の動きに合わせて同じように膝を曲げてスクワットをすると、グラスが音声と画面に表示された数字の両方で回数をカウントする仕組みだ。「もっと低くしっかり」などの音声も時々聞こえる。実際に体験してみたが、パーソナルトレーナーと一緒に運動している気分になれるアプリだ。現在、Google Glass使用者の中からこのアプリのベータテスターを募っているところだ。

ウエアラブル業界では、フィットネス関係は特にドル箱になると見られており、ソフトウェア開発面でも競争が激化している。アバディさんはこう言う。

「1日15分運動をすれば身体にいいと分かっていても、実行するのが一番難しい。そんな時、グラスをかけて、目の前に具体的なトレーニングメニューが出てきて、カウントダウンされれば、ゲーム感覚で運動ができるから、やらされ感がなく楽しめる」

実はアバディさんは、全米で初めて、Google Glassを装着して運転中に警察官に止められ、違反切符を切られた話題の人だ。

「運転中は電源をオフにしていたし、私は1日中グラスをつけているので、警察官に指摘されるまで着けていることに気づかなかったぐらい。グラスは必要な時のみオンにできるハンズフリー端末だから、むしろ運転中にこそ利用価値があると思う。例えば、テキストメッセージを受信しても、それを音声にして読んでくれるから、スマートフォンや、車備え付けのナビ画面を見るより、ずっと安全なはず」

スパイダードレスとスモークドレス(Anouk Wipprecht)

また、エクスポでは、ファッションとテクノロジーの融合も注目された。オランダ人アーティストのアヌーク・ウィプレチェット氏は、センサーを駆使した「スパイダードレス」を創作した。ドレスを着ている人のパーソナルスペースに誰かが近づき過ぎると、ドレスの肩の部分から尖った鋭い触覚が伸びて相手を撃退する仕組みだ。また、タコが敵に向かって墨を吐く行動からヒントを得て、「スモークドレス」も作成した。

アヌーク・ウィプレチェット氏

彼女はこう言う。

「動物園でサルの隣に座ってみて、どの時点でサルが逃げてしまうか自分で試すうちに、パーソナルスペースのアイデアが湧いた。人や動物が集団の中でどう行動するかに興味がある。モデルに一方的に服を着せるのではなく、モデル自身が自分の行動をコントロールできる主役になれる服という意味も込めて創作した」

また会場のブースでは、ウエアラブル機器そのものではなく、業界のニッチ分野で躍進する企業も目立った。

Clothing Plusというフィンランドの企業は、心臓の動きをモニターするバイオセンサーなどを布地に縫い付ける技術に特化し、中国に生産拠点を持つ。センサーは自社では作っていない。ヨガウェアメーカーのルル・レモンや、スポーツ製品メーカーのアディダス、GPS機器メーカーのガーミンなどをクライアントに持ち、企業が開発したセンサーを各社のウェアに縫い込み、大量生産する作業のみを担当しているのだ。

Clothing Plusのミコ・マルミバラ氏。身に着けているのが、同社がセンサーを縫い付けたベスト

「50回洗濯してもセンサーが働くように縫い付けるのがウチの技術。例えば、フィリップスのセンサー付きベストは、身体の体液の流れを自動測定し、心臓発作が起こる前にその兆候をモニターして警告する機能がある。つまり、心臓発作で死亡するケースを減らすのに貢献できる。センサーがしっかりベストに縫い付けられ、身体にフィットしていないと、体液測定に誤差が生じるから、非常に重要な役割」と言うのはマネージャーのミコ・マルミバラ氏だ。

大手メーカーにとっては、大きな市場が見込める医療・フィットネス部門のウエアラブル機器。センサー付きの衣料をいかに安く、高品質で大量生産できるかが大きな課題だけに、同社のようなメーカーではないニッチ企業にも、ビジネスチャンスがあるわけだ。

次回のウエアラブル・テック・エクスポは2014年3月に東京・六本木の東京ミッドタウンで開催される予定だ。

取材・撮影:長野美穂