2014/01/07

ウエアラブル・テック・エクスポ 現地リポート1

ウエアラブル・テック・エクスポでの講演の模様

「ウエアラブル・コンセプト1」を耳に着けたPlantronics PLTラボのキャリー・ブラン氏

ウエアラブル機器市場が急速に拡大する米国のロサンゼルスで、2013年12月10日~11日に「ウエアラブル・テック・エクスポ」が開かれた。注目を集めるウエアラブル技術だが、スマートセンサーなどを駆使し、ユーザーがまだ体験していないワクワクするような新しい未来をどんな形で提供できるのかが大きな課題だ。

装着状態を感知するセンサーを備えたBluetoothヘッドセット「Voyager Legend」を売り出しているカリフォルニア州サンタクルーズのPlantronics 社のPLTラボは、現在開発中の「ウエアラブル・コンセプト1」の機能をこのエクスポで披露した。

見た目は地味な黒色のBluetooth端末だが、これを耳につければ、地磁気センサー、加速度センサー、そしてジャイロセンサーの3つのセンサーで、頭の動きを自動的に3次元で計測してトラッキングする。そのデータがリアルタイムでスマホに送られる。

これをGoogleマップのストリートビューと連携させると、端末をつけた本人が今、見ている方向をシェアできる。

「例えば友人がセントラルパーク内で道に迷っていたとして、彼がこの端末をつけていれば、離れた所にいる僕のスマホの画面で、彼が見ているものがはっきりと見られる。だから『その先の角を右に曲がると通りに出るよ』などとアドバイスできる」と言うのはPLTラボのイノベーション・ディレクターのキャリー・ブラン氏。

また、スーパー内で特定のブランドのビスケットを探していて見つからない場合、そのスーパーに詳しい友人のスマートフォンと情報をシェアするれば、「その隣の棚の上の方にあるはずだよ」などと遠隔から教えてもらえる。

また、会議出席中に電話がかかってきた場合、端末がそれを察知して本人にシグナルを送るが、もし電話に出られない状態なら、頭を横に振るジェスチャーをするだけで、留守番電話サービスに自動的につなぐことができるという。自動車の運転中に居眠りしてしまった場合などは、頭がガクンと下に下がると、それをセンサーが感知して、警告シグナルを送ることも可能だ。

Google Glassのように身に着けていることが目立ってしまわず、カメラ機能もないので、混んだ電車の中などで装着していても周囲に違和感を抱かせない。

PLTラボは、現在開発しているこのコンセプト段階の端末「ウエアラブル・コンセプト1」本体とそのAPIをすでに開発者に公開している。ウエアラブル端末を使い、どんな面白いソフトウェアが開発されるかに今後の市場拡大の是非がかかっているだけに、メーカーは開発者たちの好奇心を刺激するために尽力しているのだ。

エアギターアプリ「Metalhead」を開発したアダム・スミス・キップニス氏

先端を行く開発者のひとり、アダム・スミス・キップニス氏は、このPlantronicsのプロトタイプの端末と手のジェスチャーを検知する手袋を使い、エアギターのiPhoneアプリ「Metalhead」を開発した。耳にこのコンセプト端末をつけ、ロックミュージシャンのように頭を激しく振ると、それに合わせて音が流れ出し、まるでライブ演奏しているように見える。iPhoneの代わりにiPadを肩から吊るせば、より「ギター」っぽく見えるのもポイントだ。

この開発で、シアトル・インタラクティブ・カンファレンスのハッカソンで優勝したキップニス氏は言う。

「僕のような開発者にとって、開発中の製品のAPIのデータがすぐ手に入ることはありがたいし、Google Glassのように存在を主張しすぎない端末であること、頭の動きをトラッキングできる機能があることに開発心を刺激されたんだ。頭を激しく振っても耳から端末が落ちないことが大前提で、それも満たしていたからうまくいったんだけどね」

ウエアラブル機器の性能面や価格面での競争だけではなく、いかに優秀な外部のソフトウェア開発者たちを自社のコミュニティーに誘い込めるかが鍵だけに、メーカーと開発者の共同開発は今後も加速しそうだ。

「頭の位置をちょっと動かすだけで、例えばクルマの3Dレーシング・ゲームができるような、そんなゲーム市場の開発も期待しているところだ」とブラン氏は言う。

ウエアラブル端末メーカーにとって、現在一番の課題は、バッテリーの寿命をどう長くできるか、だという。一般にBluetooth端末は毎日の充電が面倒くさいために、着けるのをやめてしまうユーザーが多いからだ。

「16時間ノンストップで端末を着けたまま、あらゆる機能を使えるようにするのが理想だけど、そこまでいくのが難しい。10時間を超える使用にどう対応するかが課題」とブラン氏は言う。

取材・撮影:長野美穂