2022/03/25

スマホのリチウムイオン電池からの出火を防ぐには?安全な取り扱い方法をスマホのプロが解説


スマホのリチウムイオン電池からの出火を防ぐには?

東京消防庁によると、近年、スマートフォンやモバイルバッテリーなどに広く使われているリチウムイオン電池が出火するケースが増えている。その東京消防庁による2021年11月の報道発表をうけ、KDDI・ドコモ・ソフトバンクは、スマートフォンをより安心・安全にご利用いただくための情報を発信している。

このリチウムイオン電池取り扱いについて、注意すべき点は何か。いったいどんなトラブルが多いのか。よくある事例とそれに対する対処法について、KDDIでスマホの品質を管理する担当者に話を聞いた。

KDDIのスマホ品質管理担当者 KDDI プロダクト品質管理部 桑田 卓哉

【目次】

リチウムイオン電池による主な火災の原因は?

桑田:私たちスマホの品質管理部門では、お客さまからの申告で発火・発煙事象を調査することがありますが、明らかな外部要因によるものがほとんどとなっています。

・非常に強い荷重や落下衝撃を受けた痕跡があるもの
・分解しようとしてリチウムイオン電池を損傷させてしまったもの
・電子レンジなどの過熱調理機器に入れられた痕跡があるもの
・ペットの噛んだ痕があるもの

桑田:リチウムイオン電池の状態は、スマホ本体に内蔵されているため直接見ることができずわかりにくいですが、非常に繊細な部品ですので、強い荷重や衝撃などで電池内部がショートを起こすと、発煙・発火につながる可能性があります。

■リチウムイオン電池の発火・発煙につながる、やりがちなスマホのNG行動例

①スマホに強い力や衝撃を与える(高所からの落下、踏みつけ、投げつけ、挟み込み)
②ペットなどがスマホに噛みつく
③濡れたスマホをドライヤーや電子レンジで乾かす
④コンロ、ストーブなどの火のそばに置く
⑤スマホを分解する

外部からの力を受けたスマホ内部のリチウムイオン電池への影響

―――確かにリチウムイオン電池はスマホ内部にあるので目で見えないぶん、外からは状態がわかりにくいですね。また、外部損傷があってもスマホが使えていれば、ついそのまま使いがちになりそうですが、やはり危険なのでしょうか。

桑田:リチウムイオン電池内部ではショートが発生するかしないかのギリギリの状態が続いている場合もあるので、衝撃を受けてしばらく日数が経過してから発煙・発火が発生するケースもあります。実際にどれくらいの加圧で凹みが発生するのか、実験してみましょう。

■実験内容:直径10mmの金属棒によるスマホへの加圧試験
傘の先やハイヒールのかかとなど、先が細いもので強い応力をかけてしまった場合を想定し、評価用スマホの裏側より、加圧試験機にて100kg、150kg、300kgの静的荷重をかけ、どのような加圧にて明らかな凹みが発生するかを確認する。

KDDIのスマホ品質管理部がモバイルバッテリーの加圧実験に使った加圧試験機

・加圧については、正確にはkgではなく、kgf(1kgf=1kgの質量が地球上で受ける重力の大きさ)で実験。
・安全性を考慮し、本物の電池ではなく、力を加えた時の凹み方がリチウムイオン電池に比較的近い「疑似電池」を作成し、そちらを使用。
・疑似電池については、樹脂製の内蔵リチウムイオン電池の形状をしたもので、電池としての機能は無し。
・疑似電池をリチウムイオン電池と入れ替えた「実験用スマホ」で実験。

※リチウムイオン電池に強い荷重をかけた場合、電池が燃える可能性があるため、今回は専門家のもとで疑似電池を用いて実験を行いました。他の部品の破損による怪我などの危険性もあります。絶対に真似をしないようにお願いいたします。


KDDIのスマホ品質管理部がモバイルバッテリーの加圧実験に使った樹脂製の疑似電池 疑似電池(内蔵リチウムイオン電池と同じサイズで作成)

KDDIのスマホ品質管理部がモバイルバッテリーの加圧実験に使った加圧試験機 加圧試験機

■実験結果

KDDIのスマホ品質管理部が行ったモバイルバッテリーの加圧実験結果 スマホの加圧をかけた面(背面カバー)の凹み発生状況

―――荷重をかけた背面カバーが凹んでいますね。

桑田:背面カバーが凹んだ分だけ、疑似電池が凹んでいたものと推定します。加圧試験機の加圧と凹みのデータをグラフにしたものを見てみましょう。このとおり100kgの加圧で、0.8mmくらい電池が凹む可能性があります。

KDDIのスマホ品質管理部が行ったモバイルバッテリーの加圧実験結果グラフ

―――どれだけ凹んだら危険なのでしょうか。

桑田:目視で判別できる凹みがあれば危険だと考えます。今回の実験ですと、100kgほどの加圧で背面カバーが見てわかるくらい凹みました。お客様からの申告で「リチウムイオン電池が燃えた」というスマホの現物を確認すると、その多くはスマホ外観に目で見える凹みがあるものです。また「100kgかからなかったら大丈夫」ということではありません。「ペットが噛んだ」など、もっと小さい力で凹んだという例もあります。

特に今回の実験のように先の細く固いもので押した場合、荷重がピンポイントでかかります。今回は疑似電池で実験しましたが、本物のリチウムイオン電池は非常に精密な構造になっており、シート状の+(正極)と-(負極)の間を、非常に薄い膜で絶縁した状態で、隙間なくグルグル巻きになっています。絶縁膜が痛んだら短絡し、熱や発火の可能性が出てきますので、強い荷重がかからないようにお気をつけください。

リチウムイオン電池の構造イメージ リチウムイオン電池の構造イメージ

桑田:また、今回の実験では300kgの荷重をかけても、電池以外の内部の基板や液晶などは壊れていませんでした。ただしリチウムイオン電池は、加圧後すぐに事象が発生せず、電池の充放電を繰り返したあとに化学作用が電池内部の変形箇所に働き、絶縁膜が擦れ、発熱・発火する場合があります。

<時間をかけて発火する例>
・意図せずスマホの背面を凹ませるほどの強い応力をかけてしまう。
⇒背面が凹んだものの、スマホは動作しているので使い続けた。
⇒リチウムイオン電池の充放電を繰り返した後に発煙・発火。

桑田:このように実際に、お客様からのご申告で調査した結果、スマホに加圧が加わったあと、日数が経ってから事象が発生したと思われるものが比較的多い状況です。さすがに「スマホに何十キロ分もの力が加わった」という場合は、おそらくお客様もご自身で認識があるものと思います。その際は「大きなキズや凹みがないからいけるだろう」とそのままにせず、できれば修理に出していただくか、ご利用を止めていただけますようお願いいたします。

純正充電器の機能及び安全対策について

―――消防庁のお知らせでは、非純正品の充電器の利用も止めるように案内がありましたが、市販品の充電器は利用しないほうが良いのでしょうか。

桑田:非純正充電器は、スマホ本体の動作の保証ができず、消防庁の発表のとおり、リチウムイオン電池発火の原因になる可能性は否定できません。

■非純正充電器にてモバイルバッテリーを充電した際のリチウムイオンバッテリーの発火(東京消防庁公式チャンネル

非純正充電器にてモバイルバッテリーを充電した際のリチウムイオンバッテリーの発火(東京消防庁公式チャンネル)

桑田:私たち通信キャリアが販売している純正/公式の充電器は、メーカーさまと協力し、検査を重ね一定の安全性を確保しております。色々な安全対策を施した、通信キャリアが販売している純正・公式の充電器、もしくは「MCPC認証充電器」のご利用を強くお勧めします。もちろん、取扱説明書に記載された、正しいお取扱いをして頂くことが大前提です。

―――MCPC認証とはどんなものでしょうか。

桑田:モバイルコンピューティング推進コンソーシアムの略で、通信会社やスマホメーカー、スマホ周辺機器製造メーカーなどが連携して組織する、高度モバイル&IoT活用の実現を目的とした組織です。このマークがある製品は、MCPC所定の試験に合格した製品ですので、市販品を選ぶ際にご参考ください。

■各通信キャリア販売の純正充電器やMCPC認証品の安全対策

MCPC認証充電器の安全性能

①通信影響対策:スマホ/タブレットへの通信影響を抑えるよう設計されています。
②異常温度対策:プラグやアダプタ内部に温度検出機能を搭載し、温度異常を検知した場合、被害を最小限におさえるため充電を停止します。
③過電流保護機能:負荷電流が過電流検出値(機種により異なる)より多く流れようとした場合、保護機能が働き出力電流を停止します。
④PPS機能:電圧/電流を状況に応じて動的に調整することで電池の発熱を抑え、ムダなく短時間で充電することができます。

MCPC認証とは

スマホのリチウムイオン電池による火災を防ぐには

これらの内容を踏まえ、スマホ品質管理者の観点から見た「スマホのリチウムイオン電池による火災を防ぐ方法」についてまとめよう。

・明らかに大きな衝撃が加わった場合は使用を止め、メーカー修理に出す
・スマホを分解しない
・濡れても電子レンジで乾かさない
・膨張、異音、異臭など異常を感じたものは使用せず、修理に出す
・充電時は非純正品の使用をせず、純正/公式の充電器を使用すること
・廃棄の際は通信会社のショップ、もしくはメーカーや事業団体が回収するリサイクルへ

春先は乾燥が続き、火災が多い時期でもある。この記事の内容を参考に、正しいリチウムイオン電池の知識を知り、安全なスマホとの生活を送ってほしい。



文:KDDI プロダクト品質管理部、TIME&SPACE編集部
写真:KDDI プロダクト品質管理部