2018/06/25

イヤホンジャックに水が入っても大丈夫?『防水スマホ』の仕組みと必要性を徹底解説

海にプールに、ビヤガーデン……。なにかとスマホが“水”に触れる機会の多くなるこれからの季節。だからこそ安心のスマホ防水機能だが、正直なところ、スマホの防水機能についてきちんと理解している人はそう多くはないだろう。

「国内メーカーでは当たり前になっているスマホの防水機能ですが、実は防水機能付きのスマホは世界的にはレアな存在なんです。もちろん、海外メーカー製のスマホにも防水機能付きのものはありますが、最上位モデルなどごく一部に限られています。スマホに防水を施せば当然、構造が複雑になりサイズも大きくなる。また開発のコストもかかりますからね」

解説してくれるのは、KDDI商品企画本部の上杉直仁。防水スマホの商品開発から、現在ではスマホの品質管理に従事している、いわば「防水スマホのスペシャリスト」。今回は、上杉と、同部署の防水スペシャリストである長谷川 隆の2人に防水スマホのしくみ、正しい扱い方について聞いてきました。

上杉「「せっかくの防水機能ですが、誤った使い方をされるケースも多く、正しく使わない限りその能力は発揮できません」」

KDDI プロダクト品質管理部 品質管理グループの上杉直仁と長谷川 隆 お話を伺ったプロダクト品質管理部 品質管理グループリーダーの上杉直仁(右)と長谷川 隆(左)

そもそも防水スマホの仕組みは?

精密通信機器であるスマホが水に弱いことは誰でも想像できる。いったいどのような仕組みでスマホは防水できるのだろう?

長谷川「「突き詰めると、主に動きのある場所に使われ、異物の侵入することを防ぐ部品“パッキン”に行きつきます。水道の蛇口などにも使われていて、もっと目につくところでは、冷蔵庫のドアのフチに付いているゴム状の柔らかい部分なんかもこれですね。

スマホでは電源ボタン、音量調整ボタン、SIM/SDカードのトレーキャップ、バッテリーが外せるタイプでは当然フタにもパッキンが付いています。その性能を生かすためにキャップ、フタを閉める際、髪の毛一本でも防水に影響するため、付着したゴミを取り除いて、全体を均等な力でしっかりと押し込むことが大切です。購入から2、3年経過するとパッキンの材質が劣化してきますので、普段から水濡れリスクが多い方は特に使用頻度の多いキャップやバッテリーのフタなどの交換をおすすめします」」

TORQUEの防水の構造 防水スマホで名高い「TORQUE」の内蓋を開けると、そこかしこにパッキンがあることがわかる

なお、動かすことのない画面ガラスや、カメラレンズなどの隙間については接着剤や、両面テープなどで密封されている。いずれも地味な存在ながら、防水の要となる部品だ。

気になる「穴」。むき出しイヤホンジャックはなぜ平気?

微細な隙間もみっしり埋めてくれるパッキン、そして接着剤やテープが防水の要のようだ。しかし、スマホには微細な隙間どころか、イヤホンジャックやスピーカー、マイクの「穴」があいている。水は入り放題に思える。

長谷川「「たとえばスピーカーやマイクの部分のスリットを通してよく見ると、布のようなものが貼ってあります。これは防水透湿膜という、水は通さず、空気は通す特殊な素材で、内部に水を侵入させないようになっているんです」」

スマホの防水透湿膜のイメージ スマホのスピーカーやマイク部分に使用されている防水透湿膜のイメージ図

では、イヤホンジャックやUSBポートなどその他の穴についてはどうなっているのだろう?

長谷川「「これらの穴には、水が抜けやすい工夫こそしていますが、水は入ってきます。その代わりに、穴の奥に防水用の隔壁という特殊な構造を採用しており、電気的な信号は本体内部エリアと繋がっているにも関わらず、水だけは侵入できないようになっているんです。徹底的に防水処置の施された本体内部エリアとはパッキンや接着剤などを駆使した壁で隔てられていて、『濡れてもOKなエリア』『内部に見えて実は外部に相当するエリア』となっているんです」」

ちなみに、防水浸透膜は水を防げても水蒸気は防げないため、スピーカーの部分も隔壁によって本体内部とは隔てられている。防水スマホとは、このような構造で内部の精密機器を水から守っているのだ。

濡れてもOK使うのはNG!? 防水スマホ

だからといって「なるほど! ならば濡れたままでも充電できるのか」と早合点は禁物だ。次に、具体的な「防水スマホの正しい扱い」についてまとめてみよう。

■海でプールで濡れても大丈夫? ……対処方法は?

そもそも各メーカーが「防水」をうたう根拠となっているのが、国際的に決められた電気機器の保護性能を表した規格。「IP●」なんて表記を見たことのある人もいるだろう。

スマホの防水等級 防水には水滴から水道から流れる噴流の強さなど、等級によって定められている

この規格の防水性能には0〜8の等級があり、数字が大きいほど水が侵入しにくい構造となる。低等級で担保されるのは、ちょっとした水しぶき程度。特に明確な決まりはないもののスマホで「防水」をうたうのは、一般的に5級以上。

「防水」といっても、そこは限界があり強い水流を当てようが、どんなに深く水没させようがOK、というわけではないのだ。

また防水の「水」の文字にも注目。ここでの水とは、一般的な水道水、真水のことであり、それ以外の「水っぽい液体」は当然ながら該当しない。

たとえば塩を含んだ海水や、水道水よりも塩素濃度が高いプールの水はNG。ほか、化学薬品、ビールや酒がかかった状態のままにするのもダメ。

問題は水以外の物質がパッキンや金属端子を腐食・劣化させることなので非防水スマホのように即壊れることはなくても、防水性能の寿命を確実に縮めてしまうのだ。

そうした場合の対処方法は、まず勢いを抑えた静かな水流の水道水で洗い流すこと。そして柔らかい布などで水滴を拭き取ったあとは、そのまま十分に自然乾燥させることにつきる。

スマホにジュースをこぼす

■お風呂での使用はOK?

「防水スマホ」は水道水なら防水OK!
では、お風呂での使用はどうだろう? 防水規格にあるように、しぶきがかかることや、軽く浸すことに比べてシャワーなどの強い水流が当たることはより「防水」が難しい。また、石鹸やシャンプーなどの洗剤類もパッキンにダメージを与えるだけでなく、先程の防水浸透膜を目詰まりさせる原因にもなりかねないようだ。

長谷川「「ここがポイントなんですが、『水に濡れてもOK』ではあっても、『水に濡れたまま使ってもOK!』とは言い切れない部分もあります。基本的には問題ありませんが、例えば、キーを押したりする動きが加わることによって、防水性能へのリスクが高まるケースもあります」」

それでも「特に操作などせず流しっぱなしの動画をみるだけ」といった使い方であれば、念のためジッパー付きの保存袋などで防水すれば大丈夫。

ただし、スマホを急激な温度変化にさらすと本体内部が結露し、出来た水滴による故障を招くこともある。いくら外側からの水を防いでもこればかりはどうにもならないので、注意が必要だ。

■雨で濡れたポケットにスマホを入れておくと……?

防水が役に立つのは、なにもお風呂やプール、水仕事といったシーンに限らない。たとえば突然の雨で濡れる、なんてこともある。

では、雨でじっとり濡れたポケットにスマホを入れておくとどうなるのか? 実は雨には、水のほかにも空気中のチリやさまざまな化学物質も溶け込んでいる。つまり、防水でいうところの「水」ではないので、これはアウト。

また、雨に限らず汗で蒸れたポケットもスマホにはよくないとのこと。汗には水分のほかに塩分も含まれているので、水滴よりも実はパッキンの劣化を促す可能性が高いためだ。

防水スマホを濡らしたその後のケアは?

■スマホをドライヤーで乾かすのはアウト!

濡らしてしまったスマホ。「濡れたままで使えないのであれば、急いで乾かすしかない!」と、ドライヤーで乾かすのは、実はアウト。温風で熱が加われば、中の機器に直接ダメージを与えかねないし、熱で部品が変形して隙間ができれば当然、防水はできなくなってしまうのだ。

防水スマホの正しい扱いとは、海水などがかかった場合の対処と同じように、まずは柔らかい布などで水滴を拭き取り、十分に自然乾燥させることにつきるのだ。

スマホの端子内部の構造 スマホの端子部の汚れは充電の際ショートする原因になることがある

■完全に乾燥した状態まで電源はなるべく落とすようにする

濡れたスマホを自然乾燥。そんな時にも、LINEやメールはどんどんやってくれば気になるというもの。だが、電気回路のショートを防ぐために電源は乾燥しきるまで落としておこう

特に注意すべきなのが、濡れたままでの充電だ。スマホの充電時には大きな電流が流れるため、機器の損傷はもとより、使用者が感電する重大事故につながる恐れもあるので絶対に避けるべき。

濡れる可能性のある水回りで充電するのも絶対にNGだ。

水回りでスマホの充電は厳禁

以上のように、防水機能には「意外と制約が多い」。しかし、正しい使い方さえ知っていれば、もしものときに心強い機能であることに違いはない。

防水機能付きスマホだからと「濡れる」ことに対して無頓着にならず、むしろしっかりと出来ることで出来ないことを理解するのことが大切なスマホを長持ちさせるポイントとなるのだ。

上杉「「今日お話をした内容の大部分は、実は説明書にも書いてあります。機種によっては防水できる範囲も変わるのでぜひお時間のあるとき目を通してみてください」」

これからの季節、水に濡れる場面が多くなりますが、正しい使い方でスマホライフを楽しんでくださいね!

文:のび@び助