2018/03/13
遠隔操作の無人建機で災害復旧! 建設業界の課題を解決する『au 5G通信』の実力
「ウォォン、グォォーン、グォォォーン!!」
巨大な音を立て、ショベルカー(バックホウ)が動き出す。普段は遠くからしか見る機会のない建設機械(以下:建機)だが、勢いよくアームが動く様子を至近距離で見ると、思わず後ずさりをしそうな迫力がある。
ところでこの建機、一般的な工事現場にあるものと異なる点があることにお気づきだろうか?
そう、操縦席に人が乗っていないのだ。
こちらはKDDI、大林組、NECの三社が共同で行った「5G通信を活用した建機遠隔操作の公開実験」の様子。この実験は国内で初めて、次世代移動通信システム「5G」と「4K3Dモニター」を活用して、建機の遠隔操作に成功した事例である。操縦席は無人にもかかわらず、アームは正確な動きで作業をこなしている。
実験の目的は、「災害現場など危険な場所での活用」だ。
遠隔操作が災害復旧にどう役立つ?
近年、日本では地震や台風による災害が増えているが、災害直後は二次災害の恐れがあるため、復旧作業が困難になる場合がある。そんなときに遠隔操作で建機を無人で操作できれば、安全に復旧活動を行うことができる。
そもそも建機の遠隔操作は、1991年に起きた雲仙・普賢岳噴火の災害復旧工事をきっかけに研究が進められてきた。今回、実験を行う大林組は、2016年の熊本地震で被災した熊本城の石垣復旧事業において、建機の遠隔操作により崩落した石を回収した実績がある。
現状は無線LANを活用して建機の遠隔操作を行なっているが、搭乗操作と比べると作業効率が50~60%程度に低下すると言われている。建機に設置したカメラからの映像が低解像度であるため、距離感覚がつかみにくく、作業に時間がかかるからだ。そこで有効なのが、解像度の高い映像を低遅延で送ることができる次世代移動通信システム「5G」というわけである。
5Gを活用して現場の映像を操作室へ送る
5Gとは2020年を目途に実用化を目指している次世代移動通信システムだ。4G回線と比べて、以下のような高いスペックになるという。
- ・通信データ量が20倍(高速・大容量)
- ・データのタイムラグが1/10(低遅延)
- ・同時につながるデバイスは10倍(多接続)
実験では、高精細な4Kカメラを2台、現場周辺を俯瞰できる2K俯瞰カメラを2台、2K全天球カメラ1台を建機に取り付ける。カメラからの大容量データは5Gを活用して、現場から離れた遠隔操作室へ送られ、オペレーターが遠隔操作を行うのだ。
“クレーンゲーム”さながらに建機を遠隔操作
今回の実験では、「従来方式の低解像度のカメラ」と「5Gによる4K3Dモニター」を使ってコンクリートブロックの積み上げ、その時間を計測する。遠隔操作室と建機の距離は約70mある。
遠隔操作を行うのは熟練の作業員だ。現地で行う操縦とは異なり、遠隔操作では手元のレバーを1㎜動かすだけで、現場のアームが大きく動くというから、緻密な操縦が要求される。
遠隔操作室ではこのように現場の作業風景が複数のモニターに映し出される。
写真左上から「俯瞰カメラ①」「全方位カメラ」「俯瞰カメラ②」。2つの俯瞰カメラでクレーンと資材の位置を確認し、全方位カメラで周囲の安全情報を確認する。従来の方式ではこれらの低解像度の映像を頼りに作業を行っていたため、遠近感が掴みにくく、クレーンの位置が把握しきれないのでミスも多かったという。
俯瞰カメラモニターの下にあるのが4K3Dモニターだ。こちらは4Kカメラ2台の映像を合成して、裸眼でも立体視できる高精細な3D映像だ。
クレーンの動きが3Dで表示されるので、手前や奥の距離感を感じ取ることができ、操作もしやすい。解像度も格段に上がっているため、画像もより鮮明だ。
一方、現場では無人の建機がコンクリートブロックをスムーズに移動させている。その様子をモニター越しに見ていると、まるで“クレーンゲーム”のようだ。
巨大な建機はアームを動かし、重さ約300㎏あるブロックを器用に掴んでいく。遠隔から操作されているとは思えないほど正確な動きだ。ミスすることなく、無事に3つのコンクリートブロックを積み上げることに成功した。
今回は「従来方式の低解像度のカメラ」と「5Gによる4K3Dモニター」の両方のデモンストレーションが行われたが、「5Gと4K3Dモニター」による遠隔操作では、従来方式に比べて、15~25%の作業効率が改善された。実際の実験風景を動画でご紹介しよう。無人の建機がスムーズに動く姿は驚きだ。
ひとつの操作室で世界中の建機を遠隔操作できる時代に
最後に、実験による5Gの可能性について大林組技術本部技術研究所の上級主席技師、古屋弘さんに話を伺った。まず気になるのは遠隔技術の距離。5Gではどれくらい遠方まで操作ができるのか?
「従来の遠隔操作では、現場から約2㎞以内に操作室をつくる必要がありました。でも、5Gなら任意の場所にある操作室から、日本の各地で遠隔操作を実現できる可能性があります。たとえば、東京の遠隔操作室から熊本の建機を動かして復旧作業を行うことができるんです。理論上は中継基地をつくれば、地球の裏側からでも操作できます」
この技術は遠隔操作装置を取り付けるだけで操作できるので、今回のショベルカー(バックホウ)だけでなく、ダンプカーやブルドーザーなどにも応用できるという。
一方、災害への対応以外に実験の意図があると古屋さん。
「災害はもちろん、建設技能者の高齢化や人材不足への対応という側面も大きい。遠隔操作のシステムが確立できれば、操作室から全国の建機を操縦でき、作業効率アップに役立つはず」
建設業界では、作業員の高齢化に伴い熟練の建設技能者が減少しているが、遠隔操作が容易になれば、熟練の技術がなくても多くの人が建機を操作できる。従って専門的な作業の効率化やスキルの維持にも一役買ってくれるはずだ。
「ほかにも、オペレーターが粉塵の多い場所や臭気のある場所に行かなくても済むことから、悪条件から建設技能者を守り、担い手不足の解消にも役立つと考えられます。5Gを使った遠隔操作は日本の建設業界や災害復旧を大きく変えていくはず。2020年に実現した暁には、いち早く導入を進めていきたいですね」
災害時の安全な復旧作業や、建設業会の労働力不足といった社会問題を、建機の遠隔操作で解決できる可能性がある。その裏側を5Gの通信技術が支えているのだ。
文:鈴木雅矩
写真:稲田 平