2017/07/11

なぜ高度10,000フィートでスマホがつながる? JALの機内Wi-Fiが無料化したので聞いてみた

ずいぶん前から機内Wi-Fiをサービスとして提供してきた日本航空(JAL)。ええ、とてもお世話になってます。そのJALから、この6月になんともステキな発表があった。もともと展開してきた「8月末まで無料」というキャンペーンが、今後「ずっと無料」になるというのだ。素晴らしい! ありがとう、JALさん!

・・・・・・でも同時に素朴な疑問がむくむくと湧いてくるのであります。それは非常に単純な疑問。

そもそも高度10,000ftの世界で、なぜWi-Fiがつながるのか。

機内にWi-Fiルーター的なものが設置されているであろうことは想像できるものの、ではそのルーターにはどうやってつながっているのか。この高度でケータイの電波が飛んでいるとも思えません。そんなわけで日本航空さんにお話を聞きに行ってきました。

飛行機のWi-Fiはどこからつながっているのか

お話しを伺ったのは、日本航空 商品・サービス企画本部 開発部 客室サービスグループの柏木友香さん。

日本航空 商品・サービス企画本部 開発部 客室サービスグループの柏木友香

――ここ数年で、旅客機の中でWi-Fiが使えるようになってすごく便利になりました! あまつさえ、ずっと無料とは! 感無量です!

柏木さん「ありがとうございます。日本航空では2014年7月から国内線の機内Wi-Fiのサービスをスタートし、昨年11月にはJALで運航する国内線の77機すべてでWi-Fiをお使いいただけるようになりました」

――なるほど〜。でも疑問があるんです。そもそも飛行機の中で、なんでWi-Fiが使えるんですかね。どこからどうやって飛行機にネットワークがつながっているんですか?

柏木さん「実は赤道上空に静止衛星があって、地上から衛星を経由して各航空機に電波を飛ばしています。」

飛行機の中でWi-Fiが使える仕組み

機内でのWi-Fiは、なんと人工衛星から飛んできた電波を利用していたのだ。JALが国内線のサービスプロバイダとして契約しているGogo社は、JCSAT–5Aという衛星を使って電波を航空機に送っている。「地上から発した電波が人工衛星を経由して飛行機に送られてくる様子」を図にしてみました。ここ重要なので、覚えておいてください。

JALは国内線・国際線それぞれ航空機向けのサービスプロバイダと契約しており、国内線はアメリカのGogo社、国際線ではパナソニックアビオニクス社のシステムを利用している。国内線も国際線も機器は異なるものの、基本的な仕組みは同じらしい。Gogo社によると、衛星は自前のものではなく、日本のスカパーJSAT株式会社と契約し、JCSAT–5Aという衛星を通じてJALの航空機に電波を送っているとのことです。

――確かに、飛行機に電波を送れるのって衛星ぐらいしかなさそうですもんね。

柏木さん「ところが他にもあります。Gogo社がアメリカの国内線で提供しているのは『ATG』というシステムです。“AIR - to - GROUND”の略で、これは地上から上空に向けて電波を送って送受信を行う仕組みです。衛星経由から電波を受け取る場合と反対に、飛行機のお腹の部分にアンテナが設置されています! アメリカは大陸で、国内はほとんど地続きなので『ATG』が有効ですが、日本は島国で、国内線とはいえ海上を飛ぶルートも多いので、衛星を介して通信を提供しております」

<ATG方式>

ATG方式

図のように、地上に電波塔を設置して直接、飛行機とやりとりする仕組み。今、Gogo社が北米で提供している「ATG4」では、アラスカを含むアメリカ合衆国、カナダ南部、アラスカを200以上の電波塔でくまなくカバーしているという。残念ながら海上ではこの仕組みが使えないのである。

で、飛行機では衛星の電波をどんなふうに受信しているの?

なるほど、飛行機が衛星から送られる電波をキャッチするのはわかった。でも飛行機って、時速600キロとか800キロとか、結構なスピードで飛んでます。常にきっちりバッチリ電波をキャッチできるものなのだろうか。アンテナとかはどんな仕組み?

――そもそも衛星からの電波を受けるアンテナってどこについてるんですか?

柏木さん「機体上部にあります。下の写真、主翼の少し後ろの機体上部に突起がありますよね。あのなかにアンテナが入っています。レドーム(アンテナのふた部分)をとったのが右の写真の状態です」

飛行機の衛星からの電波を受けるアンテナ

――でも飛行機ってすごいスピードで移動してるじゃないですか。衛星からの電波の受信状況はどうやって安定させているんですか?

柏木さん「写真の青い部分が水平方向に回って、白い部分が縦方向に回って、アンテナが衛星の位置を自動的に捕捉する仕組みになっています。だからどこを飛んでいても、アンテナは常に電波を受信できるのです」

柏木さんによると、JALの機内Wi-Fiサービスは、離陸後約5分から着陸約5分前まで利用できる。離着陸時は機体が大きく旋回することが多く、アンテナが自在に動くとはいえ、通信が安定しない可能性があることから、お客さまに安定したWi-Fi環境を提供するためにも離陸して高度3,000ftに達すると自動的に通信できる仕組みになっているという。

柏木さん「通常の設定では高度10,000ftからWi-Fiが使用できるような仕様となっているのですが、国内線のフライトは大変短いので、少しでも長い時間お客さまにご使用いただけるよう、高度3,000ftからWi-Fiが使用できるようGogo社に専用のソフトウエアを作成していただきました」

アンテナで受信した電波を機内ではどう分配してるの?

さて、上空を高速で移動している飛行機に、無事に電波が繋がる仕組みはわかった。あとはそれを機内に行き渡らせる仕組みだけど・・・・・・。

――僕たちがいつも家で使ってるルーターみたいなものが機内にあるんですか?

Wi-Fiのアクセスポイント

柏木さん「あります。上の写真が機内の天井を開いた様子です。少し見えにくいかもしれませんが、中央の黒いボックスがWi-Fiのアクセスポイントといって、アンテナで受信した電波はこれを通じて、お客さまの端末に届きます。アクセスポイントは、JALの国内線機材では、機体の大きさに応じて3個設置する場合と6個設置する場合があります」

ボーイング777、767、737

JALの国内線の機体は、大きく分けるとボーイング777、767、737の3種類。左のボーイング777は国内線では大型機。最大席数500でアクセスポイントは6カ所。真ん中のボーイング767と右の737はアクセスポイント3カ所。座席数は165〜261席となっている。

アクセスポイントに関して、どの規模の飛行機にいくつ、どの位置に設置するかはGogo社のノウハウに基づいているという。

――やっぱりファーストクラスのほうがよく繋がるとかあるんですか?

柏木さん「そのようなご質問も時々お受けするのですが、たとえばファーストクラスやクラスJのお客さまだけが速いということはありません。お座りのお座席に関係なく、みなさま平等にご利用いただけます。」

JALの国内線機内Wi-Fi接続画面

JALの国内線機内Wi-Fiに繋ぐと、こうした接続画面が現れ(左/PC、右/スマホ用)、リアルタイムでフライトの情報を閲覧できるほか、機内でご用意しているドラマやバラエティ番組などのビデオプログラムを楽しむことができる。

JALの公式アプリ「富士山どっち?」

ちなみにこちらはJALの公式アプリ「富士山どっち?」。路線と便の時間帯を指定すれば、機体のどちら側に富士山が見えるかを教えてくれる。機内Wi-Fi導入以前からあり、あらかじめ「富士山側」を調べて席を予約するお客さまも多いという。

柏木さん「今は機内でWi-Fiが利用できるので、このアプリで富士山が見えるかどうかをチェックし、機内から撮影した写真をその場でインスタグラムやフェイスブックにアップされるお客さまもたくさんいらっしゃって、非常に喜んでいただいています」

そういえば、そもそも飛行機で電子機器ってOKなんだっけ?

実は、国際線では2012年から電子機器の利用は可能になっていた。でも機内での電子機器って、使用可能となるタイミングなどのルール設定が非常に細くて、なんとなく「使えない」というイメージが強かった。そして日本でも2014年9月に航空法の規制緩和が行われ、国内線での電子機器の利用が可能になった。

大きく変わったのは、電波を発しない電子機器(機内モードにした携帯電話とか)は、「飛行機に乗り込んでから降りるまで、ずーっと使ってよい」ことになったという点。この規制緩和により、機内のWi-Fiも大きく発展したのだ。

日本航空 商品・サービス企画本部 開発部 客室サービスグループの柏木友香

柏木さん「国際線は10時間以上のフライトも多く、機内でインターネットの利用実現化は大変重要であると考えております。一方で、国内線のフライトは、短い路線ですと数十分。国際線と比較した場合、そこにお客さまの満足度向上やメリット、実際の利用があるのかという疑問はありました。しかし電子機器、とくにスマートフォンの普及によって“いつもつながっている”という環境が一般的になってきていることが導入のポイントになったのです」

サービス開始の2年半前からベンダーの選定および社内議論を進め、約1年半前には社内で最終決定。Wi-Fiシステムを搭載した初号機は、改修し始めてから実際のサービスインまで約2カ月半を要したという。

一方、航空機の改修に際しては国の認可を得る必要がある。そのために、機体の計器やシステムに異常はないか、機外にアンテナを取り付けたことによって振動が発生しないか、きちんと上空でWi-Fiが機能するのかなどのフライトテストを機種ごとに実施したらしい。

柏木さん「そこから約3年がかりで国内線を運航する全機でWi-Fiサービスがご利用いただけるようになりました。私たちにとっても大変うれしく、お客さまにとってもJALを選ぶきっかけとなればと思っています。今年の2月から国内線の機内Wi-Fi使用無料キャンペーンを展開していますので、JALにご搭乗の際には是非ご利用ください!」

「お客さまに地上で過ごすのと同じように空の上でも安心・快適に過ごしていただきたい」と柏木さん。スマホが生活の一部になりつつあるこの時代、空の上でも地上と変わらずストレスなく過ごしてももらうために実現したJALの機内Wi-Fiサービスの拡充。機内でのWi-Fi接続が可能になっていることを知らなかった! なんていう人も、せっかくなんでぜひ利用してみてくださいね。

文:武田篤典