2016/11/15
勘や経験だけに頼らない! 海洋ビッグデータを活用した『スマート漁業』始まる
漁業は博打と一緒――そんな捉え方をする漁師は少なくないという。特に定置網漁の場合、漁に出て網を上げてみるまで成果がわからないからだ。また、これまでの漁業は漁師の"経験"や"勘" に頼るところが大きく、漁獲高は天候や経験によって大きく左右され、漁師の収入は不安定であった。
一般社団法人東松島みらいとし機構とKDDI総合研究所が進めている「スマート漁業」のモデル事業は、そういった漁業における様々な課題を「海洋ビッグデータ」や「IoT」を活用してクリアしようというものだ。このプロジェクトは総務省のIoTサービス創出支援事業の一環として、産学官連携で進められている。
2016年10月18日、宮城県東松島市の石巻湾浜島沖漁場にて、スマート漁業の実証実験が行われた。
漁師の「勘」や「経験」をデータ化
スマート漁業プロジェクトの仕組みを図式化すると下のようになる。
今回のプロジェクトのために開発された「スマートブイ」は、気温、気圧、水温、水圧、潮流、塩分濃度といったデータを収集するセンサーを搭載した「スマートセンサブイ」、そしてカメラを搭載した「スマートカメラブイ」の2種類があり、いずれもGPSおよびauの通信ネットワークに接続可能なLTE通信モジュールを搭載している。
スマートブイの開発を担当したKDDI総合研究所の大岸智彦
それらを海上に設置し、LTEネットワーク経由でデータを収集するほか、漁師は漁獲量の情報をスマートフォンやタブレットに入力。そこから得られたデータを収集、蓄積したデータと漁獲量の相関関係を分析することで、漁師の勘や経験といった知見を "見える化" し、漁業の効率化につなげようというのが今回のプロジェクトの概要だ。
今回開始された実験は、2016年12月上旬まで、その間に旬となるサケ漁を対象として行われる。そして実験で得られたデータをもとに、今後は漁業者の出航計画の策定や、各種データの関係性の予測、産地直送小売モデルの検証などがなされるという。
日本のスマート漁業の夜明け
スマート漁業の実験は始まったばかりであり、スマートブイの電池持ちやカメラ性能、計測の安定性など、実現へのハードルは決して低くないが、東松島市みらいとし機構の福嶋正義さんは「私たちのプロジェクトが日本のスマート漁業の夜明けになれば」と今後の意気込みを語る。
東松島みらいとし機構・福嶋正義さん
「漁業は東松島市の主力産業のひとつであり、今後さらなる効率化を図っていきたい。今回の実験を足がかりに、スマート漁業の実現に向けて課題をひとつひとつ整理していきたいと思います」(福嶋さん)
現場の漁師である大友康広さんも、スマート漁業の今後の可能性に期待を寄せる。
大友水産・大友康広さん
「たとえば今日は波が強いから魚がたくさんいるなとか、北風が吹いている日はサケが来るなとか、南風が吹いているからイワシが来るなとか、これまでの定置網漁は漁師の経験や勘に頼ってやっていました。でも、データを長期間にわたって取っていき、それらをパターン化していくことで、そういったことが経験や勘以外からもわかるようになり、先のことを読めるようになるといいですね。自分自身はITやデジタル機器にそれほど強いわけではありませんが、今は扱えて当たり前の時代ですし、避けては通れないことだと思っています。それらがうまく共存していければ、漁業はもっといい方向へ向かっていくと思いますし、私たち漁師もそれを期待したいですね」(大友さん)
漁業が抱える課題の解決ために、 "通信のチカラ" がどのようなかたちで、どれほど役に立てるのか? 様々な分野でビッグデータやIoTを活用した "スマート化" が進みつつある今、東松島みらいとし機構とKDDI総合研究所の取り組みは、今後の漁業と通信のあり方を問う試金石となりそうだ。
文:榎本一生
撮影:竹内一将(STUH)
イラスト:鈴木麻子
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