2016/11/10

国内最高峰のレース『SUPER GT』 LEXUS TEAM TOM'Sを支えているのは「通信のチカラ」でした

今回はレースのお話。「SUPER GT」だ。

国内3メーカーが自前のチームでガチンコ対決するこのレースは、市販車をベースにしたマシンをレース仕様に極限まで高めてしのぎを削っている。日産がGT-R、ホンダはNSX CONCEPT-GT、そしてトヨタはレクサスRC Fが参戦している。そして、auはレクサスを駆るチーム「au TOM'S RC F」をスポンサードしている。

「トヨタ(レクサス)、日産、ホンダの3メーカーがガチンコでやってるのが面白いんです! GT-Rなんて昔からファンの方が多いですし、ホンダさんはレース用に開発したような車種を市販されたり、それぞれのカラーがはっきりしてる。で、やっぱり自分が乗ってるメーカーって応援したくなるんですよね。お父さんが家族連れで観戦に来て、全員でレクサスの旗振ってる光景なんて見るとグッときますね(笑)」

「グッときている」この方はトヨタテクノクラフトの清水信太郎さん。レースに参戦しているレクサスの車のカスタマイズを担当する責任者だ。

SUPER GTにおける「通信」の重要性とは?

トヨタテクノクラフト株式会社TRD開発部MS車両開発室第1シャシグループ グループ長・清水信太郎さん。トヨタテクノクラフトはパトカーや救急車などの特装車を開発・生産したり、モータースポーツ車両の改造やパーツを作って販売している

多くのファンを魅了するSUPER GTにはどんな魅力があるのだろう?

「スピード的にはGTで世界一速いですし、1,000キロの耐久レースなので、ドライバー交代とかタイヤ交換とか給油なんかの戦略の対決でありながら、最後にはスプリント勝負になるんですよ」

様々な戦略はもちろん、ラストにベストなスピードを出すためにも、クルマ側とピット側ともに、実に様々なデータが取られているという。クルマ側では「エンジンの回転数」「サスペンションの挙動」「スピード」「加速度」「エンジンの圧力」などなど、クルマの動きや機能に関わるデータはすべて。

ピット側では、主催者側から配信される「タイム」に「ラップタイム」、コースの区間でとった「セクタータイム」、「気温、路面温度」、「気圧」、「風速」も観測。

ただし、「SUPER GT」では走行中のマシンのデータをピットからモニタリングすることが禁止されているので、クルマの側のデータはUSBメモリに記録させ、ピットインの際に回収する。

こちらが実際にレース時の「司令塔」となるトレーラー。ここにレース中のすべての情報が集まる

「データをいつどのように分析するかはそれぞれの担当者のタイムラインに応じて行われます。予選終了後に本戦に向けてだったり、次のレースへの課題点を見出したり。でもデータはリアルタイムでどんどん出ているから、分析する手法さえあれば、それだけ早く生かせるので、リアルタイムでやるに越したことはないわけです」

「SUPER GT」のこのクラスには全15台がエントリーしていて、うち6台がレクサスからの参戦。これらのデータを集め、まずはクラウドを活用して数字同士を組み合わせ、その場でコンピュータが計算する仕組みもつくり上げた。これまで担当者ごとに持っていたデータを一括して集めるようになったので、みんながすべてのデータにアクセスできるようになり"あのデータ持ってるヤツどこにいるんだ?"というようなストレスもなくなることになった。担当箇所以外のデータもスタッフ間でオープンにすることで、より総合的に戦略を考えられるようにしようとしたわけだ。

でもちょっと問題が発生した。ネットワークが安定しないのだ。

技術の粋を結集して走らせるクルマのデータを支える通信

「最初、私たちは市販のモバイルルーターでやってたんです。でもうまくつながらない。せっかくクラウドでの分析システムを構築しても、結局チームがうまく活用できないと戦闘力には還元されません。そういう基礎的な部分で足腰が弱いと使えない。それまでは、そこがどうしてもうまくいかなかったんですね。だからKDDIさんに相談して、"安定した無線通信環境をつくってほしい"とお願いしたんです。簡単に言うと、"サーキットにネット引いてください"って(笑)」

「そのお話に対して、私たちではLANとかケーブリング、SEの常駐も含めてソリューションとしてご提供できますよ、というお話させていただきました」

そう答えるのは、KDDI ソリューション推進本部の吉田研彦。サーキットにおけるソリューションとは、一般のオフィスとはなにが違うのか。

KDDI株式会社ソリューション推進本部ソリューション5部5グループ 技術担当・吉田研彦

「最大の違いは環境動員ですね。何万人が集まるわけですから、既存のLTE回線の基地局だと、あまりスピードが出ないということもあります。それで今回、レースが開催されるサーキット場に関しては有線回線を引っ張りました。同様にWi-Fiに関しても混線が激しくなります。混線に弱い2.4GHZは使えないですから、5GHZを使用したり。さらにはピット内外で無線機器の位置や方向や指向性や出力にも工夫が必要なんです。

最初は、サーキット場へのインターネットの回線の導入だけだったんですが、Wi-Fiの環境を整えてくれとか、ピットからここまできちんと通信が繋がる環境をつくって、イベント中は管理もお願いしますとか、通信環境のウォッチとか、どんどんこちらの要求も高まっていって(笑)」(清水)

今回、おふたりに話を伺ったのは、横浜にあるトヨタテクノクラフト社。ガレージにはこれまで同社が手がけてきた名車たちがズラリと並ぶ

転戦するサーキットに合わせてカスタマイズ。さて、来期は?

「SUPER GT」は、年間を通して8戦が行われるレースだ。今年はタイにも進出し、全6カ所で開催。ならばつまり、それぞれの現場でその都度インフラを構築せねばならなくなる。

「サーキットの特色はばらばらですからね。ピットの広さも違うので、配置するアクセスポイントの数も変わります。トレーラーオフィスまでどのようなプランで電波を繋げなくてはならないかは少なくとも2週間前には現地に入って計画書を清水さんに提出してやりとりします」(吉田)

「そうするうちにいろいろやっていただきたいことが出てくるんですよね。今はWi-Fi環境をつくってもらって、うちだけじゃないチームのスタッフみんなにアクセスポイントに入ってもらってクラウドを見てもらうということを始めてるんですよ。増えた人数にも対応してもらったり、タイでも現地法人を駆使して、おかげさまで国内となんら変わらない通信環境でした!」(清水さん)

給油やタイヤ交換、ドライバー交代に加え、実は各種データが満載されたUSBメモリを抜いて差し替えるということも行っている。ちなみにそのUSBメモリもレース専用で、水や振動に強い特殊な製品だそうだ

来季には新車・レクサス LC500を投入。通信方向からのアシストも一層厚みを増すことになるに違いない。

「今、清水さんたちと我々は、トレーラーオフィスからピットまで同一ネットワークとして構築しているので、たとえばピットにネットワークカメラを付ければ、その映像をトレーラーオフィスからマルチの画面で一括して見られます。インターネットではなくチーム内だけのネットワークですから、セキュリティ面でも強くて、様々な機器をつなぎ、一層さまざまなデータのやり取りができると考えています。当然、データはどんどんリッチになってくるので、いかに安定した環境を提供し続けるかが、私たちの課題ですね」(吉田)

「レースに勝つために」から、「ファンの皆さんにも、よりレースを楽しんでもらうために」へ。通信ができることはまだまだ広がっていきそうだ。

取材時にはトヨタテクノクラフトの工場にも案内してもらった。こちらは2010年IS F CCS-R。関係スタッフと。(左からトヨタテクノクラフトスポーツ車両事業部 吉田竜太氏、KDDIトヨタ営業統括部 中村浩一郎、ソリューション5部 吉田研彦)

文:武田篤典
撮影:有坂政晴(STUH)

※掲載されたKDDIの商品・サービスに関する情報は、掲載日現在のものです。商品・サービスの料金、サービスの内容・仕様などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。