2015/08/11
新幹線のポテンシャルを高める、iPadを駆使した新サービス
JR西日本(西日本旅客鉄道株式会社)では、山陽新幹線・北陸新幹線の全乗務員にiPadを配布し、日々のサービス向上に役立てている。2015年1月から山陽新幹線に約890台、3月から北陸新幹線に約180台のiPadを導入。乗客への運行情報の案内や携行する規程・マニュアルの電子化などを進めている。
2015年は、山陽新幹線全線開業40周年、北陸新幹線開業という節目となる年。そこで、「世界に誇る技術を持つ新幹線のポテンシャルを高める」という経営戦略のもと、【1】異常時対応能力の向上、【2】顧客への情報提供の強化、【3】運転士・車掌の携帯品の軽量化という課題解決の具体策として、ITツールの導入を検討していたのだという。
現役の乗務員によるデモンストレーション。新幹線の車内サービスの進化に驚かされる
今回は、北陸新幹線におけるiPad活用のデモンストレーションが見られる記者発表会があるということで、取材班は一路、金沢へ。実際に、北陸新幹線に乗り込み、車掌による日々の活用状況を再現してもらった。
運転士用9.7インチの「iPad Air」(左)と車掌・客室乗務員用7.9インチの「iPad mini」(右)
北陸新幹線では、運転士に9.7インチの「iPad Air」、車掌・客室乗務員に7.9インチの「iPad mini」を配布。各端末には自社で開発した「列車運行情報」「幹在接続時刻表」「規程・マニュアル」「訪日顧客案内」の4つのアプリがインストールされている。各アプリの機能は以下の通り。
■列車運行情報アプリ
JR各社を含む新幹線・在来線の運行情報を一覧表示。これにより、随時アップデートされるリアルタイム情報で利用客に案内ができるようになった。
■幹在接続時刻表アプリ
新幹線が遅延した場合に、停車駅において接続可能な在来線列車の情報をワンタップで検索可能に。乗務員がポケット時刻表などで調べていた作業が大幅に削減された。
■規程・マニュアル閲覧アプリ
今まで紙で持ち歩いていた「規程・マニュアル」を電子データ化してiPadに集約。これによって携行する荷物が、運転士は重量約3kg→約800g、車掌は約2kg→約700gに軽量化された。
■訪日顧客案内アプリ
英語、韓国語、中国語に対応した訪日外国人の案内用のアプリ。お困りごとの確認や車内設備の案内に活用している。
これらのアプリを実際に活用しているJR西日本金沢新幹線列車区の車掌、横田智祐さんはこう語る。
JR西日本金沢新幹線列車区の車掌、横田智祐さん
「劇的に変わったのは、規程・マニュアル類の電子化です。紙ベースの資料の差し替え作業から解放され、随時、自動更新できるのは本当に楽ですね。また、iPadを導入したことで、車内の汚れた座席や、線路の異常箇所などを撮影し、その動画や画像をFaceTimeなどですぐに共有できるようになり、スピーディーかつより明確に状況報告ができるようになりました」
乗務員の規程・マニュアル類の電子化については、長年慣れ親しんだ紙の資料からスムーズに移行できるよう、事前に試行導入を実施。「閲覧だけでなく、書き込みもしたい」「複数の資料を同時に見たい」など、現場の意見を反映し、システムを改良することでスムーズな導入を実現した。同社のIT本部担当者によると、導入後のアンケートに、乗務員の8割以上が回答するなど、積極的な活用が進んでいる模様だ。
また、乗客からは、列車運行情報アプリが好評とのこと。たしかに、車掌さんに気軽に乗り換えの状況を聞けるのは乗客としてはありがたい。しかも、JR西日本の区間なら駅周辺の観光情報まで聞けるというのは大きな朗報だ。このあたりに、サービス向上に向けた「本気度」が感じられる。
乗務員用のiPadは専用のストラップ付き。紛失時の情報漏えい対策も万全だ
新幹線のような高速移動体において、ITを駆使したサービスを展開するには、高度な通信技術が不可欠なのは言うまでもない。このシステムをKDDIの通信ネットワークやセキュリティーシステムが裏側で支えていることは意外に知られていない。
KDDIは、今回のiPadの導入にあたり、計画段階から乗務員が安全かつ便利に利用できるシステムを共同で構築。KDDIの閉域網とプライベートクラウドを活用することで、機密性の高いデータ管理を実現した。また、クラウド型モバイルデバイス管理ツール(MDM)を導入することで、端末を紛失しても情報漏えいの心配がない環境も確保している。
JR西日本のIT本部、藤原正道さんは、KDDIをパートナーに選んだ理由についてこう話す。
JR西日本IT本部IT計画(運輸系)担当の藤原正道さん
「JR西日本では、2012年から社内の各種システムのモバイルデバイス接続にKDDIの閉域ネットワークを利用しています。今回の採用は、その安定運用の実績が大きいですね。閉域ネットワークやモバイルデバイス管理ツールなど、セキュリティー面の技術も信頼できます。また、大原則になりますが、北陸エリアを含めた当社沿線環境において、auのネットワークが安定してつながる点も高く評価しています。トンネルが多いエリアなど携帯電波が届かない場所への、不感地対策にも積極的に取り組んでくれる姿勢には、チームとしての連帯感を感じますね」
藤原さんは、ユーザである乗務員からの声を参考として、今後も乗客へのサービス向上につながる新たなアプリケーション開発を進めたいと意欲をみせる。JR西日本では、保線などの工事・保守担当社員にもiPadの貸与を検討しているとのこと。「通信のチカラ」が、新幹線の可能性をさらに広げていきそうだ。
文:丸茂健一
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