2015/07/13
【KDDI ∞ Labo卒業生インタビュー】第1回:「オンラインデーティング」の文化を日本へ、サービスはグローバルに 株式会社エウレカ 赤坂 優氏
活躍するKDDI ∞ Labo卒業生の「今」を、ラボ長の江幡智広が聞くシリーズ。第1回は、米国ニューヨークに拠点を置くメディアグループIAC傘下で婚活支援サービス「Match.com」を世界で展開するThe Match Groupへのバイアウト(企業売却)を発表して大きな話題となった、株式会社エウレカCEOの赤坂優氏にお話をうかがいます。
「自社サービス」の立ち上げを目的に、社員に内緒で応募
江幡:まずはバイアウトおめでとうございます。今回、KDDI ∞ Laboの卒業生インタビューシリーズのトップバッターとして登場していただくことになったわけですが、エウレカがどんな会社なのか、僕はよく知ってるけど(笑)、まずは簡単に説明をお願いします。
赤坂:ありがとうございます。現在はpairsというオンラインデーティング(恋愛・婚活支援)サービスと、Couplesというカップル専用アプリの2本立てでやっています。社員は先日85名になりました。
江幡:エウレカがKDDI ∞ Laboに参加したのは第2期でしたよね。
赤坂:そうですね。3年前の2012年4月スタートでした。当時はスタッフ20人ぐらいで、受託開発事業と広告代理業がメインでした。自社サービスを開発したかったので、参加したんです。
江幡:3年前のインキュベーションプログラム(スタートアップに各種の支援を行う取り組み)といえば、うち以外にもOnLabとかありましたよね。KDDI ∞ Laboを選んだ理由を教えてください。
株式会社エウレカCEOの赤坂 優氏
赤坂:実は当時、僕、そういうものにまったく興味なかったんです。KDDIがやってなかったらたぶん応募してなかったと思います。
KDDI ∞ Labo 第1期に参加した「ガラパゴス」の島田君が友達で、彼から話を聞いていて、当時考えていたApp Discoverというアプリは、使っているスマホのアプリをシェアする、というコンセプトだったので、絶対キャリアとシナジー効果があるはずだって、ピンときたんです。その時、応募期限まで1週間だったんですが、実はエウレカ自体は応募条件を満たしてなくて......。
江幡:チームメンバーの数は10人未満、起業3年未満、というやつですね。
赤田:そうです。どちらも満たしてなかった(笑)。でも、「これから開発する自社サービスはそれでやってるから嘘じゃない」って自分のなかで理屈を作って、応募書類を作成しました。で、担当の石井さんに「行ってもいいですか?」と聞いたら「いいです!」とお返事いただいたので、面接に行きました。
僕は2対1ぐらいの気楽な面接のつもりで行ったのに、KDDIさんが4名、コンサルタントとしてIGPI(株式会社経営共創基盤)の方や、弁護士の方も合わせて総勢9名ぐらいで、「資料3部しか用意してないのにどうしよう」って焦りました(笑)。
応募は、社員には内緒でした。落ちたら恥ずかしいので、通ったら言うつもりで、勝手に応募しました。
短いサイクルでPDCAを回せるようになったのは財産
江幡:実際にプログラムに参加してみてどうでしたか。
赤坂:応募はしてみたものの、正直、大手企業のラボに入ることで、ベンチャーのスピード感を失うんじゃないか、というリスクを恐れていました。でも実際にはじめてみたら、毎週進捗報告があって、Demoday(プログラムの最後に成果を発表するイベント)も決まっていて、学校みたいな感じ。ずっと経営者でいたので、マイクロマネジメント(業務に対して強い監督・干渉をされること)を初めてされたのが、とても良い経験になったと思います。
もっとも、毎週の進捗を出すためには、僕だけじゃなくてエンジニアもデザイナーも僕からコミットを求められるわけで、相当きつかったと思います。
あと、プレゼン慣れはすごくしましたよね。それまで、受託案件の営業はやったことがあっても、人前で話す機会はなかったので。
江幡:3年前だと、まだピッチイベント(スタートアップが集まって主に投資家に対して事業をプレゼンテーションするイベント)がたまにあったくらいだよね。今はしょっちゅうあるから、やろうと思えば機会はあると思うけど。
赤坂:そういうものには参加したことがありませんでした。あとは短いサイクルでフィードバックをたくさんもらうことで、PDCA(Plan-Do-Check-Action)を回せるようになったのは大きかったです。実際に作って、反応を見て、修正して、というやり方ができるようになったのはKDDI ∞ Laboに参加したことの成果ですね。
他のチームがいたことも良かったと思います。比較されるし、怠けられないという気分にもなるし。同期のなかには今でも定期的に情報交換している人もいます。
Pickieは失敗して良かったと思っている
江幡:ところで、KDDI ∞ Laboで開発していた自社サービスって、今の主力事業になっている2つとはまったく違いますよね。
赤坂:KDDI ∞ Laboで開発したPickieは「友達が使ってるアプリが分かっちゃうアプリ」。端末にインストールすると、自分のFacebook友達が何を使っているかわかる。「新しいアプリを発見するメディアがあってもいいだろう」という発想で誕生しました。
でも、当時のユーザーにとっては、おすすめアプリを紹介してくれる、AppBankみたいなもので十分だったんです。よくよく考えてみれば、スマホをこれから買う人が多いのに、そんな人達にとっては「SNS使ってアプリを探そう」なんて気持ち悪いじゃないですか。そういう感覚が分かってなくて、時代の2歩先ぐらいのサービスを作ってしまったのが敗因です。海外では注目されて、スペインやシンガポールでは記事になったんですが、日本市場の評価は「おまえら、早すぎ」(笑)。
だけどこの経験で、「成功するのは0.5歩ぐらい先のサービス」だとわかったので、次は既存のサービスで実際にお金が動いている、出会い系領域に参入したんです。
KDDI∞Labo ラボ長の江幡智広
江幡:「あまり先に行き過ぎない」ところにサービスを投げ込むとうまくいく、というのは確かにあるよね。Uberがあったからタクシーアプリが日本でも普及した、みたいなことはあると思うので、タイミングは重要。結局、KDDI ∞ Laboで開発したサービスは失敗したわけだけど、そこでエウレカが得たものはありましたか。
赤坂:Pickieは自社プロダクトとしては初めてのもので、プレスを打つのもプロモーションするのも初めてでした。Pickieで「自社プロダクトを作る」という経験を会社として積めたことは大きかったです。KDDI ∞ Laboがなかったら、リリース日も決められずにずるずるしていたかもしれません。
しかも失敗して良かったと思っています。Pickieは時間をかければモノになったかもしれないけど、結局撤退したことで、投資のリターンがなくなってしまったのが厳しかった。だからできるだけ早くマネタイズできるサービスを、と考えることができて、pairsができたんです。
また、Pickieは市場では流行らなかったけど、業界内認知は上がりましたし、ユーザインターフェイス、ユーザエクスペリエンスの作り込みが評価されて受託開発の売り上げが倍になって、その資金をpairsに投入できたんですよね。人と人をマッチングするサービスなので、プロモーションをしっかりやらなくてはいけなくて、お金は必要でした。
江幡:次のサービスとして、オンラインデーティングに目をつけたきっかけは?
赤坂:ゲームはやらないって決めてたんです。理由は2つあって、自分がソーシャルゲームをしないのでユーザーの気持ちになれない、そんなものを作っても勝てないだろうというのがまずひとつ。もうひとつはソーシャルネットワークやコミュニケーションがやっぱり好きで、Facebook、Twitter、Instagramのような、人がコミュニケーションをするためのサービスは長続きするだろうと思ったことです。
あとは海外のトレンドで、オンラインデーティングは急成長していてIPO(株式公開)する会社が出始めていました。中国からもMomo(陌陌)というデートアプリが出てきたりして、盛り上がってるので、日本でもいけるんじゃないかと考えました。でも日本では「出会い系」のイメージがあって大手は参入できない。人を集めないといけないので、しっかりしたプロモーションが必要ですから、資金力のないスタートアップもダメ。これは中間の僕らにしかできないんじゃない? しかも僕らは人を呼び込むプロモーションは得意。これはやるしかない、となったんです。
江幡:社内の合意形成にはどのくらいかかりました?
赤坂:pairsは30分で決めて、その日にデザインを作りました。早かったですよ。Pickiesのローンチが決まったタイミングで、「これが走り始めてダメになる前に行こう」と考えました。Couplesは、pairsで誕生したカップルの次のステージのサービスということで、そんなに難しく考えませんでした。
江幡:pairsは元々市場がありましたよね。使う人もいるし、経済価値もあった。
赤坂:pairsはそうです。Couplesは市場がないところなのでどうするかが課題です、3カ月間はユーザーを伸ばすのに注力してきました。暇時間の獲得でゲーム送客とメディア送客をとっていく感じで、踏むところまで踏めば年間10億ぐらいまではいけるんじゃないかと思っています。
江幡:それぞれのサービスのユーザー数は今どのくらいですか?
赤坂:Couplesは平均年齢21歳で240万人のユーザーがいます。日本の10歳から29歳の人口って1,921万人しかいなくて、なおかつ恋人がいるのが750万人ですから、3組に1組のカップルを押さえているといってもいい。年内に400万ユーザーを目指していますから、そうなったら過半数ですから、マーケットで寡占が取れます。pairsは230万人ですね。
バイアウトは「海外で勝つため」
江幡:pairsは既に台湾でもサービスを開始していますけど、グローバル化を考えたきっかけは?
赤坂:市場があると思ったからです。pairsは日本で受けたけど、海外ではどうだろう、って考えた時に、日本では20代のFacebookのアクティブユーザー率は17%ぐらいなんですけど、台湾では50%ぐらいという話を聞いて「これはいける」、と10分で参入を決めました。2カ月でリリースして、80万人まではすぐに会員が増えました。初めて台湾人のユーザーに課金してもらった時は、日本で作ったものが海外でも通用するってわかって、うれしかったです。今は、東南アジア市場向けに英語版を準備していますが、いけると思っています。
pairsって要は「好きか、嫌いか」で、ゲームよりもコンテンツ依存性がないので、海外展開もしやすいんです。でも、宗教や結婚観は国によって違うので、その点についてはローカライズが必要ですね。ファーストページのアルゴリズムも国によって調整が必要で、例えば台湾と日本とは「遠距離恋愛」の定義が違うんですね。日本では物理的距離で定義されるけど、台湾では時間的距離で決まるので、たとえ隣の県でも電車が通ってなければ遠距離ということになります。なので、ファーストページで表示する相手を決めるアルゴリズムも、電車の路線ベースにしないと出会いのハードルが下がらないんです。
オンラインデーティングは今後3年ぐらい面白いと思っています。日本でも、アメリカ同様健全化していくと思いますので、リクルートやヤフーなどの大手も参入してくるかもしれない。でも、先に参入していた僕らにはアドバンテージがありますから、マーケットリーダーになれれば、相当大きな市場になるとおもいます。
江幡:The Match Groupへのバイアウトは、どういう考え方をもって決めたんですか。
赤坂:海外で勝ちたかった、というのがいちばん大きいです。海外のオンラインデーティング市場って、例えばTinderというアプリは1日で4000万組がマッチングして、1日のスワイプ回数が60億回に達しています。オンラインを通して知らない人と親しくなることが手のひらの上で行われている、なおかつ人間の本能と直結するのでお金が払われやすい。ビジネスとしても、人間の生きている楽しさとしても、両軸でエキサイティングです。
日本にはまだそういう文化がないので、僕らがつくっていく、というのもおもしろい。同時に、マーケットはグローバルだと思っていたので、海外にも出たいと思っていました。Matchと出会えて良かったと思っています。彼らは海外で強いけれども日本では弱い、僕らは日本では強いけれども海外ではまだまだ。うまくマッチしました。
江幡:彼らの力をどういうところで借りることになると考えていますか?
赤坂:例えばソーシャルゲーム業界であれば、課金ポイントや顧客管理などに業界のノウハウがあるけれど、オンラインデーティング業界にはまだそういうものがない。でも、Matchの各サービスは既に20年やってますから、新規課金者、既存サブスクライバ―(※加入者)、途中で課金をやめた人など、それぞれの状態別に掘り起しのノウハウを持っています。そういったものを提供してもらえるのは大きいですね。
逆に、彼らはアプリのマーケティングやプロモーション、Facebookプラットフォームのプロモーションが弱いんです。そういうサービスを運営している会社を持っていませんでしたから、そこは、僕らが彼らの助けになれる。彼らが持っているものを僕らに与えてくれて、僕らも持っているものを彼らに与える。シナジーはあると思っています。
大きな夢は見た方がいい
江幡:最後になりますけど、KDDI ∞ Laboの後輩たちにメッセージをお願いします。
赤坂:僕、3年前に江幡さんと話していたことの意味がようやく分かってきたような気がしていて、新しく起業する人はどうやって1,000億円のサービスに成長させるのかを考えるようにならないと、日本は変わらないんじゃないかと思っています。目指すなら大きく、ということが、今いちばん言うべきことかなと思います。
エウレカは卒業から3年経って、pairsが今40億の事業。来年は80億、100億までは見えてきたけど1,000億はまだ見えていませんでした。でもバイアウトで次の段階が見えてきた。大きな夢は見た方がいいかなと思っています。
江幡:僕らはどうしてもチームを見るんですよ。プロダクトは変わるものだし、それでもコミットメントできるチームかというのは気にしますよね。
赤坂:チームにはオフェンスとディフェンスが必要なのに、今のスタートアップ業界には圧倒的にディフェンスが人材不足なんです。300人から500人の会社のナンバー2、ナンバー3がスタートアップにジョインしてくれることが増えないと。前に突き進む若いトップをディフェンスしてくれる大人が欲しいし、そういう人がもっとマーケットに出てきて欲しいなと思います。
江幡:どうもありがとうございました。
文:板垣朝子 撮影:斉藤美春
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