2015/05/15
【基地局探訪記 その1】春の“雪かき”が恒例行事! 冬季は深い雪に埋もれる、立山連峰の山中にある基地局
スマホやケータイは電波でネットワークとつながっている。その中継地点となっているのが「基地局」だ。全国にある基地局の多くは電柱のようなコンクリート柱や鉄塔にアンテナを付けたオーソドックスな形をしているが、なかには個性的な特徴を持ったものもある。こちらの連載では、TIME & SPACE編集部が各地をめぐり、そういった「変わりダネ基地局」紹介していきます。
立山黒部アルペンルート全線開通に合わせて、雪に埋もれた基地局を掘り起こす!
雄大な立山連峰の山中にそびえ立つ立山弥陀ヶ原局。高さ約8mのポール上部に設置されているのがNTTドコモのアンテナで、下部に設置されているのがKDDI(au)のアンテナ。さらにその下には無線機や電源などが深さ約5mの雪に埋もれており、それらを掘り起こすために両社が共同で雪かき作業を行う
道路に積もった雪を除雪してできる「雪の大谷」。高さは最大で20m近くに及ぶ
連載第1回目の今回紹介するのは、富山県立山町の山中にある「立山弥陀ヶ原(たてやま みだがはら)局」。この基地局にはKDDI(au)とNTTドコモのアンテナがあり、立山黒部アルペンルートをはじめとする観光地をカバーするため、両社が電波を飛ばしている。
この基地局がユニークなところは、冬は深い雪に埋もれてしまうこと、そして雪解け前に"雪かき"が必要なことだ。
立山黒部アルペンルートは11月中旬から4月中旬にかけて雪のために閉鎖される。それが全線開通すると、高さ20mにも及ぶ雪の壁のあいだを歩ける同ルートの春の名物「雪の大谷」が開放され、多くの観光客で賑わい、携帯電話の通信も集中する。通信事業者としてはその前に雪かきをして掘り起こし、電源を立ち上げ、通信環境を確保しておく必要があるというわけだ。
今回、4月中旬に行われたKDDIとNTTドコモの共同による雪かき作業に密着取材することができたので、その模様をレポートする。
春なのーに〜、一面銀世界! 基地局まで約30分の雪上歩き
今回の取材に協力してくれたKDDIの担当者によると、立山弥陀ヶ原局の雪かき作業は1日仕事らしい。当日は早朝5時半、雪かき作業に参加する同社社員たちがKDDI金沢テクニカルセンターに集合し、クルマで現地へ向かうとのこと。東京在住の取材班は3月に開業したばかりの北陸新幹線に乗り込み、雪かきが行われる前日に金沢に入る。
本文とは全然関係ないんですが、編集長から大ちゃんも連れて行けと言われたので、とりあえず記念撮影。北陸新幹線と大ちゃんヘルメットの青がまさかのマッチング
そして翌朝。午前5時30分、一同眠い目をこすりながらKDDI金沢テクニカルセンターに集合し、スコップや長靴など雪かき道具一式をクルマに積み込み、いざ立山弥陀ヶ原局に向けて出発。北陸自動車道を富山方面へ向かい、高速を降りてからはコンビニに立ち寄って昼食を調達しつつ、一般車通行止めの山道を進む(我々の乗るクルマは雪かき作業のため特別に通行許可を取っている)。標高をぐんぐん上げながら走ること約3時間、雪かき作業の拠点となる弥陀ヶ原ホテルの駐車場に到着。ここから立山弥陀ヶ原局まではクルマで行くことができず、雪上を歩いて約30分の道のりになるという。
各自が防寒着を着用し、ヘルメットをかぶり、長靴とスノーシューを履き、出発の準備を進める
弥陀ヶ原ホテルの標高は1970m。気温は出発時よりも著しく低く、泣きたくなるほど寒い。しかも日頃から運動不足気味の取材班。果たして現地までたどり着けるのか、不安を抱えながら、立山弥陀ヶ原局へ向けて雪の上を歩き始める。
立山弥陀ヶ原局の雪かき作業に参加したのは、KDDI社員3人を含む合計15人。皆さん北陸の雪国で暮らしているので雪上歩きには慣れているのかと思いきや、意外にも「スノーシューを履いて歩くのは初めて」という人も少なくなかった
寒サニマケズ、突然ノ吹雪ニモマケズ
約30分の雪上歩きを経て、9時半過ぎに基地局に到着。金沢を出発してからすでに4時間が経過していた。取材班一同、この時点で早くもヘトヘトだったが、休んでいるヒマはない。作業できる時間は意外と少ないのだ。到着後は、まずは谷側への落下防止のためのポールとロープを設置。次に基地局から谷川方向に向けて雪が滑りやすくするための波板(スライダー)を敷く。スコップで基地局の周囲の雪をかき出し、このスライダーにどんどん乗せていく、というのが雪かき作業の基本的な流れ。あとはひたすらこの繰り返しだ。
皆さん雑談をすることもなく、黙々と作業を進める。天気が良いと絶景が広がるらしいが、この日はあいにくの曇り空。前日、ウーたんを軒先に吊しておいたが効果はなかったようだ
12時過ぎ、お待ちかねの昼食タイム。麓のコンビニで買ったおにぎりはカチカチに冷えていたけれど、身体を動かした後のご飯はやっぱり美味しい!
昼食を終え、作業を再開すると、あたりが急に吹雪いてきた! しかし皆さん作業の手を緩めることなく、雪かきを進めていく。出てこい、基地局!
デジカル大ちゃんも撮影するも、作業している皆さんに申しわけなく、取材班も微力ながら雪かきを手伝う
午後2時、ようやく土台がお目見えして雪かき作業完了。作業時間は4時間ほど。皆さんお疲れ様でした!
雪かき作業を終えると、冬季のあいだ落としていた電源を入れ、機器の接続や設定を行い、基地局を立ち上げる。これでようやく多くの観光客が訪れる「雪の大谷」に向けた通信環境が整った。
雪に不慣れな取材班としては、想像以上に寒くてしんどかったというのが正直な感想。普段何気なく使っているケータイも、こうした地道な努力で支えられているんだな......。今回、立山弥陀ヶ原局の雪かき作業に密着取材して、改めてそんなことを思ったのでした。
そして後日、取材に協力してくれた皆さんからコメントをもらったので、それを紹介して、今回のレポートの締めくくりとしたい。
今回の取材に協力してくれたKDDIの皆さん。奥左/山口満明、奥右/馬田勝士、手前左/服部将真、手前右/古澤集平(以上KDDI 技術統括本部 運用品質管理部 金沢テクニカルセンター)、奥中央/前川昭夫(KDDIエンジニアリング 中部支社 ネットワーク建設部 フィールドサポートグループ)。今回の雪かきに参加したメンバーは山口、馬田、服部の3名で、前川と古澤は過去に参加経験あり
「私は2年前に続く2回目の参加となりましたが、現場の作業はやっぱりしんどいです(笑)。ただ、立山弥陀ヶ原局の雪かきは、社員にとって非常に貴重な経験になることは間違いありません。雪かきは全員が協力しなければできず、その作業を通じて仲間意識やチームワークが育まれますから」(山口)
「積雪のある地域の基地局は、無線機部分を高上げして設置することもあります。しかし弥陀ヶ原局に関しては、あまりにも雪が積もるので、最初から雪に埋まる前提で作られているんです。今回の雪かき作業は4時間ほどで終わりましたが、その年の積雪状況によっては3日間ほどかかることも。当日の天候によっても作業環境は異なり、晴れた日は紫外線が強いのでサングラスや日焼け止めが必須になります」(前川)
「今回、初めて雪かきに参加しましたが、慣れない作業にとにかく必死でした。雪かき終了時は、恥ずかしながら、やり遂げた達成感よりも作業からの解放感の方が強かったですが、非常にいい経験になりました。また、山間部などの基地局設置環境、暑さ寒さ悪天候に関わらず、auサービスのために日々現地対応いただいている保守会社の方々には改めて深く感謝いたします」(馬田)
「掘っても掘っても先の見えない作業に何度も心が折れそうになりましたが、無事作業が完了した時には言葉に出来ない満足感や達成感を味わう事が出来ました。昼食時、私自身は凍るほど冷たいおにぎりを食べている中、ベテラン作業員の方が保温ポットを持参しカップ麺を食べているのを横目で見て、うらやましい気持ちでいっぱいでした(笑)」(服部)
「今回は残念ながら行けなかったのですが、昨年参加しました。現地ではとにかく寒かったことを思い出します。持っていったカイロはすぐにカチカチに冷えてしまって......。作業が完了したときは心底ほっとしましたが、次の日はかつて経験したことがないほど激しい筋肉痛が襲ってきて、むしろそちらの方がきつかったかもしれません(笑)」(古澤)
文:榎本一生 撮影:有坂政晴(STUH)
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