2018/05/10
運命を分けるのは何秒? 自転車の『ながらスマホ』の恐怖を体験してみた
「ながらスマホ」走行の危険性を検証する実証実験
道を歩けば、いわゆる「ながらスマホ」をしている人がまだまだ多い。歩きながらだけでなく、自転車に乗りながらでもスマホの画面に夢中で、近づいていくこちらに気づいていない様子。
そのままだとぶつかりそうになるから、こちらから避けるしかない。スマホのコンテンツが面白いことは僕も知っていますよ。でも、危ないからダメ。ゼッタイ。
近年、「ながらスマホ」は社会問題になっている。KDDI独自の調査では、運転中にスマートフォンを操作したことがあるとの回答が6割あり、その約半数が片手運転をしていると回答。
また東京消防庁の発表では、自転車および歩行時の「ながらスマホ」によって起きた事故で救急搬送された人は2012年が34人。2016年には58人に増えている。救急車が呼ばれない事故も含めれば、その数はもっと増えるだろう。
「ながらスマホ」で5割も増加することとは?
こうした状況を受けて2018年2月、KDDIとau損保は愛知工科大学の小塚一宏名誉・特任教授による監修のもと、京都府の協力を得て「ながらスマホ」をしながら自転車走行した場合の危険性を検証する実証実験を行った。
被験者は京都府を含む関西在住の大学生11名。スマホのメッセージ画面を操作しながら自転車を走行させた場合、適切な運転時と比べて視野がいかに狭くなるかを検証するというものだ。
場所は京都府庁の敷地内。幅7メートル、全長50メートルのコースを作り、被験者はゴーグル型視線計測装置を装着して自転車で走る。彼らの視線の軌跡を動画専用ソフトで分析してみると……。
「最終的には9人から有効なデータが取れました。歩行者の見落とし回数は適切な運転時が1.3回だったのに対し、『ながらスマホ』時は2.0回。5割も増加することがわかりました」(小塚教授)
歩行者を注視する時間は適切な運転時と比べて「ながらスマホ」時は23%、「ながらスマホ使用+イヤホン装着」時は22%と大きく減少した。あれ? でも小塚先生、イヤホンを装着したら歩行者を注視する時間はもっと少なくなるのでは?
「実は私たちもそう予想していたんですが、学生たちに聞くと『外の音が聞こえないのが怖くて、上目遣いで必死に歩行者をチェックしました』と言うんです」(小塚教授)
「さらに、着信の確認やSNSへの返信などスマホ操作をしていると、歩行者を認識するまでの時間は適切な運転の場合1.0秒に対して1.7秒となり、0.7秒遅れました。一般的なスピードなら止まるまでに約2.5m先まで進んでしまいます」
そのあいだに歩行者が飛び出してくればアウト。大怪我を負わせたり、命にかかわる事故につながることもある「恐怖の0.7秒」だ。
KDDIでは「ながらスマホ」をしながら自転車走行した場合の危険性を検証する実証実験の結果をまとめた動画を制作。ぜひ一度確認してみて欲しい。
「ながらスマホ」をしながら自転車走行した場合の危険性を検証する実証実験の結果
S字クランクでの「ながらスマホ」は不安定すぎる
さて、「ながらスマホ」は一体どれだけの「恐怖」なのか。自動車教習所のコースをお借りして実際に体験してみた。
訪れたのは武蔵境自動車教習所(東京都武蔵野市)。
ここには、都内の高校を中心に多数の出張自転車講習を行っている女性スタッフ・横山優さんがいる。
横山さんによれば、出張講習では警視庁が作成した「自転車安全利用五則」を使用。内容は「自転車は車道が原則、歩道は例外」「交差点での一時停止と安全確認を怠らない」といったものだ。
今回の体験では万一に備えてヘルメットを着用。まずは、S字クランクを走行してみた。
自転車には毎日のように乗っているので、まったく問題ない。続いては「ながらスマホ」で。
まっすぐな道ならまだしも、右に左にハンドルを切るS字クランクでの「ながらスマホ」は不安定すぎる。さらに、買い物かごに荷物を入れると不安定感がグンと増してきた。ここで子どもが飛び出してきたら、思いっきりぶつかったり、自分も転んでしまいそうだ。
マットと衝突! ……人間じゃなくてよかった
さて、いよいよ最後に自転車の衝撃体験だ。
横山さんが言う。
「一般的な自転車の速度は時速10キロから15キロと言われています。少し怖いかもしれませんがトライしてみましょう」
このあと、自転車ごと横転。マットはすぐに元の形に戻るが、子どもや高齢者だったら……と考えると非常に怖い。
教習所のコース内なら安心だろうと臨んだ「ながらスマホ」体験。いえいえ、S字クランクの不安定さ、その衝撃の恐怖が身に沁みてわかった 。これが無意識に公道でとなると、事故を起こさない方がおかしい。
ながらスマホで死亡事故も
「亡くなった相手とご家族への責任は重大です。自転車はクルマやバイクと違ってウインカーやブレーキランプがないので、こちらの意思表示ができません。念には念を入れて、周囲に気を配る必要があるんです」(横山さん)
前出の小塚先生も言う。
「通常、信号などではクルマのドライバーと自転車、歩行者が一瞬ですが目を合わせてお互いの存在を確認し合います。しかし、『ながらスマホ』ではこの暗黙の了解の機会が失われ、事故になってしまう危険性が増えるんです」
自転車は自動車と同じく凶器になりうるもの、そして自分自身が危険にさらされる確率も高まるということが今回の取材でわかった。
最近では、こうした対人の自転車事故にも備えた自転車向け保険も注目されてもいるとのこと。
※上記「au自転車向けほけん」に関する内容は、2018年5月時点のものです。
自転車の「ながらスマホ」。その怖さを身をもって体験してからでは遅いのです。
取材・文:石原たきび
撮影(教習所撮影):遠藤貴也
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