2018/03/09

ゴールシーンが360°から見られる! スタジアムのIT化でスポーツ観戦が変わるかも

さてこちら、「EAFF E-1フットボールチャンピオンシップ2017」決勝大会に出場した日本代表である。

EAFF E-1サッカー選手権2017決勝大会 対韓国代表戦先発メンバー(2017/12/16)

東アジアサッカー連盟(EAFF)に所属する11のナショナルチームが参加し、日本・韓国・中国・北朝鮮の4カ国が東京で本決勝大会を戦った。

この大会に投入され、サッカー観戦を面白くした3つの技術

試合が行われたのは、2017年12月16日。実はこの大会中、会場の味の素スタジアムは「ちょっぴり未来っぽくなっていた」。KDDIが通信とICTの力を使って、未来のスポーツ観戦体験へとつながる3つの新しい試みを行っていたのだ。

  • ①試合の模様をリプレイする映像の最新技術「au/4D Replay」「au Dynamic Replay」。
  • ②日本初! 100人が同時にスタジアムで、試合の模様をVRで体験「au VR Seat」。
  • ③試合中に試合内容が直感的にわかる!「au Stats」。

代表の戦績としてはちょっとアレな大会でしたが、こと「サッカーを観る楽しみ」においてはレアな体験ができたのだ。では順番に見ていこう。

①視点がぐるぐる! え! キーパー目線? プレイヤー目線?

まずはこれを見ていただくのがわかりやすいだろう。

すごい! ゴールシーンをぐるんぐるんと角度を変えて見られるのだ。これが、「au/4D Replay」。当日、スタジアム内のビジョンでリプレイとして流され、フジテレビでの中継にも使われた。

どうなっているのかというと、実はゴールを裏側のスタンドからぐるりと4Kカメラで取り囲んでいるのである。

スタンドからピッチを見下ろすカメラが、こんなふうにびっしりと配置されていたのだ。KDDI総合研究所超臨場感通信グループリーダーの内藤 整によると、両方のゴール裏に60台ずつのカメラを設置したという。

KDDI総合研究所超臨場感通信グループリーダーの内藤 整

「『au/4D Replay』は、基本的にそのカメラのスイッチングで映像をつくる技術。カメラを切り替えていくことでぐるっと視点の移動を行うんです。映像を加工することがないので、映像クオリティは高いですし、ほとんどタイムロスなく、リプレイを見ていただくことができます」

大型ビジョンに映し出されたこの映像に、当日のスタジアムは大いに沸いた。「その瞬間」を切り取って自由にアングルを変えて回り込む映像ってなんかSF的というかゲーム的というか、非常に未来っぽいのである。もちろん、ゴール裏からの映像だけだとわからなかった、シュートまでのプレーの流れを、視点を変えることでつぶさに観察することができるのも、サッカーファンとしてはうれしい。

一方、「au Dynamic Replay」はKDDIが従来から開発してきた「自由視点映像」。

ピッチ全体を捉えた映像をもとに、AIが選手たちを背景から切り出して3DCG化。我々が見るのは、3DCGにより生成したバーチャルな映像だ。角度も位置も自由自在。実際にカメラを置いていない場所からピッチや選手を見ることができる。

PCやスマホでの視点操作はもちろん、ヘッドマウントディスプレイで視聴すると、選手や審判の目線をVR体験可能。

こちらが今回つくった映像だが、そのうち『au Dynamic Relay』のロゴ表示のあるシーンが自由視点VRである。

こちら、できればVRゴーグルで見ていただけるとその臨場感は非常に増すと思われます。ぜひお試しいただきたいのである。

カメラはピッチを見渡すメインスタンドに3台、両ゴール裏に1台ずつの計5台。少ないカメラ台数で自由なカメラワークを実現できるのだ。アングルだけでなく選手との距離やカメラ位置も自由に動かせる。

「だからVRと非常に相性がいいんです。フィールド内はおろか、ゴールキーパー視点とか審判視点みたいに、実際にカメラが置けない場所からの映像も見られるし、撮影後の加工も容易に実現できます。ただ、3DモデルをつくるAIがマシンパワーを食うので、映像加工に時間を要します」(KDDI総合研究所 内藤)

「4D Reply」は即時性と映像のクオリティに優れ、スタジアムのビジョンやテレビでのリプレイを面白く、ゲームをわかりやすくしてくれる。一方「Dynamic Replay」は、後々試合を見るときに体験したことない場所からの映像を見せてくれる。あたかも自分が試合に参加しているかのような感覚にしてくれるのである。

②スタジアムで、100人同時にWi-FiでVR映像を配信

ふたつ目の技術はVR。

「au VR Seat」と題して100名さまを味の素スタジアムに招待し、現地で一斉にVR体験を行ったのである。みなさんauのゴーグル装着されてますね。

そんな100人のみなさんは、陣取ったスタンドの座席だけでなくスタジアム内のあちこちに設置された360°カメラからの映像をVRで体験することができたのだ。

360°カメラが設置されていたのは、バックスタンドとメインスタンド、両ゴール裏のピッチ上。

そしてメインスタンドの中央。ゴーグルを操作すれば、その都度視点が切り替わるのである。ちなみに「au VR Seat」は、下の図の赤い点。バックスタンドの端の方である。

座っていたのはここ。

なのだが、目の前でゴールを決められたり、歓喜する相手プレーヤーが駆け抜けていったりと、ど迫力の映像が楽しめるのであった。

しかも自分がいる空間は、興奮のるつぼと化したスタジアムなのである。臨場感……というより、臨場そのもの。現場にいて現場の声や光や空気を感じながら、VRで全然違う視点から試合を見ることができる。これはとても新鮮な体験だ。

「au VR Seat」を実現するため、実はこの時、スタジアムには非常にリッチなWi-Fi環境が構築されたのだ。100人のゲスト(100席)に対してWi-Fiを送るために準備されたアクセスポイント(AP)は、なんと20台。つまり5席あたりAP1台という体制。

「au VR Seat」を担当したKDDIモバイル技術本部の実藤雅史によると、世界最高水準だという。

KDDIモバイル技術本部 実藤雅史

「今スタジアム内にもWi-Fiは飛んでいることが多いんですが、日本国内ですと一般的には200〜300席に1AP、世界でも50〜30席に1APが最高レベルです。それらを凌駕するのが目的ではなく、今回のように100人のお客様にVRを楽しんでいただくには、この水準が必要だったんです」

VRの映像って、非常に容量が大きいのである。それで配信し続けるには電波のかなりの帯域を占有する。なので、独自に今回の対策を実践したのだ。

青い部分が100人のゲストシート。はさみ込むオレンジのラインがWi-Fiである。しかも「人間Wi-Fi」。写真のオレンジジャケットの人々だ。彼らがひとりずつ膝の上にAPをセットしたリュックサックを置いている。

でも、単純にWi-FiのAPを持った人たちをたくさん配置すればOKという話ではない

「20台のAPがお互いに干渉しあわないようにそれぞれのチャネルを適切に決めて設計しました」(KDDIモバイル技術本部 実藤)

色と数字はWi-Fi電波のチャネルを表している。この図では108チャネルを例にとり、チャネル配置や出力を調整して電波が干渉しないように工夫したことを示している。

「電波の強度も同様です。100人のみなさんにきちんと行き渡らせるのはもちろん、強すぎてもまたお互いに干渉しあいます。そしてAPの向き。人間Wi-Fiたちはリュックを膝の上にリュックを普通に置くだけで、電波が適切な方向に飛ぶよう、リュックの中のAPの位置を固定しました」(KDDIモバイル技術本部 実藤)

これはイベント当日の話。ここに至るまでに膨大な事前調査とシミュレーションが繰り返されている。

「最初にスタジアムで飛び交っている電波の状況を測定した時、スタッフの口から出た言葉は『まあなんてひどい』でした(笑)。それぐらい汚れて(=いろいろなWi-Fiの電波が飛び交っていること)いたんです」(実藤)

「100席という狭いエリアに対してAP20台を設置し、トラブルなくWi-Fiを提供できたことは大きな糧になった」と実藤はいう。

「この知見をうまく生かせば、エリアをさらに広げて対策することも可能だと思います。ごく一部の客席だけでなく、スタジアム全体に世界最高水準のWi-Fiを届けることも夢ではないですね」(KDDIモバイル技術本部 実藤)

そうして100名のみなさんを大いに盛り上げることができた「au VR Seat」。このなかにもうひとつ、観戦体験をより濃くすることのできる技術があったのである。

③「au Stats」で詳細データをリアルタイムに

これ、VRゴーグル内の映像である。
VR体験中に視線を下げると、こんなディスプレイのようなものがあるのだ。

「LIVE/ハイライト」「試合情報」「選手」「スタッツ」「大会スケジュール」と、試合にまつわるさまざまなデータが試合と同時進行で見られるのである。
試しに「スタッツ」をタップしてみる。

「パス成功率」「シュート数」「ファウル」「コーナーキック」「セーブ」「成績」。テレビ中継だと、プレーの切れ目やハーフタイムに出てくるこうした情報が、いつでも好きなタイミングで見られるのである。

たとえば、これは韓国戦での日本のコーナーキック。アイコンをタップすれば、何分に誰が蹴ってどうなったのかがわかる。なるほど、37分の土居聖真のキックはゴール前でブロックされたのか……なんて。

そして日本のシュート。2分の小林悠のシュートはゴール左側に決まった。が、

5分の井手口のシュートはゴール右枠外にそれた、とか。

KDDI宣伝部の野村和史は、「詳細なデータをわかりやすくお見せすることで、もっともっと試合を深く楽しみながら見ていただければと思った」という。

3つ目のこの仕組みには大掛かりな技術は使われていない。

KDDI宣伝部の野村和史

「これはUIのつくりだけの話なんですけど、スタジアムに行くと試合の迫力とか空気感はすごくいいんですが、フォーメーションひとつとってもわからなかったりしますよね? それをビギナーでもわかりやすく楽しめるようにしたいな、という気持ちがありました」

ICTがスポーツの観戦体験をもっと面白くする

2019年に5Gが実験的サービスを開始すれば「au Dynamic Replay」による自由視点VRは、より現実味を増すと内藤は言う。

「5Gの高速・大容量通信は、自由視点普及のベースになるアーキテクチャーだと思うんです。だから、それに対応できるような準備はしておきたいですね」

そして、スタジアムに世界最高水準のWi-Fiのアクセスポイントを設置する技術の下地も見えてきた。実藤は「Wi-Fiに余裕があれば、お送りできるコンテンツもよりリッチになる」という。

ICT化を推し進めていけば、スタジアムに行かなくても現地のような観戦体験がVRでできるようになるかもしれない。また、スタジアムではスタンドの座席なんて関係なく、リアルタイムで好きな視点から試合を楽しめるようになる可能性もある。自由視点VRがリアルタイムになれば、ピッチ上から試合に参加しているような感覚で観戦できたりするだろう。

通信&ITのチカラを強く発揮して実現した「au Stats」はスタジアムでのスポーツ観戦(サッカーだけでなく)に、間違いなく役立つはず。データだけでなくチームごとに応援歌とか手拍子のタイミングとか配信してくれれば、初心者でも、臆せずどんどんスタジアムに行けるだろう。

今回は実験的な試みとはいえ、どれもいずれはスタジアムに常設される可能性がある技術ばかりだ。通信テクノロジーがスポーツ観戦だって楽しくしてくれる。そんな未来が確実に近づいていることを実感できる。

文・撮影:TIME & SPACE編集部

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