2017/10/17

沖縄国際通りに設置された『絶対あふれないごみ箱』 店員も笑顔にするその仕組みとは

こちら、沖縄県・那覇市にある観光名所である国際通りの『おきなわ屋』さん。なんですが、一点だけ「いつもと違うところ」があります。ヒントは店の前の黄色い箱。

おきなわ屋の前に設置してあるIoTごみ箱

次はこちら、 国際通りの入り口のあるデパート『リウボウ』のエントランス。そして、同じ建物に入っているau NAHAの前。ヒントはそれぞれ白い箱と、シーサーデザインの黄色い箱。

リウボウとau NAHAの前に設置されているIoTごみ箱

最後は、沖縄土産として人気の「元祖紅いもタルト」の『御菓子御殿』のショップの前。ヒントは……もういいですね。

御菓子御殿の前に設置されているIoTごみ箱

正解は、「これまでなかった箱、つまりごみ箱が設置されている」でした。

「国際通り」は沖縄県庁前の交差点から始まる商店街。通りにデパートからお土産やさん、レストラン、雑貨屋さん、コンビニたくさん、あとホテルに、有名ディスカウントスーパーなどが並びます。

戦後、沖縄復興のシンボルとして「奇跡の1マイル」と呼ばれた那覇随一の繁華街。この「1マイル」には、これまでごみ箱がほとんどなかったのです。

国際通りにごみ箱はない

空っぽのペットボトルを捨てようと、あるコンビニに行くと、店の前にゴミ箱はない。店内にもない。スタッフのおねえさんに尋ねると、見当たらないのではなくて「ない」のだそう。観光客のみなさんが“自分のごみ”を捨てに来たり、「捨てといて」とごみを置いていこうとするケースが多くて、国際通りのコンビニでは店内でもごみ箱を廃止しているところが多いのだという。

「観光客の方にとっては、ごみ箱があったほうが便利だとは思うんですけどね……」とコンビニのおねえさん。

なぜ国際通りにごみ箱が見当たらないのか。歴史を紐解くと、昔は敷地内にごみ箱を置く店舗もあったという。で、多くは灰皿も一緒に置いていた。それが、平成19年の那覇市路上喫煙防止条例で一斉に撤去。そのタイミングで、吸い殻を捨てられる危険性を鑑みて一気にごみ箱が減った。いくつかの店舗は設置し続けたけれど、やっぱりごみが溜まってあふれてしまうので、撤去する流れになったという。

国際通り こちらが国際通り。ごみ箱がないからといって、ごみが落ちているわけではない

東京某所のごみ箱 東京の某街の某ごみ箱まわりの日常的風景。まあごみ箱があればこうなりますよね

そんなわけで今、国際通りにごみ箱はない。でも、話を聞いた限りでは「あってほしい」という人が多かった。ただ、みんな口を揃えて言うのは「あふれては困る」ということ。

だってせっかくごみ箱があっても、こんなふうになるなら、ないほうがマシというものじゃないか。

そこでIoTなんです!」 そう言うのは、KDDIビジネスIoT企画部の原田圭悟。

IoTごみ箱とはつまりどういうことなのか

実は今回、沖縄国際通りにごみ箱を設置する実証実験が行われた。そこで使われたのが、KDDIビジネスIoT企画部が開発したIoTごみ箱だ。

取材したのは、9月7日。9月2日から約1週間にわたって、国際通りにIoTごみ箱を設置する実験が行われていた。県内外から集まった取材陣のカメラに囲まれているのが、原田圭悟である。

取材陣に囲まれるKDDI原田圭吾

「ごみ箱が溢れているかどうかを常時監視するのは人員的にもコスト的にも難しい。ごみ箱が設置されていれば便利なことは間違いないわけですから、大きなコストをかけずにごみ箱を管理できればこれらの問題は解決します。そこでIoTが役に立つというわけです」(KDDI原田)

au NAHA前のごみ箱上部のふたを開けると……。

IoTごみ箱の内部

中はこんなふうになっているのである。

2つの距離センサーは、たまったゴミの量を超音波を使って高さ(ゴミ箱のふたまでの距離)で計測。こいつが寒暖差で誤差を生むことがあるので、それを補正するのが温度センサー。コンピュータはRaspberry Pi(ラズベリーパイ)と呼ばれる小型タイプのもので、これが距離と温度のデータを処理。奥のフリスクっぽいケースはLTE-M通信モジュール。これが1分間隔でゴミの量をサーバーへと送っているという。

ちなみに、ビルやお店の商用電源は一切使わず、毎日1回の充電で1日持つようになっている。そんなことを説明しつつ「このユニットは、部内のみんなで手作りしました(笑)」と原田。

ごみ箱の状態は常時モニタリング可能

国際通りからクルマで10分ほど北上した那覇市安謝にあるのが監視センター。ごみ箱はリアルタイムでモニタリングされ、ごみの量が80%を超えると、通知が来るようになっている。

IoTごみ箱のモニタリング画面

モニターには情報がこんな感じで表示される。各ごみ箱は余裕のあるときはブルー、まあまあはグリーン、80%を超えると赤で表示。数字はごみのたまった割合だ。

IoTごみ箱のモニタリング画面

位置情報もモニターしていて、下写真ブルーとグリーンの丸印が、ごみ箱の位置。このアイコンの色も、ごみのたまった分量に応じて変わる。で、地図の左端にポイントされている赤丸が、回収チームの所在。ごみ箱の近くに待機している。彼らはLTE-Mの通信モジュール(さっきのフリスクっぽいやつですね)をポケットに入れてるのだとか。

IoTごみ箱のモニタリング画面

こちらはそれぞれのごみ箱がどのように満タンになっていくかを示すもの。横軸のひと目盛りは3時間で、縦軸はパーセンテージを示す。これらは「KDDI IoTクラウド Standard」を活用しているのだという。

なお、4つのごみ箱は夜になるとすべてこの監視センターまで回収して、充電などのメインテナンスを済ませ、翌朝また設置に行く仕組みになっている。

このシステムがあれば、低コストでごみ箱が溢れないように管理することができる。実験の結果は今後、同じ問題を抱える地域のひとつの解決策として、指針になりそうだ。

IoTごみ箱、いる? いらない? 街の人に聞いてみた

そんなわけで、今回のおおよそ1週間の実証実験に関して、いろいろな人に感想を聞いてみた。

まずは「監視センター」と回収を担当してくれた、障がい者によるIT作業所「サンブリッジ」代表の迎里崇雅さん。

IT作業所サンブリッジ代表迎里崇雅

「インターフェイスがすごく優しいので、直感的にごみの様子がわかっていいですね。それと、自分たちがKDDIの事業に携われて、社会に参加しているという点が嬉しくて、自信につながるというスタッフもたくさんいました。実証実験だけでなく、ぜひ事業化していただきたいですね」

こちらは今回、実際に働くお店の前にゴミ箱を置かせてもらった『御菓子御殿』のスタッフ・當間明子さん。

御菓子御殿女性スタッフ

「ごみ箱ないんですか? っていう観光客の方からの声は多いんですよ。みなさん、袋に入れて持ち歩かれてるもんで。15年ぐらい前、私がバイトしてた頃にはごみ箱があったんですけど、やっぱり溢れちゃって、片付けが大変だったんです。今回みたいなごみ箱なら大歓迎ですね。今後も置いておいてもらえると、すごくありがたいです」

同じくごみ箱を設置した『おきなわ屋』の村上絹代さんも「お店に『ごみを捨ててください』っていう観光客の方も多いんです。それはまだいいほうで、朝出勤してきたらシャッターの前に放置されてることもしばしば。あふれないごみ箱は、本当ありがたいですね」と言う。実際に国際通りを歩いてみると、ごみ箱はないけれど、ごみもそんなに見当たらない。非常にきれいだったりする。でもそれは「各店舗の方々が掃除してるからだと思いますよ」と、村上さん。

こちらは県庁前で話を聞かせてくれた20代地元OLのふたり、神村友理さん(左)と鉢嶺梓さん。

地元OLのふたり

神村さん「絶対ごみ箱いるでしょ。私たち地元なんで、毎日出勤の時、国際通り通るんですけど、植え込みにペットボトルとか捨てられてるんですよ。“あふれないごみ箱”なんかあったら最高じゃないですか!」

鉢嶺さん「地元のお店の人が掃除してるの知ってますし、ごみ箱があって、しかもその管理をしないで済むなら、絶対いいですよね!」

ちなみに現地の人にとっては「ごみ箱がない」のはもはや当たり前のことのようで、取材前夜、地元の沖縄料理店で隣り合わせた20代の女性は、「沖縄の人はクルマ移動が多いから、ごみは一旦クルマにキープしていて、家に持って帰って捨てることが多いよ!」と沖縄ならではの事情を教えてくれた。

ともあれ、あふれず適切に処理されるならば、ぜひともごみ箱が欲しいというのが大半の意見でした。

IoTごみ箱には、こんな秘密がありました

実は今回のIoTごみ箱には、次世代のIoT向け通信技術LPWAが使われています。LPWAは、「Low Power Wide Area」の略。電力をあんまり使わずに長距離の無線通信ができる技術のことで、今回使われていたのはLTE-Mという技術。ごみ箱のセンサーのくだりでサラッと紹介してましたが、フリスクケースっぽいやつに入ったアレです。

KDDIビジネスIoT企画部原田圭悟

LTE-Mは「省電力」で「広いエリアをカバー」し、さらに「低コスト」が特徴だ。「今回の実証実験でやりとりしていたのは“ごみ箱にごみがどのくらい溜まったか”という小容量のデータでしたが、IoTは大容量のデータ通信を伴わずに成立するケースが多いので、今後、様々なモノがインターネット化する際に常に有用な技術だと考えています」(KDDI原田)

LTE-Mは2017年度内の商用化を目指しているそう。で、今後も実用された際の有効性や、電波はきちんと浸透しているのかなどの検証を引き続き行っていくという。

今回の取材を通して感じたのは、今後はこういったIoT技術を利用したさまざまなアイデアがでてきそうだということ。我々がビックリするようなIoTがどんな社会的な課題を解決していくのか、見守っていきましょう。

 

文:武田篤典
撮影:有坂政晴(STUH)

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