2017/03/17
【茶室VR】利休の時代から続く『樂焼』当代に聞いた、茶室をVR体験するということ
史上最大の樂焼の展覧会が開催。オリジナルのハコスコも登場!
時代は約450年前。茶人・千利休の「侘び・寂び」の思想をひとつの茶碗という形にしたことから始まった樂茶碗の歴史。その伝統は一子相伝で受け継がれ、現在は十五代樂吉左衞門さんが、樂茶碗の新たな境地を切り開いている。
樂 吉左衞門(らく・きちざえもん)
桃山時代、初代長次郎によって始められた「樂焼」を一子相伝で受け継ぐ樂家の十五代当主。1949年生まれ。東京藝術大学彫刻科卒業後、ローマ・アカデミアへ留学。1991年、十五代吉左衞門襲名。
そんな樂さんが設計したという、滋賀県の佐川美術館・樂吉左衞門館にある茶室も実にユニークなのだが、このたびその茶室を段ボール製のゴーグルとスマホを使ったサービス「ハコスコ」でVR体験することができる。
樂さん設計の茶室を再現したVR動画のダイジェスト版はハコスコアプリから観ることができる。
まるで自分が茶室のなかにいるかのような臨場感!
450年の伝統と、最新IT技術。一見、相性がいいとは思えない組み合わせだが、そもそも樂さんは、VRに興味があった?
「いや、特には。世間では3D映画が流行っていますが、別に立体的に見えなくてもいいと思っているくらいです(笑)。なのですが、今回の話をいただいて、いざVRを体験してみたら、これはこれで面白いなと。
素の肉眼では見られないもの、感じられないものが目の前に現れますよね。これまでも、茶室や樂茶碗をCGや映像とコラボレーションするという試みは行ってきたのですが、やはり平面的ですし、一方向からしか見ることができません。
でもVRなら、まるで今その場で茶室に来たかのように、空間そのものを体感できます。『ジュラシック・パーク』のようにね。それが面白いなと」
確かに、茶室の映像を「ハコスコ」で見ると、一条の光だけが差す水の中をイメージした空間や、ヨシとヒメガマの水庭に囲まれた開放的なスペースが、目の前にありありと浮かび上がってくる。
「ふたつの茶室のうち、3畳半の小間は地下、しかも地上に広がる水庭から水没している。この茶室は盤陀庵(ばんだあん)という名前がついていて、「盤陀」というのは仏陀の座った座禅石のこと、だから水底に沈んだ座禅石ってイメージ。そこは花も木もなく、自然から届けられる贈り物は唯一光だけです。それがラックコンクリートと手漉き和紙で囲われた緊張の空間に刻々と変わる光の闇の美しさを届けてくる。
一日のうちでも、時間帯によってさまざまな光が紙壁に反映するのですが、ハコスコでは少し青みを帯びた白みがかった朝の光が見られると思います。それは朝の東からの光、黄色くなった午後の光に変わってゆく、そうした空間の醍醐味はハコスコなら体験できます。
そこから、階段を上った地上の広間は、俯仰軒(ふぎょうけん)です。ここでは、先ほどの空間とはうって変わって、水面と同じ高さに座っているかのような水平の開放感を味わっていただけます。茶室を訪れたことのある人は、思い出を追体験できるでしょうし、行かれたことのない人は興味が湧くのではないでしょうか」
自らが設計した茶室に込めた思いとは?
水没した茶室から明るい水面へ浮かび上がるかのように階段を上っていく雰囲気まで、リアルに表現されている「ハコスコ」。これは実際の茶室も体感してみたくなる楽しさだが、それにしても従来とはまったく異なるイメージの茶室ということもワクワク感を増長させる。この茶室、どのようにして思いついたのだろうか?
「京都から1時間くらいのところに、原稿を執筆したりするデスクワークのためのアトリエがあるのですが、その周りがすごいススキ野原なんです。本当に生え放題で、2mほどの高さにまで成長しているので、その中に立つとススキの海に沈んでいるような感覚になる。
さらに座ると、蟻が近くに見えたり、自分の体に登ってきたりと、より自分が自然と関わっていると体感できた。そのときに、ああ、こうあるべきだなと思ったのです。
世間で"自然に触れる"というと、緑や花を取り入れたり、公園に行ったりということがほとんどでしょう? それは自然を"所有"する意識ですよね。悪いとは思いませんが、私自身は自然と対等に関わり、ひとつになりたいと思うのです。自分自身も自然のひとつですから。そこから、"水面と同じ高さに座す"という茶室のコンセプトが生まれたのです」
利休や織部の茶室を疑似体験できたらいいですね
そんなユニークな茶室体験ができる「ハコスコ」は、3月14日から東京国立近代美術館で開催している企画展「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」の公式ショップで入手できる。もちろん、この企画展そのものも見どころ満載だ。
「千利休に心を表す初代・長次郎のものから現代の茶碗まで、ここまで一堂に見られる機会は、私たちでさえ滅多にありません。特にここに並んでいる長次郎は、長次郎の中でも厳選したものです。つまりその多くは利休が所持し利休がそれで茶を飲んだという茶碗です。これだけの長次郎がこのように一同に並ぶことは、もう僕の生涯にはないと覚悟しています。
中には利休の年忌50年ごとにしか使われない表千家の「禿」、その節目以外は千家様の蔵に眠っています、『これを最後にしばらくお披露目は控えますが、その代わり全期間お貸しします』とご協力いただいた方など、当家だけでなく、これまで樂茶碗を大切に所有していただいた方とのご縁があって、今回の貴重な展示ができたのです。
茶道や焼き物の経験がない方も難しく考えず、ただ茶碗を前にして感じていただけたら嬉しいですね」
ちなみに、今回の「ハコスコ」で最新IT技術と伝統技術との接点を見出した樂さん。今後VR技術でやってみたいことはある?
「たとえば、自分が四角い箱の中で映像を切り変えると、(千)利休の茶室だったり、(古田)織部の茶室だったり、自分の茶室だったりを疑似体験できる、なんてことができるといいですね。これなら何人かで同時に同じ映像を体験できて、より臨場感が出ると思います。
これからも、最新テクノロジーと自分の仕事でつながる部分があったら、お互いのいいところをうまく活かして取り入れていきたいですね」
- 千利休の時代から現代まで! 貴重な樂焼が一堂に会する史上最大の企画展
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千利休の志を受け、長次郎という人物によって創造され、450年間一子相伝という形態で続いてきた樂茶碗。ろくろを使わず、「手づくね」という独特の技法によって生み出される造形美は必見。また、代々ただ一人に受け継がれる一子相伝でありながら、その一人にさえ書物や口伝などで技術が教えられることはなく、幾度も試行錯誤を重ねて作られる釉薬も一代限りのもの。いつの時代も伝統と革新を秘めてきた茶碗の数々をお見逃しなく。
『茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術』
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
会期:2017年3月14日(火)~2017年5月21日(日)
開館時間:10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)
*入館は閉館30分前まで
休館日:月曜(3/20、3/27、4/3、5/1は開館)、3/21(火)
http://raku2016-17.jp
文:知井恵理
撮影:有坂政晴
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