2020/08/12

コロナ禍でも安心できる移動を…『混雑エリアマップ』を開発したナビタイムの思い

2020年5月25日、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が解除となり、6月19日には東京都の休業要請も全面解除となった。以前よりも外出の機会は増えてきているが、感染者数の増加は全国的に続いており、街なかに出向くことを不安に思う人も多いだろう。

2020年6月10日新宿駅前の通勤風景

そこでこの6月から、ナビタイムジャパンは、街の混雑状況をスマホの地図で事前に直感的に確認できるサービスを開始した。総合ナビゲーションアプリの「NAVITIME」において、地図上に街の混雑状況をリアルタイムに表示する「混雑エリアマップ」である。

これは、新宿駅近辺を「混雑エリアマップ」で表示したもの。地図上に配置されたマス目は300m✕300mで、もっとも混雑度の高いエリアは濃い赤色で表示。オレンジ、黄色と混雑度が下がり、もっとも人の少ないエリアは薄い水色で、9段階で表される。混雑状況は、5分ごとに更新されていくという。

通勤時の新宿エリアを表示した「混雑エリアマップ」
新宿駅周辺の周辺混雑エリアマップ
(2020/7/28 16:50現在)

このように新宿駅を中心としたエリアは非常に混雑しているが、JR代々木駅の東側や東京メトロ北参道駅近辺は色が薄い(=人が少ない)ことがわかるだろう。

職場や取引先などの目的地が混雑しているならば、たとえばひと駅手前で降り、比較的色の薄いエリア経由で通勤するなど、混雑を避ける目安にすることはできる。あるいは知人との待ち合わせなどプライベートの用件の場合には、赤いエリアを避けて、水色のエリアを選ぶことで安心度は増すはずだ。

また、7月22日からは「駅混雑予報」の提供を開始。「NAVITIME」で駅の詳細画面を表示すると、その日の混雑予報と実際の混雑度合いを2つのグラフで確認することができる。こちらは同じく新宿駅の「駅混雑予報」。

新宿駅の「駅混雑予報」のグラフ
新宿駅周辺の周辺混雑エリアマップ
(2020/7/28 16:52現在)

2つのグラフがその日の1時間ごとの混雑予報を表している。緑色の棒グラフは、過去一定期間の利用情報をもとに普段の混み具合を表示し、オレンジの折れ線グラフは、実際の混雑度を表したもの。混み具合を把握しておくことで、人の少ない時間帯を狙って駅に向かうことができる。

「空」という新しい情報の提供で、より快適な移動を提案

この「混雑エリアマップ」や「駅混雑予報」のサービスは、「NAVITIME」アプリで利用可能だ。

2003年当時に提供されていたEZナビウォークの地図画面
EZナビウォーク(2003年当時)

これまでもナビタイムジャパンはauと連携し、2003年には世界初の歩行者ナビゲーションサービス「EZナビウォーク」を提供。2017年には「auナビウォーク」で「電車混雑回避ルート」サービスにおいて、どの路線のどの時間帯の電車に乗れば混雑を避けて快適に電車移動ができるかという経路検索を実現。今までの「早」(所要時間が短い)、「安」(交通費が安い)、「楽」(乗り換え回数が少ない)という要素に加えて、「空」(車内が混雑していない)という情報を提供してきた。

anナビウォークのトータルナビルート

以来、交通ビッグデータ解析などそのノウハウを活かし、都市の交通混雑を解消し、より快適な移動を実現するためのサービスやプロジェクトは継続している。

コロナ禍の発生以降、長期間の休業要請によって、外出や移動に対する不安が広がった。ナビタイムジャパンはこれまですべての人の“移動"をサポートしてきた会社として、こういった状況下でも移動の必要がある人たちに対して提供できるサービスがないかと、今回の新たなサービスの開発に着手したのだという。

ナビタイムジャパンの新サービス開発の裏側とは?

この新しいサービスのスタートにはどんな背景があったのか、TIME & SPACEでは、ナビタイムジャパンに話を伺った。

サービスの事業責任者であるナビタイムジャパン メディア事業部 兼 トラベル事業部 部長の毛塚大輔さんは、ある種の使命感をもって開発に着手したという。

「コロナ禍のさまざまな自粛要請により、移動が困難になるなか、それでも外出して移動せざるを得ない人がいます。私たちは移動を支援する会社ですので、ここでなにもしないわけにはいかない。移動の必要がある人たちに少しでも安心してもらえる手段はないかと考え、このサービスに着手しました」(毛塚さん)

ナビタイムジャパン メディア事業部 兼 トラベル事業部 部長の毛塚大輔さん
ナビタイムジャパン メディア事業部 兼 トラベル事業部
部長 毛塚大輔さん

以前から、特定の日の駅が普段と比べてどの程度混雑しているかを予測するサービスや、鉄道の路線や車両別の混雑度、またその混雑を回避する経路の提供など行っていたが、地図上に混雑情報を掲示するのは初めてとのこと。

「私自身も在宅勤務になり、やはり外出に不安を覚えるようになっていました。そうした自分の体験をしているなかで、どういう情報があると人は安心して移動できるのか。それを考え、日頃から研究開発してきたものと掛け合わせて開発に取り組みました」(毛塚さん)

何より開発責任者であるナビタイムジャパン 開発部 部長 兼 ACTS(研究開発)ルートグループ責任者の小田中育生さんがこだわったのは、「本当にユーザーにとって必要な情報はなにか」「どのタイミングでサービスを提供することができるか」の2点。開発に着手したのは緊急事態宣言下の2020年4月に入ってからだという。

ナビタイムの「混雑エリアマップ」

「当初は、混雑エリアを避けた経路を提案するというアイデアも出たのですが、厳密性をもって経路検索までサービスにするのは時間がかかる。明日にでも混雑しているエリアを知りたい状況のなか、どういうサービスならばいち早く提供できるのか。企画とエンジニアが意見を出し合い、社内で検討を重ねた結果、“どこが混雑しているのかが一見してわかる”ことだけでも不安の解消につながり、移動ルートの意思決定の補助になると考え、すぐに地図上に混雑エリアを表示するサービス開発に着手しました」(小田中さん)

混雑エリアを回避したルートの提供ではなくマップの表示としたことで、制作の工数や検証の日数が減り、より迅速なサービスの提供にもつながったという。ユーザーとしても、地図上に混雑エリアが表示されることで直感的に街の混雑状況を把握し、安全な移動の参考にすることができるというわけだ。

ビッグデータ解析による混雑エリアの測定

では、いったい街のエリアの混雑度をどのように測定しているのだろうか。

ナビタイムジャパンのサービス全体での月間のユーザー数は5,100万人にものぼる。この数の人々の利用情報を解析することで、混雑度の把握や混雑予測を立てているのだ。

だが、より精度の高い混雑情報の提供には利用情報だけではないという。

「利用情報の解析をベースにしているが、大事なのはユーザーのからの投稿情報。実際どのくらい混んでるかという人の感覚も大事なので、利用者のログと投稿情報の両方を汲み取ることで精度が上がっていくと思います」(小田中さん)

さらに混雑エリアマップは5分ごとにリアルタイムの混雑情報を更新していくが、ここにナビタイムジャパンの強みがあるという。

「今回のシステム自体は新規に作ったものですが、たとえば弊社では自動車の渋滞情報について、プローブ情報などをもとに、リアルタイム更新を10年以上行っています。大量のデータを複数プロセスで処理するノウハウがありますので、その強みを活かすことで、今回のサービスも早期に実現できたと考えています」(小田中さん)

ナビタイムの渋滞情報地図
ナビタイムの渋滞情報地図
(2020/8/7 12:55現在)

実質約2カ月で企画から開発、公開までのスピード感もさることながら、驚くべきは、これらのサービス開発をゼロからすべてリモートで行ったということ。

小田中さんは開発期間を振り返る。

「リモートでゼロからの新しいものづくりを、テレコミュニケーションを通じて行うのは大変でした。ただ、関わったエンジニアはスケジュールにおののきながらも、いまナビタイムジャパンが社会に対してできる深い意義のあることである、という自負を持って全員が取り組んだので、モチベーションも非常に高かったです」

「混雑エリアマップ」については、今はまだ利用者の多い東京を中心とした都市部だけの提供だが、今後は、全国にサービスを広げるビジョンもあるという。さらに今後、コロナが収束すれば混雑を避けるだけでなく、たとえば、人通りのない夜道が不安な人に「このエリアなら人がたくさんいるので、安心して歩ける」というような使い方も提案していきたいという。

コロナ禍で変わる移動の未来

近年、いかに効率的に便利に移動するかという点にスポットがあたり、「MaaS」(=Mobility as a Service)など、ITをベースにあらゆる移動手段をシームレスにつなぐ方法が模索されてきた。

しかし、コロナ禍によって人々の生活様式が変わり、一部の移動するという行動が、オンラインでのコミュニケーションに置き換わるようになってきた。では今後「移動」には何が求められるのか。コロナ禍を経て「その先」を見据えるようになったのだと、毛塚さんはいう。

ナビタイムジャパン メディア事業部 兼 トラベル事業部 部長の毛塚大輔さん

「最短・最速だけでなく、安心・快適な移動の提案。移動自体を楽しんだり、自分が移動することの価値を発見できるような付加価値の提案が、これからのモビリティカンパニーには求められていると思っています」


文:TIME & SPACE編集部

取材:オンライン

写真提供:ナビタイムジャパン