2020/08/06

スマホで世界の美術館めぐりができる『バーチャルミュージアム』 名作を自宅でAR展示も

デジタル通信技術によって、アートの楽しみ方がより広がっている。

近年、世界中の美術館や博物館、あるいはGoogleといった企業が、スマホやPCで気軽に楽しめるアプリを提供している。現地に行かなくても時間を気にせずいつでも訪問し、作品の細部を拡大して筆致や質感を確認できるだけでなく、美術館内をくまなく楽しめるバーチャルツアーなど、アートの世界をより気軽に、深く堪能できる。

ここでは、日本の国宝や海外の有名美術館・博物館の名画、名品を自宅で楽しむ方法として、編集部おすすめのサービスとその特徴を紹介しよう。

細部までじっくり鑑賞できる「e国宝」

Webサイトおよびアプリ「e国宝」は、東京国立博物館、京都国立博物館、奈良国立博物館、九州国立博物館の4館が所蔵する約1,000点の国宝と重要文化財をスマホ上で鑑賞できる。

絵画や彫刻、書跡のほか、建築や刀剣、漆工など12の幅広いジャンルをカバーしており、検索機能を使えば作品名で探せるだけでなく、制作地域や時代、所蔵館などごとにまとめて表示することも可能だ。

e国宝トップページ

彫刻も絵画も、筆致や素材がわかるまで拡大!

作品分野一覧から見たいジャンル、作品をサムネールから選択するだけと、操作はとてもシンプル。まずは京都国立博物館に収蔵されている国宝「山水屏風」を見てみよう。

e国宝「山水屏風」

高精細な画像なので、表示された画像をピンチアウトして拡大すると、筆致や屏風の素材感までが伝わってくる。人物たちの表情、庭や屋根に止まる小鳥、いきいきと描かれた柳の枝の筆致などまではっきりとわかる。図録や美術書などの印刷物では好きな場所を自由に拡大することは難しい。アプリならではのメリットといえる。

e国宝「山水屏風」

また、[i]をクリックすると、作品についての詳細な解説文を読むことができる。国宝「山水屏風」は11世紀に唐から東寺に伝来し、平安時代の屏風絵としては唯一の遺品で、貴族のあいだで人気だった唐代の詩人、白楽天が描かれているという説もあるとのこと。作品画像と解説文を交互に確認しつつ、知らない用語や時代背景などをWebで検索しながら作品鑑賞するのもよいだろう。

e国宝「山水屏風」の解説

立体物なら博物館では見られない角度からの鑑賞も

アプリならではのもうひとつの大きなメリットは、彫刻など立体物ではなかなか見ることができない裏側(背面)の写真データも掲載されていること。

[彫刻]から[国宝 薬師如来坐像]を選択すると正面の全体像が表示される。さらに画面下の画像一覧をタップすると、顔や胴体部分の寄りなど、さまざまな角度から撮影された画像が全19枚を閲覧することができる。薬師如来像の背中や像の真下など、所蔵館に行っても見ることのできない部分の画像も公開されている。もちろんそれぞれの画像を拡大することが可能だ。

e国宝「薬師如来坐像」

ブックマークやメモも可能なので、鑑賞日記もつければ作品に対する理解をより深めることができるだろう。

世界中の美術館巡りができる「Google Arts & Culture」

続いて「Google Arts & Culture」。世界80カ国、2,000超の美術館や博物館、ギャラリーなどが収蔵している3万点以上の作品、文化遺産をWEBまたはスマホアプリで無料で鑑賞できる。

デジタル化された超高精細画像の名画名品を楽しむだけでなく、美術館や博物館内部をストリートビューで楽しむ「バーチャルツアー」、「スマートフォンを使ってアートで遊ぶ」による「フェルメールのような自撮り」、「音楽+アート」によるおすすめ美術館巡りなど、アートを楽しむ機能が盛りだくさん。

英語表示される部分も多いが、メニューや機能は日本語で表示される。また、画面下部に表示される[Google で翻訳]をタップすれば、英語で表記されるオンライン展示などのコンテンツを日本語で表示させることも可能。AR(拡張現実)やVR(仮想現実)で作品を鑑賞できるコンテンツも増えており、今後の展開にも注目だ。

 Google Arts & Cultureトップページ

名作を翻訳された解説付きで鑑賞

では、さっそく美術館巡りをしてみよう。自分のGoogleアカウントから[コレクション]をタップすると、世界の美術館と博物館一覧が表示される。まずは「Musée d’Orsay, Paris(オルセー美術館)」から観てみよう。

 Google Arts & Culture操作画面

オルセー美術館の見どころでもあるゴッホの作品は、「このコレクション内」の[すべて表示]をタップ。作品はさまざまなカテゴリー分けがされているので、[フィンセント・ファン・ゴッホ]を選び、好きな作品を選んでみよう。

Google Arts & Culture操作画面

有名な「The Church in Auvers-sur -Oise(オーヴェルの教会)」を選び、画面下部のタブを上にスワイプすると解説が表示される。外国語が堪能でなくても絵と一緒に解説まで見られるのはありがたい。

 Google Arts & Culture操作画面」

多くの作品は超高解像度画像でデジタルデータ化されており、非常に細部までズームして観賞することができる。たとえばMOMAに収蔵されている「The Starry Night(星月夜)」なら、ゴッホならではの渦巻くような筆遣いはもちろん、塗膜の割れ、地のキャンバスにいたるまで確認することができる。

Google Arts & Culture操作画面

このカテゴリーはほかに[油絵具][帆布][ポスト印象派]など、掲載作品がキーワードで括られているので、たとえば[印象派]から[ポスト印象派]と追うことで美術史の流れを理解しやすい。

また、「他作品との関連性をチェックできます」欄にある[試してみる]を選ぶと、ゴッホの他の風景作品や、同時代に描かれた他作家の風景画などが表示され、ゴッホ作品をより深く理解したり、絵画史を体系的に理解することができる。

美術を勉強している人や専門家に限らず、家にいる時間を利用して、一般教養として知識を身につけたいという人にとっても大いに役立ちそうだ。

美術館内をバーチャルツアー

美術館を選ぶと「人」のアイコンが現れるのでタップしてみよう。するとその美術館内をストリートビューでバーチャルに散歩することができる。有名な美術館は名建築であることが多く、施設そのものの散策が楽しみのひとつでもある。

広大なフロアかつ膨大な所蔵品で「とても1日では回りきれない」といわれる大英博物館も、この機能を使えばゆっくりと、人の目を気にせずに堪能できる。

大英博物館のストリートビュー 大英博物館のストリートビュー

美術館以外にも、たとえばパリの「オペラ座」も掲載されており、舞台上からの眺めから舞台地下のいわゆる「奈落」まで、観客として行っても決して見ることができない眺めをバーチャル体験できるのがおもしろい。

Google Arts & Culture操作画面 左)パリ・オペラ座のトップページ。中)オペラ座の舞台上からの眺め。右)オペラ座舞台の地下

名画を自宅にAR展示! Art Projector機能

名画を自宅に飾ってみたいと思ったことはないだろうか? Google Arts & Culture アプリにはArt Projectorという機能があり、AR(拡張現実)技術を利用して、スマホのカメラ越しに好きな絵画を自由に配置、好きな角度から鑑賞することができる。

方法は、絵画を選ぶと現れるArt Pprojectorのボタンをタップ。スマホのカメラ越しに配置する場所を選ぶと、そこに絵画が実物大で展示される。試しにオランダの美術館「ロイヤルピクチャーギャラリー マウリッツハイス」からヨハネス・フェルメールの名作「真珠の首飾りの少女」をチョイスしてみると、ご覧のとおり、殺風景な編集室がアート空間に。

Google Arts & Culture「Art Pprojector」機能でフェルメールを展示

ほかにもGoogle Arts & Cultureならではの楽しい機能が

Google Arts & Cultureには、自撮りした画像をアップロードすると、撮った写真を有名アーティストの作品風に変換してくれる「Art Transfer」や、自分の顔に似た肖像画が表示される「Art Selfie」といった、アートをより自由に楽しむ機能が搭載されている。トップページ画面下部に現れるカメラマークをタップすると、メニューが現れるので試してみよう。

Google Arts & Cultureのさまざまな機能

スマホでアート鑑賞がますます便利に

今回紹介したアプリやサイトを使えば、1日で世界中のアート鑑賞を、たとえば国宝の薬師如来坐像(奈良国立博物館)を見たあとに、ゴッホの4番目の「ひまわり」(ロンドン・ナショナル・ギャラリー)と、モネの「睡蓮」(パリ・オルセー美術館)を解説付きで鑑賞、という離れ業も可能になる。

また、2019年にはルーブル美術館が「モナリザ」がVRで鑑賞できるという企画展を開催して大きな話題になるなど、アートと先端技術が結びつくことでその楽しみ方は大きく広がっている。

実物を自分の目で見ること以上に、時間と距離を超えて名画を楽しんだり、作品を触れるほどの距離や自由な視点と角度で鑑賞したり、解説を聞きながら名作を楽しめるといった、スマホによる新しいアート体験をぜひ堪能してほしい。

文:知井恵理