2018/08/31

読書感想文はスマホで自動生成できるのか? AIの専門家に聞いてみた

夏休みのイヤな思い出といえば、宿題。なかでも「読書感想文」が天敵だった人は多いのでは? かく言う筆者も、最終日に別の意味で涙しつつ、原稿用紙に向かった…というクチである。しかし、最近はAI(人工知能)が新聞記事や小説を書いたなんて話も聞こえてくるし、読書感想文をサクッと片付けてくれるようなサービスが登場していてもおかしくないのではないだろうか。

そこで、読書感想文を生成してくれるスマホアプリを調べるとともに、実際に自動生成が可能なのかをAI専門家に聞いてみた。

読書感想文のお助けアプリを使ってみた!

最近ではニッチな需要に応えるサービスが次々と登場しているスマホアプリ。必ずや我々のニーズに応えてくれるものはあるはず…と思って調べたところ、“読書感想文”に関するアプリが、いくつか存在することが判明。そこで2種類のアプリを実際に使ってみた。

アプリを使って読書感想文を書いている様子

① 入力方式で感想文を作成するアプリ
まず試したのが、質問に答えるだけで読書感想文が完成するというアプリ。課題図書を読んだ後、アプリで入力を開始。あらかじめ用意された質問に対する回答を入れていく。10分ほどで回答を終わると、すぐに読書感想文ができあがった! アプリの仕組みとしては、先ほどの回答ひとつひとつを、感想文のフォーマットに当てはめているようだ。文章の微調整まで含めて、トータル20分ほどで完成。構成を考える必要がなく、サラッと感想文のフォーマットに落とし込んでもらえるのは助かる。

② 読書感想文のノウハウ学習アプリ
次に試してみたのが、読書感想文の作り方を教えてくれるというアプリ。いわば“教科書”のようなイメージだ。具体的には、読書の前に準備するものや、感想文を書く手立てを教えてくれる。もちろん、感想文自体は自分で書くので“自動”ではないが、書き方を手取り足取り教えてくれるのはありがたい。何より学びになるのが良いところだ。

最新のAIでも自動化は難しい? 専門家に聞いてみた!

どちらも読書感想文を書く手助けになるが、やはり手間がかかる。何より「本を読む」という作業は避けられない(当然ではあるが…)。では、現代のテクノロジーを“総結集”すれば、読書感想文の「完全自動生成」は可能なのだろうか。

そこで訪ねたのが、AIの研究をしているKDDI総合研究所 知能メディアグループ・グループリーダーの帆足啓一郎だ。

インタビューを受ける、KDDI総合研究所 研究員

さっそく趣旨を説明すると、「AIで読書感想文…。考えたこともなかったですね」と言いつつも、「面白い切り口かもしれません、考えてみましょう!」と意外に乗り気。では、実際に今の技術で可能なのだろうか。

「読書感想文は、前半で『あらすじ』を説明して、後半で『感想』を述べるのが一般的な構造ですかね。『あらすじ』は言わば“要約”ですが、AIでもその技術が研究されていて、新聞記事や論文の要約は一部可能になっています」

最近では、1万文字以内の文章をAIが自動要約するウェブサービス『ユーザーローカル自動要約ツール』などが無料公開されている。また、日経新聞では、企業が発表した決算を要約して完全自動配信する「決算サマリー」なども行っている。まさに最新の要約技術だ。

ウェブサイト「ユーザーローカル自動要約ツール」 「ユーザーローカル自動要約ツール」のトップ画面。要約したい文章を入れると、自動要約をしてくれる

それなら、もしかして課題図書を読まずとも、AIにあらすじを書いてもらうことは可能?

インタビューを受ける、KDDI総合研究所 研究員

「それが…小説となると、まだ要約は難しいんです。新聞記事や論文は全体の構造がパターン化されているので要約しやすいのですが、小説はストーリー展開が各々バラバラ。文体も違います。加えて1万字というレベルのボリュームではないですよね」

確かに、課題図書になるような小説のなかで1万字以下(1ページ500文字計算で20ページ以下)の図書はほとんどない印象だ。しかも主人公の一人語りなど、クセがある文体もありがちだ…。

「AIの要約は、単語の出現頻度などから重要なキーワードを認識して、それが含まれた文章を抜き出し、つなぎ合わせるのが一般的なやり方です。ただ、小説はたくさん出てくる単語が重要とも言えませんよね。推理小説の殺人シーンなんて、何度も出てこないですから」

うーん、話を聞くと現状はなかなか難しそう。では「感想」の自動生成はどうなのだろう。

「AIがゼロから生成するのは相当厳しいですね。ただ、こんな方法なら考えられます。まずネット上に載っている、該当する小説の感想を端から集めます。それをAIに読み込ませて、各パターンの傾向をつかませる。例えば、その書き込みをポジティブ・ネガティブなどに自動分類する技術は、すでに実用化されていますので、世間一般の人たちがその本を読んでどう思ったのかという大まかな傾向を知ることはできます。その情報をつなぎあわせて、『ポジティブな感想』を作らせれば、それなりのものになるかもしれません」

AIの特徴である機械学習は、大量のデータを分析してパターン化するのが本領。上記の方法なら、今の技術で「ある程度はできるかも」とのことだ。

読書感想文を自動化できた時、AIはもはや人間になる!?

と、ここまでは現状の話を聞いてきた。では、研究者の立場から見て、未来での完全自動化は見えているのだろうか。まずは「あらすじ」の生成について。

インタビューを受ける、KDDI総合研究所 研究員

「課題図書になるような小説だと、かなり時間がかかるでしょう。なぜなら、小説は文章になっていない部分に『人間の一般常識』が組み込まれているからです。たとえば『人が死んで悲しくなる』という感情は、当たり前の常識。わざわざ小説の中では説明しません。でもストーリーとしては重要。それをAIが読み取るには、人の感情を理解する必要があります」

AIが人の感情を理解する……なんとも壮大な話になってきた。確かにその技術はまだ想像できなさそう。

「『感想』の生成については、先ほどの方法なら近いうちに高い精度になるかもしれません。でもそれは、各分類において標準的な感想を書く方法。本当の理想は、人それぞれの個性や性格をAIが理解して、まるでその人が書いたかのような感想を生成することで、これはまだまだ未開拓の技術でしょう」

読書感想文の自動生成が実現したときは、AIが人間の感情や個性を理解したとき…。現在では完全な実現は難しいが、「メールの返信など『人の個性や感情が出る行動』を肩代わりする、秘書のようなAIはすでにある。今後は、より細かい気遣いまでできるAIが生まれるかも」と帆足氏。まさにSFの世界だ。

いずれにせよ、今はまだ読書感想文をまるごとAIにお任せすることは難しい。しかし、現状のAIでも1万文字以下の文章やパターン化された文章ならある程度は要約することが可能。ネットの感想をもとに、類似した感想を作り出すこともできそうだ。将来は、AIのチカラで読書感想文が自動生成できる日が、来るかもしれない。

取材・文:有井太郎

※掲載されたKDDIの商品・サービスに関する情報は、掲載日現在のものです。商品・サービスの料金、サービスの内容・仕様などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。