2017/02/28
【ネット系女子!】段ボールアートのマニアックワールドへようこそ
いまどきのネットを騒がせている女性たちを紹介する「ネット系女子!」。15回目は、ダンボールアーティスト大野萌菜美さん。大学時代にネットに公開したダンボールアートが「精巧すぎてヤバい!」と話題になり、"ダンボール女子"としてさまざまなメディアに出演。学生時代はフィギュアや食玩の模型制作で知られる海洋堂でアルバイト、大学卒業後はヒーローのスーツを作る造形会社に就職し、その後独立。作品展やワークショップを開催しながら作品をアップし続け、今ではネットを見た海外のインテリアデザイナーやDMM.comなど有名企業からも問い合わせが殺到しています。
「ヤバすぎる」ダンボールアートをこの目で見てみたい! さっそく彼女の自宅兼アトリエを訪ねてみました。
きっかけは大学の課題!?
――早速ですが、手元にある作品はなんですか?
「『ウルトラセブン』に出てくる『恐竜戦車』です。61式戦車(戦後日本の国産戦車第1号)の上に怪獣が乗った、シンプルだけどインパクト大なデザインが最高なんです。張り子のように、ダンボールを切って貼って重ねて作りました。ちなみに、棚から見えているものはロボットの脚。今は制作中で、結構大きくなる予定です」
――戦車や戦闘機関連の本がたくさん置いてありますね。
「戦車はよく作るモチーフのひとつで、作品を作るまえに構造を理解するために、写真集や画集を購入しています。最初に買ったプラモデルはドイツのティーガーという戦車です。戦車って、全身鉄板で守られているのに、下からの攻撃には極端に弱いらしいんですよ。このツンデレっぷりがすごくかわいいですよね!」
――ダンボール工作を始めたのはいつからですか?
「大学2回生のときです。大阪の大学でアニメを学んでいて、年に1回アニメを制作する課題があったんです。私はコマ撮りで30秒くらいのアニメをつくる予定でしたが、当時、好きなアニメのグッズを買いすぎて材料費が全然なくなっちゃって(笑)。材料費の節約ために、そこらへんにあったダンボールを使ってみたのがきっかけです。最初は切りづらいし手の油は持ってかれるしで、扱いづらい素材だと思いましたけど、何度か使ってるうちに段々好きになりました」
あたたかい雰囲気がダンボールの魅力
――ダンボールアートの魅力はどこにありますか?
「安価で手に入れやすいところもいいですが、なにより素材が持つあたたかい雰囲気がいちばんの魅力だと思います。だからカッターではなくはさみを使ってカットして断面に丸みをもたせたり、中芯部分の波目を見せるようにして自分なりの"ダンボール感"を大切に作っています」
――ダンボールのこだわりはありますか?
「以前はAmazonのダンボールを使っていたんですけど、耐久性がイマイチで・・・・・・。今はA3サイズのダンボールシートを購入しています。販売しているものなので、企業のロゴがないし、質もよくて。角や断面もきちんと処理されていてきれいなんです」
――作品はどれくらいの期間で完成するんですか?
「大きさによりますね。たとえば、最初に見せた怪獣戦車などの小さいものは1週間以内で作れます。大きいものだともう少しかかりますね。以前作った『スターウォーズ』のミレニアム・ファルコンは2週間かかりました」
――設計図はどのように描いているんですか?
「私、設計図は描かないんです。だいたい頭の中で設計して、そのままダンボールを切り出して作っちゃいます。パーツの長さが違って困ることも結構あるんですけどね(笑)」
1台の戦車が人生を変えた
――小さい頃から工作が好きだったんですか?
「そうですね。田舎育ちということもあって、小さい頃は近所の山から採ってきた竹で弓を作ったりして遊んでいました。多分、家におもちゃや本が少なくて暇だったから、自分で工作を始めたんだと思います。友達は誰も私の遊びについてこなかったので、ひとりで遊ぶことが多かったですね。
自分の趣味が定まったのは、大学生のとき。もともとエヴァなどのアニメは好きでしたけど、大学の先生に『戦車って面白いぞ!』とか『特撮は観ておくべきだ!』とか言われて、色々調べていくうちに興味を持つようになりました」
――転機となった作品は?
「最初にお話した、ティーガー戦車です。大学時代、ダンボールで作品を作るたびに先生に見せていたら、『TwitterやFacebookで作品をアップすれば見てくれる人が増えるんじゃない?』って言われて。じゃあやってみようと、軽い気持ちでFacebookに戦車をアップしたら、戦車ファンの人たちが『すごい!』『かっこいい!』ってたくさん褒めてくださって、SNSでシェアしてもらえたんです。その後、投稿を見たメディアの人にインタビューの依頼を頂いたり、その流れの取材がきっかけで海洋堂の社長さんとも知り合ったりしました。あのときアップした戦車のおかげで人生が変わりましたね」
――それで、ダンボール作家として生活できるようになったんですね。
「いえ、生活がなんとかなったのはつい最近なんです。大学4年の時は海洋堂でアルバイトをして、卒業後に上京したあとはヒーローのスーツを作る会社で半年ほど仕事をしてました。色々あって会社を辞めてからは、ダンボール工作のワークショップを開きつつ、海洋堂のアルバイト時代に溜めた貯金を切り崩すギリギリの生活で。コンビニで半額になったサンドイッチやおにぎりを買いだめして空腹をしのいだり・・・・・・。去年の夏までそんな生活で、結構大変でしたね。最近はやっと依頼が増えてきて、普通のコンビニ弁当を買えるまでになりました(笑)」
ネットがないと仕事が成り立たない!
――ダンボール制作をするうえでよく使うアプリはありますか?
「TwitterやFacebookは、作品をアップしたり仕事の依頼を受けたりするので、よく使います。あとは、『TOLOT』ですかね。スマホで撮った写真を1冊500円で本にしてくれるサービスです。自分でパパパっとアプリに写真を取り込んで、文字も載せられるので、ポートフォリオ(作品集)を作るときに利用しています」
――海外から制作の依頼が来ることはありますか?
「以前、台湾のインテリアデザイナーからFacebookで声をかけて頂きました。ホテルを改装するから、ウミガメと漁船のモニュメントを作ってほしいという内容で。去年、実際に台湾に展示された作品を見に行ったりもしましたよ。インターネットって、いろんなものや人を繋いでくれてすごいなーって思いました(笑)。私の仕事はネットがなかったら絶対成り立っていないので、今の時代に生まれてよかったです」
――これから作ろうと思っている作品は?
「今は特撮の怪獣にハマっているので、しばらくは怪獣シリーズが続きます。自分の好きなものを趣味でどんどん作っていきながら、オリジナルの作品作りも頑張ります!」
ただのダンボールを超リアルなアートとして生まれ変わらせる大野さん。ギーグな心をくすぐる作品の数々に、取材陣のテンションは上がりっぱなしでした。SNSに作品をアップしているので、気になった人はさっそくチェックしてみてはいかがでしょうか?
文:服部桃子(アート・サプライ)
撮影:稲田 平
大野 萌菜美(おおのもなみ)
1991年、和歌山県生まれ。大阪芸術大学キャラクター造形学科卒業。在学中よりダンボール作品を作り始め、絵画教室の講師も務める。大学2年時である2012年「NPO法人南大阪南大阪地域大学コンソーシアム」主催の「南大阪の歩き方発表会」にて優秀賞受賞。2013年には「大阪芸術大学展示プロジェクト京2013」にてキャラクター造形学科賞などを受賞。2015年「ダンボールで作るおもしろ自動販売機(ブティック社)」を監修。数々の雑誌掲載やイベントに出展。同年、夏には台湾の「小琉球正好友生態環保旅店」に作品を出展し海外進出も果たす。また自ら作品展やワークショップを開催している。