2017/05/11

Siriとの覇権争いに? Amazonの音声アシスタント『Alexa』とは?

謎の黒い円筒形のデバイス

2016年10月に公開された、北米を中心に大人気のシンガー、マイケル・ブーブレの『ノーバディ・バット・ミー』という曲がある。このミュージックビデオのなかで、美女がワイングラス片手にソファに腰を下ろし、誰かに向かってこう言うのだ。「Alexa(アレクサ)。マイケル・ブーブレのノーバディ・バット・ミーを聴かせて」。すると、黒い円筒形のデバイスが光り、こう答える。「マイケル・ブーブレのノーバディ・バット・ミーですね」。

そうして、この黒の円筒から曲が流れ始める。この謎の黒い円筒はAmazon Echo(アマゾン・エコー)という"人工知能スピーカー"であり、美女に「Alexa」と呼ばれた誰かさんこそ、このデバイスの中でせっせと働いている音声アシスタントなのだ。

こんなふうに人気シンガーのビデオに登場するのも、Amazon Echoが北米で今や最先端のオシャレ・アイテムであり、Alexaが日常生活に入り込んでいるという一例である。

クローズドなSiri、オープンなAlexa

音声アシスタントといえば、AppleのSiriを思い浮かべた人も多いのではないだろうか。Alexaとは、Siriに似たAmazonが開発したクラウドベースの音声認識サービスだ。クラウドベースというのは、音声がデータとしてクラウドに送られ、そこで人工知能が音声を解読、テキストに変換してまたスマホなどのデバイス(この場合はAmazon Echo)に送り返す仕組みのこと。これはSiriも同じだ。

では、SiriとAlexaの違いとはなんなのだろうか。いちばんは、SiriがAppleだけがコントロールできるクローズドなシステムであるのに対して、Alexaはサードパーティなどの開発者も利用できるオープンなシステムになっていることだ。

Alexaにどんなふうに語りかけたら、どんなふうにデバイスを反応させるかプログラミングしたものを「Skill(スキル)」と呼ぶ。たとえば冒頭のマイケル・ブーブレのビデオでいえば、「聴かせて(Play)」という言葉を認識したら、その前後の言葉が曲名とアーティスト名だと判断して、その曲を再生する。こういった手順がスキルだ。

Alexaはこのスキルを独自に開発し、自社のデバイスに組み込むことができる。実際、アメリカのラスベガスで開催されたCES 2017では、およそ700社がAlexa搭載製品を発表した。こういったことはSiriでは不可能だ。

AmazonからSiriへの挑戦状

1万近くあるといわれているこの「Skill」によって、Amazon Echoは人々の日常生活をさまざまなかたちでアシストしてくれるようになる。たとえば、Alexaに話しかけることで、天気予報を教えてくれたり、新聞の見出しを読んでくれたり、株価を教えてくれたり、Kindle本を朗読してくれたりといったことから、室内の明かりをつけたりというスマートホームとの連動やピザの注文まで、さまざまなことが可能だ。もはや"人工知能スピーカー"というより、「電脳執事」と呼びたくなる。Amazonが制作した下のビデオを見ると、Amazon Echoの活躍ぶりがよくわかる。

現在、Alexaが利用できるのはAmazon Echoのほかに、Amazon Tap、Echo Dot、Amazon Fire TVなどだ。日本への上陸は現時点では未定だが、近い将来には日本でも使えるようになるだろう。

また、2017年3月、AmazonはiPhoneのiOSアプリ「Amazon」にもAlexaを搭載することを発表した。リリースがいつかは不明だが、Siriに真っ向から勝負を挑んだかっこうだ。Siri vs Alexa。お互いに切磋琢磨して、どんどん進化してくれるなら、ユーザーとしては大歓迎だ。

文:太田 穣