2017/03/07
クルマの自動運転実現のカギ! 電脳3次元地図『ダイナミックマップ』とは?
それはAIに接続された超高性能カーナビ
世界中の自動車メーカーやIT企業が自動運転の実現を目指し、し烈な戦いを繰り広げている。一時期撤退を報道されたあのAppleも、どうやらあきらめてはいないようだし、Google系列会社はホンダやFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)と手を結んだ。アウディやBMWも自動運転試作車を公道で走らせてテストを繰り返しているし、トヨタはシリコンバレーにAIの研究所を設立して自動運転技術や人材を取り込もうとしている。下の動画はトヨタが公開した、そのシリコンバレーの研究所近くでの自動運転実験車の走行シーンだ。
といった具合にまさに各車(社)ひしめきあうカーレースのような状態の今、これがないと自動運転が実現できないとされる、ある核心技術に注目が集まっている。それが「ダイナミックマップ」だ。簡単にいえば、外部のAIやデータセンターに常時ネット接触されている、いわば超高性能カーナビのことだ。このダイナミックマップがないと、自動運転のクルマは自分がどこを走っているのかもわからないし、どこへ向かえばいいのかもわからない。それだけじゃない。この先の道路で工事をしているので道が狭くなっているとか、渋滞が起きているなど、運転に必要なあらゆる情報がこのダイナミックマップにリアルタイムに集められる仕掛けになっているのだ。
誤差数センチの高精度空間情報
このダイナミックマップが普通のカーナビと違うのは、まず、「高精度空間情報」と呼ばれる、その精密さにある。道幅だけでなく、すべての車線、停止線まで誤差数センチの正確さで記録されている。しかも、道の勾配から、信号や標識、街路樹や外灯、道沿いの建物まで、すべてが3Dでデータ化されているのだ。自動運転するクルマはGPSからの情報だけでなく、クルマに搭載されたテレビカメラやレーザーという「目」で周囲を認識し、ダイナミックマップと照らし合わせて自分がどこを走っているのかを正確に知るわけだ。下の動画は、アイサンテクノロジー株式会社と名古屋大学の開発した、この高精度空間情報のイメージだ。
もうひとつの特徴が、マップの厚みだ。ここで言う厚みとは、情報の厚みのこと。ダイナミックマップは情報の更新頻度別に以下の4つの層からなる。
つまり、地図といっても、さまざまな情報が次から次へと更新されていく、まさにダイナミックなデータベースなのだ。
活躍の場所は自動運転にとどまらず
このダイナミックマップの開発競争もすさまじく、アウディ、BMW、ダイムラーのドイツ勢は、地図大手のドイツHERE社を買収してダイナミックマップの開発を進めているし、さらに同じくヨーロッパの地図大手のオランダTomTom社も独自開発を進めている。Googleの存在も忘れてはいけない。一方、先行する欧米勢に追いつき追い越すべく、日本は国内の自動車メーカー9社と地図製作会社やIT企業が集まり、昨年、ダイナミックマップ基盤企画株式会社というものを設立した。2018年までに、全国の高速道路のダイナミックマップ化を達成するというのが日本の計画。自動運転自体は2017年から大規模実証実験が始まる。
ここで、ダイナミックマップの仕様が各社バラバラだったら、国や車種によっては自動運転ができなくなったりするんじゃないかという疑問がわく。が、心配は無用。すでに国際規格が制定されており、日本が提案したものがベースになった。この国際規格はコアな部分だけを統一するもので、オプション機能や使い勝手は各社(グループ)ごとに異なる。ということは、自動運転が当たり前の時代になれば、ダイナミックマップの正確さや機能の多様さでクルマを選ぶということにもなるかもしれない。
さて、このダイナミックマップが活躍するのは自動運転だけじゃない。たとえば、目が不自由な方など「交通弱者」のためのスマホを使ったパーソナルナビゲーションだ。ダイナミックマップなら段差や坂道、歩道の幅、横断歩道の信号の色、近づいてくるクルマの位置や速度など歩行者の周囲の詳細な情報がリアルタイムにわかるので、それを音声で目の不自由な方に知らせれば安全・安心な誘導ができる。あるいは、バスなどの公共交通機関や物流などでは、走行中のバスやトラックの位置を会社のコンピュータでリアルタイムに知ることができるだけでなく、その速度や周囲の天候、渋滞の有無などもわかるので、これまた効率よい運行を会社から遠隔コントロールすることが可能になるのだ。高精度な3Dマップだから、災害のシミュレーションといった防災・減災にも活躍するだろうし、まったく新しいビジネスやサービスが生まれる可能性も大いにある。ダイナミックマップのおかげで、ワクワクする未来があと数年でやって来る!
文:太田 穣