2017/03/06

あなたの好きなその曲、本当に人が歌ったもの? あらためて学ぶ、ボーカロイドのこと

何度歌い直しても、絶対に文句を言わない歌手

ボーカロイド(VOCALOID™)といえば、もはや説明不要であろう「初音ミク」を真っ先に連想するが、この言葉が本来指しているのは、楽器メーカーであるヤマハが開発したコンピュータで歌声を合成するソフトウエアのことだ。ボーカロイドの登場は、パソコンで音楽をつくるDTM(デスクトップミュージック)において革命的な出来事だったと表現して差し支えないだろう。

パソコンでの演奏は、シンセサイザーに代表される電子的な音色を想像するが、ピアノはもちろん、ギターやバイオリン、トランペットをはじめ、なんでも演奏できる。それだけ音源が充実しているということだが、人の声だけはなかなか実現できなかった。もちろん歌声の録音データを加工すればよい話なのだが、そのためには誰かにたくさん、何度も歌ってもらわなければならない。

ボーカロイドは、DTM愛好家たちに「自分が好きなように演出できる歌い手」を届けた。どんなに歌い直しても文句は言わないし、声も枯れない。プロデューサーのリクエストにすべて応えてくれる夢のような存在。2004年にパッケージとして発表され、2007年に声優・藤田咲の声をサンプリングしてつくられたボーカル音源「VOCALOID2 初音ミク」がリリースされると、歌声だけでなくそのパッケージキャラクターも人気となり、大ヒット。以降、ニコニコ動画やYoutube上にボーカロイドを使った作品が次々と投稿されるようになった。

ボーカロイドはどのように歌うのか?

さて、そんなボーカロイドは、どのように歌うのか? こちらの動画で操作方法を紹介している。

音程、長さ、ビブラートからガナリ声まで、多様な表現手法が用意されている。プロでなければ出すのが難しいファルセット(裏声)だってできてしまう。ただし、理解しておきたい点は、ボーカロイドはあくまで音源編集のソフトウエアであること。現在ではさまざまなバーチャル歌手(ボーカル音源のデータ)が販売されているので、ユーザーは好みの歌手データをボーカロイドに読み込ませて歌唱させることになる。絶大な人気と支持を集める「初音ミク」もそのひとつで、札幌の企業であるクリプトン・フューチャー・メディア株式会社が開発・販売を行っているのだ。

画像提供:クリプトン・フューチャー・メディア株式会社

さて、その音源となるのは人の声。声優や歌手が音源制作用にレコーディングを行うのだが、楽曲のレコーディングとはちょっと違う。ボーカロイドの素材として必要な要素を切り出せるよう、子音や母音をさまざまな組み合わせで録音する。余談だが、ここでの録音作業は音を切り出すことが目的なので、意味のない呪文のような言葉をひたすら歌うことになるらしい。これが結構つらい作業とのこと。

レコーディングで収録した音声データをさらに細かい要素に分解し、合成しやすいよう調整を行う。人間の声なので、収録時には唇や舌が鳴ったりしてしまう。そうした余計な音も丁寧に除去するので、ひと通りのデータが揃うのはレコーディングから1年程度かかる。しかも、これは1言語あたりの話。日本語は日本語、英語は英語でそれぞれ収録しなければならない。音源が揃ったら、今度は微調整。実際にボーカロイドに読み込ませ、不自然なつながりになる場所を探して、ひたすら整えていく。エンジニアさんたちのこうした地道な作業のおかげで、DTMファンは楽しく作曲にいそしめるようになったわけだ。

技術はどんどん進化する。植木等もhideも復活!

ちょっと古い話なのだが、2011年にボカロ(ボーカロイドの短縮語)界隈で話題になったのが、植木等の音源データが発表されたこと。植木等の息子さんの声を基にしてつくられたようだが、現時点で製品化されてはいないのがちと残念。

これをきっかけに始まったのが、1998年に他界した「X JAPAN」のギタリストhideの声の復活だった。かねてから、その存在が知られていた楽曲『子 ギャル』のPVが、ボーカロイド技術を使って2014年に発表された。演奏の録音はすでに行われていたが、hideの歌を収録していなかったのだ。

この世にいない歌い手が、どのように歌うのか。hideを慕う人々が想像を膨らませ、『子 ギャル』の歌詞に合わせて生前の歌声から音源データを整える。その作業には丸2年かかったという。そうした結果、生まれたのが、下記のPV。率直にいって、言われなければボーカロイドで再現したとは思えないクオリティだ。

もはやどれが生歌で、どれがボーカロイドなのか、簡単には聞き分けられないクオリティ・・・・・・。ボーカロイドのソフトウエアは2003年の発表から数えて、現在はバージョン4まで進化した。一体次は、どんなことができるようになるのだろうか?

文:吉田 努