2016/07/19

もうどうにも止まらない! 人工知能の超進化を促す『クラウドロボティクス』とは?

クラウドのAIがロボットを賢くする

「三人寄れば文殊(もんじゅ)の知恵」ということわざがある。凡人でも大勢が協力し合えば素晴らしい結果が生まれるという意味だ。これのロボット版が「クラウドロボティクス」だと思うといい。ロボットだってクラウドを通じて大勢が協力し合えば、とてつもない力を発揮するのだ。

たとえば学習能力だ。ロボット1台だけでは、頭脳に当たるコンピューターやメモリーに限りがあるから、学習の質や量にも同じように限りが出てくる。しかし多くのロボットが、自分が学んだことをせっせとクラウドに送り、そこで高性能コンピューターの人工知能(AI)がそのデータを整理、分析。ロボットに「知恵」として送り返したらどうなるだろうか。圧倒的な速さでロボットは賢くなっていくに違いない。

あるいは、こんなことも可能だ。お掃除ロボットにカメラやマイクなどの「目」や「耳」を搭載し、クラウドに情報を送るようにさせる。そこで人工知能が、お掃除ロボットが見たものや聞いたものを分析し、判断をすれば、お年寄りのひとり暮らしなら生活の様子や会話から元気かどうかを判断し、異常があれば家族や病院にSOSの連絡が行くようにもできる。もちろん、泥棒を見つけたら警察に連絡をさせることもできる。そんなふうにクラウドロボティクスは、お掃除ロボットを介護や防犯に役立つ見守りロボットとして活躍させることも可能にする。

あるいはまた、クラウドに置かれた人工知能がドローンや自動車をコントロールすることができれば、ドローンや自動車がロボットに変身したことと同じになる。つまり、クラウドロボティクスとは、広い意味での「あらゆるもののロボット化」へとつながる考えでもあるのだ。

クラウドでロボットたちが学習した情報を共有したり、人工知能のサポートを受けることができれば、ロボットはどんどん賢くなっていくはずだ

ロボットの脳が巨大化したら?

人間が立ち上がり、二足歩行をするようになったのは、大きくなった脳のせいだといわれている。四足歩行だと重い頭が邪魔になるからだ。ロボットはもっと大変だ。バランスを取って二足歩行をするだけでも、ロボットの脳、つまり内蔵コンピューターはその能力をフル稼働させている。

それにプラスして、人工知能のような高度な能力をロボットに持たせようとしたら、頭(つまりコンピューター)が巨大になりすぎて、二足歩行どころか「スターウォーズ」のジャバ・ザ・ハットのように動くこともままならなくなってしまうだろう。つまり、ロボットを今以上に賢くしようと思えば、ロボットの大脳をロボット本体の外部に置くクラウドロボティクスの考え方は必須となるのだ。

EMIEW3が見せるクラウドロボティクスの「今」

クラウドロボティクスという言葉は、2010年、Googleの研究者ジェームズ・カフナーという人が初めて提唱したといわれている。それはビッグデータや人工知能というものに世界が注目し始めた時期と重なる。つまり、ロボットがビッグデータや人工知能の恩恵にあずかるには、ロボットもまたネットワークに接続されることが必要だとカフナーさんは考えたのだ。

そして、時代はカフナーさんのアイデアをまさに現実のものとしつつある。たとえば、下で紹介しているYouTubeの動画は、日立が開発しているロボット「EMIEW3」のデモンストレーションを記録したものだ。ここでは複数の「EMIEW3」が、クラウドを介して情報を互いにやり取りし、仕事を分担したり、連携したりしている。高度な会話能力も、クラウドの高性能コンピューターのサポートがあればこそだ。この動画を見れば、クラウドロボティクスのなんたるかが直観的にわかるはずだ。

文:太田 穣