2016/04/21
いよいよ実現化する『スマートグラス』 ヘッドマウントディスプレイとの違いは?
産業界に進出するグーグルグラス
スマートグラスのグラスはサングラスのグラス。つまり"賢いメガネ"のことであり、GPSなどのさまざまなセンサーやカメラ、マイクなどを搭載したメガネ型ウエアラブル端末のこと。インターネットにもつながるので、メガネのかたちをしたスマホと考えてもいいだろう。
と、ここでグーグルグラスを思いだした人も多いはず。メガネの右目レンズのあたりに小型ディスプレイとウェブカメラがついたスマートグラスがグーグルグラスだった。......と、過去形で書いたのは、2016年1月をもってアメリカとイギリスで行われていたテスト販売が終わったからだ。とはいえ、開発を中止したわけではない。グーグルグラスをB2B、つまり産業向け製品として開発する方向にグーグルは舵をきり、今も盛んにパートナー企業とともに実証実験や研究開発を行っているのだ。
スマートグラスの一つの原型をつくり出したグーグルグラス
産業の現場で使用が進むスマートグラス
実際、スマートグラスは産業向けを中心に、ものすごいスピードで実用化が進んでいる。たとえば、下にリンクを張っている動画は、世界的運送業者のDHLがスマートグラスを倉庫作業で使う実験をしたときの様子を紹介するものだ。スマートグラスのディスプレイに、探している荷物の位置情報や作業手順などを映し出し、作業員はその指示に従って荷物をピックアップする。スマートグラスのカメラがスキャナーの役割も果たすので、伝票に記入するといった手間も不要。しかも両手が自由に使えるので、25%も作業効率が上がったそうだ。
スマートグラスを、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)と混同している人も多いようなので、ここできちんと区別しておこう。どちらも「ウエアラブル端末」「ウエアラブルPC」の一種だが、HMDは「仮想現実(VR)のための端末。スマートグラスのほうは「拡張現実(AR)」のための端末と考えていい。
「仮想現実(VR)」は、たとえばゲームなどでつくられた世界にあたかも自分が入り込んだように、視覚的、聴覚的に "没入"するための技術。一方「拡張現実(AR)は、透過型の小型ディスプレイによって、肉眼で見える視界にさまざまな情報を重ねて映していくもの。たとえば、街を歩いているときに、スマートグラスに目的地を声で伝えると、目の前の実際の風景に重なるようにして地図や方向指示が表示されてナビしてくれる。文字どおり「現実の情報を拡張する」ための技術だ。
スマートグラスの肝は拡張現実(AR)にあり
そんなふうに、実際に見えている現実の世界に対してさまざまな情報を重ねて表示することを拡張現実(AR)という。言葉だけ見ると難しそうだが、肉眼で見えているものに、いろいろな情報をデジタル的にベタベタと貼るようなものだと思えばいい。具体的な使用例を挙げると、工場で作業をしている人のスマートグラスのカメラから送られてきた画像に、遠方にいる管理者がPCで押してほしいボタンに丸印をつけて送り返す。すると、作業員のスマートグラスのディスプレイにその丸印がリアルタイムに浮かび上がる。作業員が、その印をついているボタンを押す。そういったことを可能にするのが拡張現実だ。
この拡張現実の画像をスマートグラスに映し出すとき、肉眼で見えているものと画像との間にはどうしてもズレが生じ、認識しづらかった。その欠点を解消する技術、その名も「PITARI」の開発に成功したのがKDDI研究所だ。言葉ではよく分からないと思うが、下の説明動画を見てもらえれば、「なるほど、そーゆーことか」と、すぐに理解してもらえるはずだ。
さまざまな製品が登場、まさに百花繚乱
この拡張現実というスマートグラスの肝となる機能、なんとなく分かってもらえただろうか。実際の製品を紹介している動画を紹介するので、拡張現実を用いたスマートグラスならではの便利さを目で見て知ってほしい。まずは、ソニーから発売されている「SmartEyeglass」がこちらだ。Android端末とWi-fiかBluetoothで接続して使用し、コントロールは声でおこなう。
一方、こちらの「Telepathy Walker」は、一般向けに開発された単眼方式のもの。スターウォーズのパロディで「Telepathy Walker」の機能を紹介している下の動画を見れば、これまた、拡張現実というものの便利さが伝わってくるはずだ。
ほかにもエプソンの「MOVERIO」や、コニカミノルタの「WCc」、サン電子の「エースリアル」など、数多くの製品が発売中、ないしは発売予定で、百花繚乱といってもよいほどだ。ほとんどが企業をメインターゲットにしているので、まだまだ目に触れることが少ないが、スマートグラスが確実に私たちの社会に浸透しつつあることだけは間違いない。
文:太田 穣