2016/02/08
2016年はVR元年! ということでVRについてのご説明
2016年の世界的家電見本市CESの目玉がVR
VRとはVirtual Realty、つまり仮想現実のこと。毎年、正月に、ラスベガスで開かれる世界的な家電見本市「CES(Consumer Electronics Show)」の、2016年度の目玉のひとつがこのVRだった。
家庭でVRを体験するにはゴーグル型ディスプレイのHMD(ヘッドマウントディスプレイ)とパソコンかゲーム機、コントローラーからなるシステムが必要だが、ソニーはPlayStation VRを、サムスンはGear VRを出展し、それぞれの体験ブースには長蛇の列ができた。また、VRのジャンルで一躍世界的に注目されているOculus社が「Rift」を、台湾メーカーのHTCも「Vive」を発表。また、VRの制作に欠かせない3Dスキャナーや、歩いたり走ったりをVRに反映させるランニングマシンのような入力機器「Virtuix Omini」など、数多くの企業がVR関連の製品や技術を競って展示したのだ。CESを報じた多くのメディアが、2016年を「VR元年」と呼んだゆえんだ。
ソニーのPlayStation VRは2016年上半期の発売予定。詳しくはサイトを
OculusのHMD「Rift」を装着しているところ。OculusのサイトではRiftでゲームをするとどんなふうに見えるかがイメージできる動画もある
歩いたり走ったりという動きをVRの世界内に反映させるのが、このランニングマシンのような「The Omni」だ。Kickstarterのサイトでプレオーダーが始まっているが、そこではこの「The Omni」がどんなふうにVRの世界とシンクロするかが動画で紹介されている
究極のVRはマトリックスの世界
さて、ここでVRというものについておさらいしておこう。VR――仮想現実。コンピュータによってつくられた、現実そっくりの世界のことだ。現在の最新のVRでは、HMDで見る3D映像が要となる。このHMDには位置センサーが付いており、HMDを装着して頭を上げるとそれに追随して映し出される映像も上方へと移動、左を向けば映像もまた左側に移動する。そんなふうに、あかたも映像の世界の中にいるかのように、上下左右360度、頭や体の動きと映像がシンクロする。もちろん、音が聞こえてくる方向も同様に映像に追随するのだ。
このVRの究極とは、映画『マトリックス』の世界だろう。日々暮らしていた日常の世界が、実は進化し、巨大化したコンピューターシステムがつくり出した仮想現実だったという物語。脳にダイレクトに情報を与えることによって、視覚、触覚などの五感をコントロールし、現実とまったく区別のつかない、現実そのままの「夢」をつくり出し、そのことで巨大コンピューターシステムが人類を支配する。この『マトリックス』の監督、ウォシャウスキー兄弟は、物語をつくるにあたってはウィリアム・ギブソンの影響を大きく受けたと語っている。ウィリアム・ギブソン? Who?
ウィリアム・ギブソンの『ニューロマンサー』(ハヤカワ文庫SF)はVRの世界を舞台にした最初のSF小説だ
ウィリアム・ギブソンはアメリカのSF作家だ。1984年に発表された彼の『ニューロマンサー』(ハヤカワ文庫SF)こそが、VRの世界を舞台にした、おそらく世界で初めての小説だ。悪事を企むハッカーたちがうごめく巨大都市として、日本のチバシティーが登場するなど、日本のサブカルの影響が随所に見られるSFアクションで、登場人物たちは後頭部に埋め込んだソケットにコンピューターを直接接続して脳と結び、サイバースペース(これもギブソンの造語だ。「電脳空間」はその訳語)にジャック・イン(没入)する。あたかもそこで生きているかのようなその仮想現実の中で、ザイバツやヤクザたちと主人公のハッカーが対決するのだ。今でこそ映画やアニメで当たり前となったそんな世界観も、実はこのウィリアム・ギブソンが『ニューロマンサー』で初めてつくり出したものなのだ。
火星の様子もコンサートもVRで体験
『マトリックス』や『ニューロマンサー』のVRにははるかに及ばないが、現在のVR技術の進化は目覚ましく、体験する人に驚くほどの没入観をもたらしてくれる。それはコンピューターの高速化や、コンピューターグラフィックス技術の劇的向上によるところが大なわけだが、その進化はVRの活躍の場をゲームの世界からさまざまな異ジャンルへと広げつつある。
たとえば、旅行業界には、家にいながら旅先の観光スポットやホテルの様子をVRで体験してもらうことで、旅行商品の販売増につなげようという動きがある。ホテルの部屋の広さや使い勝手などを、あらかじめVRでリアルに知ることができるわけだ。NASAもVRの活用に積極的で、ロケットの打ち上げや火星の様子をVR体験できるプロジェクトが進行中だ。また、音の奥行きが感じられる3DサウンドシステムとVRを組み合わせ、まるでコンサートの会場にいるかのような体験ができるコンテンツも開発中だという。自分の部屋にいながら、大好きなアーティストのライブにいる感覚を全身でリアルに味わえるようになる日がもうじきやって来るなんて、なんとも楽しみではないか。
文:太田 穣