2016/01/07

農業のICT化が人類を飢餓から救う! 『スマートアグリ』とは

ICTを活用した新しい農業のカタチ

スマートアグリ(アグリとはagricultureの略)とは、ICT化した農業のこと。ICTのチカラで作物の品質を保ちながら、作業を自動化して,人の手間をできるだけ減らすという新しい農業のカタチだ。

ひょっとしたら「農業ってまだICT化してなかったの?」なんてギークな人は思うかもしれないが、野菜や果物は自然が相手の仕事。人類が長年にわたって蓄積してきたノウハウを、なかなかデータに置き換えるのは難しく、実際まだまだその技術は発展途上だ。それでも、世界中で必死に開発が進んでいるのは、世界規模での食糧不足の発生が現実味を帯びてきたからだ。

地球の気候変動によって作物の安定生産が難しい状況になっているうえ、2050年までに世界人口は96億人に達するとの予測もある。今後、食料の輸入は難しくなる見通しだ。もちろん、日本もスマートアグリの開発に力を入れている国のひとつ。食糧自給率が39%(カロリーベース、2013年度)と低い日本は、今のところ不足分を海外からの輸入に頼らざるを得ない。国内農業の生産量増と高効率化は待ったなしの状況だ。

今、農作物をつくる工場がアツい!

スマートアグリには、農地にカメラやセンサー設置して遠隔地から作物の状況を把握したり、ハウス栽培なら室内の温度・湿度の調整を自動で行ったりと、さまざまな形態があるが、今もっともアツいのは「植物工場」。文字どおり、農作物をつくる工場だ。

IBMとスタンシステムが共同で稼動させた植物工場の内部の様子

2015年3月に、日本のスタンシステムと日本IBMが稼働させた植物工場は、完全閉鎖型。この方式なら農地でなくても、都会のど真ん中であろうと農作物をつくることができる。もちろん、天候の影響も受けないから安定した収穫量も確保できる。

工場にはWebカメラやセンサーが設置され、栽培に関するデータを自動収集して生育状況を把握し、そのデータから作物の生育状況に応じてLED光を自動的に調整する。将来的には、人工知能を使ってのシステム制御も視野に入れているという。SF映画の世界は、もう現実になりつつある。

地産地消ならぬ「店産店消」! 食べるところで野菜をつくる

地域で生産されたものを、その地域で消費する地産地消への取り組み。収穫した作物を輸送するエネルギーが少なく済むため、環境に優しいうえ、高い鮮度の品を食べることができる。それをさらに一歩進めたチャレンジが、サンドイッチチェーンのサブウェイが東京と大阪で運営している「サブウェイ野菜ラボ」だ。

この「サブウェイ野菜ラボ」店で提供されるサンドイッチに使われるシャキシャキのレタスは、なんと、お店の中にある小規模植物工場で栽培されているもの。芽が出てから食べられるまでの日数はおよそ49日。店内のガラスケースには無農薬+水耕栽培で育てられている青々としたレタスが並んでいる。栽培したすぐ横で食べられるのだから、新鮮に違いない!

こうした植物工場は国内で次々と稼働開始しているが、実は、作物の育成技術はまだまだ開発の真っ最中。誰もが試行錯誤を繰り返している状態で、確立された生産プロセスはまだない。太陽光の代わりにレタスへ当てる光源についても、さまざまな考え方がある。赤色の光を当てればビタミンCが増えると考える研究者もいれば、減ると考える研究者もいるほどで、未知の領域が広い。

どんなにテクノロジーが進歩しても、人間は食べなければ生きていけない。私たちの食を支えるための技術開発は、現在進行中なのだ。

文:吉田 努