2016/05/10

ダカールラリーでスマホが果たした意外な役割とは?

砂漠や山岳地帯などの悪路を走破するラリーレースの世界最高峰「ダカールラリー」。2016年1月に開催された第38回大会で、ホンダ・レーシングによるTeam HRCは、京セラからスマートフォン「TORQUE(トルク)S701」の提供を受け、レースで活用しました(「TORQUE S701」はau向け「TORQUE G01」とプラットフォームを共通にする欧州向けスマホ)。

2016年1月の第38回ダカールラリーでTeam HRCが採用した京セラのタフネススマホ「TORQUE S701」

「TORQUE」は京セラ製のAndroidスマホ。米国国防総省の物資調達基準(MIL-STD-810G)に準拠し、防水・防塵・耐衝撃をはじめ耐振動・耐日射・防湿・温度耐久・低圧対応・塩水耐久などのタフネス項目をクリア。さらに従来のスマホでは不可能とされていた画面が濡れた状態や、グローブをはめた手によるタッチ操作をも可能するなど、過酷な現場での使用に耐えうる究極のタフネススマホです。

そんな「TORQUE」がダカールラリーという壮絶な環境においてどのように活用されたのか、その真実に迫ります。

2週間で9,000km! 悪路をひた走る過酷なレース

初開催はさかのぼること1979年。フランスはパリから、セネガルの首都ダカールまでの陸路1万2,000kmを走破するラリーレースとして始まったのが「パリ・ダカールラリー」、現在の「ダカールラリー」です。ドライバーやライダーは地図とコンパス、距離計だけを頼りに、一度も走ったことのない荒野をチェックポイント目指して突っ走る。事故やケガ、遭難はもちろんのこと、ときには命までおびやかす過酷なレースは綿々と受け継がれ、現在は南米にステージを移し、例年1月に開催されています。

2016年1月に行われた第38回大会の模様

「日本ではあまり知られていませんが、実は観客人口は世界で450万人(TVなどのメディアを含めると1億人)を超えるともいわれるラリーの最高峰なんです」と語るのはホンダ・レーシング Team HRCのサポートメンバーとして参加している本田技術研究所 二輪R&Dセンターの野口晃平さん。2016年1月の第38回大会でも2週間、9,000kmにもおよぶ戦いに臨んだばかりだとか。

本田技術研究所 二輪R&Dセンター 野口晃平さん

具体的にはどのようなレース展開となるのでしょうか?

「途中で1日だけオフはありますが、期間中は毎日、日の出から日没まで、ライダーは指定されたチェックポイントを通過して最終的にその日のゴールを目指して荒野を1日あたり数100kmから1,000km以上も走り抜けます。使っていいのはコンパスと地図、距離計だけで、スマホはあくまで遭難時の連絡用。特に二輪車クラスは、四輪車クラスのようにコ・ドライバー(ナビ係)が同乗せず、ライダー1人なので 、ルート探索も、転倒などによる破損部品の修復みたいなトラブル解決も全部自身で対応しなくてはいけないんです」(野口さん)

ダカールラリーは開催地のアルゼンチンでも大人気。スタート地点には多くの観客が詰めかける

Team HRCがタフネススマホを必要とした理由

そんな過酷なレースに参加するTeam HRCを陰ながらサポートしたのが、京セラのタフネススマホ「TORQUE」だと野口さん。ではいったい、どのような目的で「TORQUE」をラリーに投入したのでしょうか?

過酷な環境に身をおくのはライダーだけではない。バイクを整備するメカニックやエンジニアもキャンプ地を転々としていく

「そもそもラリーでは、砂漠や泥地、高山地帯に塩湖と、さまざまな過酷な環境にさらされます。長時間の振動はもとより、50℃を超える高温マイナス10℃にもおよぶ低温、また突然の嵐による水没と、電子機器にとっても非常に厳しい。となると、スマホもタフネスなものを用意すればレースを有利に進められるのではないかと、京セラさんに端末提供をお願いしたのがきっかけです」(野口さん)

そのオファーを快く引き受けたのが、京セラ 通信機器経営戦略部の徳重芳浩さん。

「どうやら野口さんが、MTBでの利用シーンを訴求した『TORQUE G01』のTVCMをご覧になったようで、『ぜひともダカールラリーで使いたい』と端末提供の依頼を受けました。

MTBでの利用シーンを通じて優れたタフネスを訴求したTVCM

京セラ 通信機器経営戦略部 徳重芳浩さん

そこでライダー9名、メカニック9名、エンジニア2名という内訳で『TORQUE』を20台ご用意しました。基本的な仕様はそのままですが、ライダー向け提供端末はレースのレギュレーションに抵触しないよう、特別仕様になっています」(徳重さん)

Bluetoothによるデータ連携がトラブル解決に大活躍

メカニックによる整備の様子

では、ダカールラリーの現場でどのように「TORQUE」を活用されたのでしょう?

「まずBluetoothを活用して、バイクの電装品データや走行データを、ライダーバッグに入れた『TORQUE』側で表示できるようにしました。外からは分からないエラーコマンドやセンサーの状態を把握することで、修理や整備の時間を短縮できたんです。また、マシンのマニュアルやパーツリストをいつでも参照できるよう、データを『TORQUE』に格納しました」(野口さん)

レース期間中、メカニックが活動できるのは、ライダーがゴールしてから翌日にスタートするまでのわずかな時間。事実、トラブルが発生した際も「TORQUE」は想定どおり迅速な復旧に活躍したのだとか。

メッセンジャーアプリでレースの最新情報を共有

また、「TORQUE」がスタッフ全員に好評だったのは、通話やメール、ネットといったスマートフォンの基本機能が、過酷な環境下でも不自由なく使えたことだという。

「基本的にライダーが出発してしまうと、僕らメカニックやエンジニアはどんな状況にあるか把握できず、『いつ誰がどこのチェックポイントを通過して、現在何位か』というリザルトを、大会の公式サイトでチェックするしかありません。しかし、公式サイトは作りが重く、現場は通信状況が悪いところも少なくないため、なかなかアクセスできないことも。そこで、比較的通信状況が安定しているアルゼンチンの首都ブエノスアイレスにスタッフを常駐させて、レースの最新情報をメッセンジャーアプリで共有することにしました。我々も常に移動していますから、電波がつかめたわずかなタイミングで最新状況が共有できる。これはレースを円滑に進めるうえで大きなアドバンテージとなりました」(野口さん)

海外のライダーやスタッフも「TORQUE」を絶賛

こうして2週間におよぶレースを無事に戦い抜いた「TORQUE」。ライダーやメカニックからの反応はいかがでしたか?

アルゼンチンとボリビアの国境付近では豪雨に見舞われ、あたり一面が水浸しに。その中でもメカニックやエンジニアはバイクの整備を滞りなく遂行することが求められる

「これまで、海外ライダーやスタッフのスマートフォンは、毎年レースが終わる頃には砂や水で壊れてしまうことが多く、帰国後に買い替えるのが恒例となっていました。今大会もエルニーニョ現象の影響か、アルゼンチンのサンホアン周辺ではライダーたちは60℃近くの高温にさらされ、アルゼンチンとボリビアの国境付近のフフイでは太ももまで浸かる大雨にも見舞われたほどです。しかし『TORQUE』はそれでもまったく故障せずに最後まで使えた。特にライダーからは、グローブしたまま操作できるし、デザインもカッコいいし、次回のレースでも使いたいと大絶賛でみんな持って帰りましたね」(野口さん)

ラリーの現場における"通信のチカラ"の可能性

そんな今回の経験を踏まえ、来季以降、タフネススマホをラリーでどのように活用していきたいでしょうか?

「例年、過酷な環境下で体調を崩すチームクルーが必ず出てきます。実際、今年もウユニ塩湖周辺でエンジニアやメカニックが何人か高山病にかかるなどして大変だったので、今後は生体情報を取得してライダーやメカニックの健康管理に役立てたいですね。また、毎日メカニックが記録するメンテナンスチェックシートも電子化することで効率化を図っていきたいです。そのためには徳重さん、来年は30台の提供をお願いします!」(野口さん)

ラリーという過酷なシチュエーションでも大いに役立っている"通信のチカラ"。とりわけ、京セラの「TORQUE」は激烈を極める環境においても不具合なく動作し、極限状態のライダーやメカニックたちを支えたことで、その優れたタフネスをあらためて証明しました。

文:熊山 准
撮影:稲田 平

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