2015/07/21

沖縄の離島にiPadがやってきたよ! 子どもたちと「15の春」のものがたり【後編】

iPadと遭遇したときの衝撃

沖縄から約360km、沖縄最東端の島、北大東島で繰り広げられている最先端のICT教育の様子は、前編でお伝えしたとおり。後編では、北大東のICT教育を牽引し、今年の4月から那覇の小学校に赴任した喜屋武(きゃん)仁先生に話を聞いた。

「2010年、iPadが発売されて間もなく現物を見て、これは学校でも使えると直感しました」
今年で43歳になる喜屋武先生は、1997年、25歳のときにインターネットと出会い大きな衝撃を受ける。知りたいことを次から次へと調べられ、学校教育の形も変わると確信した。
今や学校では、インターネットを使った調べ学習は当たり前に行なわれ、その確信は現実になった。喜屋武先生は、そのとき感じたのと同じ衝撃を、iPadに初めて触れたときにも感じたという。

iPad片手に、魅力を熱弁する喜屋武先生。iPadを使い始めて5年でこれが4台目。どれだけ使い込んでいるかが想像できる。ちなみに、喜屋武(きゃん)という苗字は「沖縄で50番目ぐらいに多く、少なくとも沖縄では読めない人はいないはず」とのこと

児童にiPadをどう使わせるか、それが問題だ

さっそくiPadを授業で使い始めたものの、教育に関するiPadの情報はどこにもなかった。喜屋武先生は、「情報は発信する人のところに集まる」と考えて、『iPadとiPhoneで教師の仕事をつくる』というブログを立ち上げた。iPadを授業で使う実践をブログで発信し始めて数年後に北大東島に赴任。3年目の2014年に、北大東小中学校にiPadがやってきた。

iPadとiPhoneで教師の仕事をつくる

「もともとは、自分が授業で使う資料や教材をつくるために始めた研究です。北大東では、児童がiPadを使うスタイルは初挑戦。試行錯誤を繰り返して活用法を考えました」
試したアプリは数知れず。多くのアプリは家庭向けにつくられていることを知る。学校の一斉授業で使えるアプリを探す苦労を重ねた1年だった。

「ひとつ言えるのは、プリインストールされているアプリや無料のアプリでかなりのことがカバーできるということです。その代表格がKeynoteとカメラです。星座のアプリは、街灯がほとんどなくて夜が真っ暗な北大東島でも見ることができて、GPSで位置もばっちりです。島の外から離島体験にやってきた児童にも好評でした。僕らが子どもの頃は紙の円盤の星座早見表が頼りでしたが、真っ暗なところでは役にも立ちませんからね(笑)」

知りたいことはみずから学ぶ

喜屋武先生が授業でiPadを使い始めてはや5年目。児童が端末を触る形式の授業も経験した喜屋武先生は、iPadの利点を次々と挙げる。まずは、その操作性の高さだ。

「端末もアプリもインターフェイスのつくりが直感的で、使い方を教えなくとも児童が自在に使うことができます。音声入力の精度も高く、キー入力が難しい低学年の児童でも簡単に使うことができます。Keynoteを使ったプレゼンテーションも、使って見せたことはありますが、教えたつもりはありません」

児童たちは、好きなことや興味のあることには非常に高い検索能力を示すという。自分が身につけた技術を友だち同士で教え合い、日に日に端末やインターネットの使い方に馴染んでいく。それを可能にしたのも、直感的なインターフェイスがあればこそだ。

北大東島小学校でのKeynoteを使った授業の様子。休み時間だというのにデジカメで撮った写真を選んだり文字を書き込んだりするのに夢中。興味のあることは、先生が教えずとも児童が自発的に吸収していく

今年6月に行われた、那覇市の金城小学校との交流学習の様子。北大東小学校の児童はiPadとKeynoteを使い、島や小学校についてプレゼンテーションした

LTE対応モデルだからできること

また、大きな利点として、起動の早さと持ち運びが可能でどこでも使えることを指摘する。
「パソコンだと、電源を入れてから立ち上がるまでしばらく"待ち"が発生しますが、iPadはスリープを解除すればすぐに使えます。場所を選ばないのも大きな魅力です。コンピュータ室に行かずにインターネットで調べ学習ができますし、教室の床に座りながら折り紙の遊び方を調べたり、動画を見ながらダンスの練習をしたりもしています」

床に座り込み、iPadで動画を見ながら折り紙やあやとりに興じる1、2年生たち。生活科の授業中のひとコマ

さらに、とくにLTEモデルに言えることだが、外で撮った写真や動画を簡単に共有できるのも、iPadの大きな魅力として挙げる。
「修学旅行先と学校に残った先生とで、FaceTimeのテレビ電話を楽しんだこともあります。以前なら紙にまとめた報告書をファックスで学校に送っていましたが、iPadがあれば写真にメッセージを添えれば報告書の代替になります。LTE対応モデルを提供していただいたおかげで、学外での活用も可能性を大きく広がっています」
島内で開かれる駅伝大会には、島の中学生が参加するのは最近の恒例だ。そのときは、iPadをガムテープで固定した原動機付自転車に乗って生徒に伴走し、Ustreamでライブ中継したのだという。

修学旅行で訪ねた那覇と北大東島をFaceTimeで結ぶ。画面は旅行中のバスの車内、左上は学校に居残った喜屋武先生

大きいからこそ、みんなで使える

さらには、iPadの大画面が、大勢の人を交えた使い方を可能にする。
「北大東島小学校には祖父母参観という行事がありますが、iPadで民謡の動画を観ながらおじいちゃんおばあちゃんたちと一緒に民謡を歌ったり踊ったりしたこともありました」
狩俣先生が受け持つ3年生の国語の授業でも、配られたのは2人に1台のiPad。アプリを使った漢字の書き取り学習を、ひとりが端末を操作し、もうひとりはそれを覗きこむ形で授業を進めていた。

祖父母参観日。おばあさんたちと一緒に民謡の動画を見ながら振り付けを教わる3、4年生

iPadの魅力として喜屋武先生が最後に挙げたのは、情報の収集から加工、発信までのすべてを1台で手軽にできる点。だが一方で、使い方を誤るとリスクに転じかねないとも指摘する。

「情報のインプットとアウトプットの両方を手軽にできるのはとても素晴らしいことですが、簡単にできすぎてしまうことのリスクを子どもたちにどう教えていくか......。彼らがインターネットや情報端末に馴染んできた次の段階では、それが大きな課題になります。安易な発信で人を傷つけたり、我が身を危険に晒したりすることがないよう、便利なツールの使い方を教えていく必要があります」

距離を超える通信のチカラ

喜屋武先生は、離島への赴任は北大東島が2回目。最初の赴任は沖縄最北の伊平屋島だ。だが、言葉にすれば同じ離島でも、北大東島は本島から圧倒的に遠く、環境も大きく異なる。

「伊平屋島は本島から船で1時間20分、1日2往復の便があります。対して北大東島は飛行機で同じぐらいの時間がかかりますし、1日1便しかありません。天候によっては飛ばないこともあります」

物理的にはいかんともしがたい隔たりを、埋めることができるのが通信のチカラだ。喜屋武先生自身も、那覇赴任後も北大東島の先生たちと頻繁に情報交換を行ない、360kmをやすやすと飛び越えてみせた。

新たな赴任先の那覇の小学校でも、喜屋武先生はiPadを授業に活用しているという。
「ここでは児童が使える端末はありませんが、私自身がiPadを駆使して授業に臨んでいます。今は理科を専任で受け持っていますが、たとえば植物や昆虫の四季での変化を、教科書に載っている写真をiPadでパシャリと撮ったり、ウェブで探してきた写真を使ったりして教材を作成しています。iPadを使わずに似たようなことをしようと思えば、カラーコピーをして切り取って模造紙に貼り付けて......という膨大な作業が必要です。iPadがあるおかげで休み時間の合間や授業中にふと思いついたときに、簡単に授業で使う資料をつくることができるんですよ」
iPadは、授業の効率を劇的に高めるだけでなく、ちょっとしたアイディアを形に変える格好のツールにもなっている。

喜屋武先生が、理科の授業で使うために作成した資料の一例。ビーカーの中の水が蒸発していく様子をiPadのタイムラプスで撮影することで、非常に分かりやすく説明している

本島でも、iPadが活躍するのは授業だけではない。たとえば、学校行事の資料づくりを頼まれたときにもiPadは威力を発揮する。
「学校の地図をつくるとき。以前ならパソコンのグラフィックソフトを使って不正確な地図をつくっていましたが、いまではGoogleマップの空撮写真を形どれば、簡単に正確な地図をつくることができます」
iPadのおかげで、教師がやるべき仕事にますます力を注げるようになっている。

iPadという小さな端末が、確実に、教育現場に変化の風を吹き込んでいる。しかも、これが都会ではなく、沖縄の島々で起きているのが興味深い。距離の隔たりを否応なく実感する離島においてこそ、距離を軽々と超える通信が大きなチカラを発揮するのかもしれない。

文:萱原正嗣 撮影:有坂政晴(STUH)

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