2017/07/25
南極に到着! 白夜、オーロラに遭遇【南極連載2017第2回】
日本から14,000km離れた「南極」に赴任中のKDDI社員による連載企画。2016年11月に日本を出発し、その後14カ月も日本に帰れない彼の南極滞在中のミッションは、「昭和基地の通信環境をひとりで守る」ということ。日々の業務の様子から、食事や暮らし、そして休日の過ごし方まで、現地からのレポートをお届けしていきます。
TIME & SPACE読者のみなさん、こんにちは。KDDIから国立極地研究所に出向している笹栗隆司です。
南極でのお仕事が始まって早くも半年が経過しました。南半球なので1月が夏に当たりますが、夏の1月から冬の6月までどんなミッションがあったのかご紹介します。
前任者が帰国し、本格的な越冬生活がスタート
南極に上陸したのは夏の12月下旬。雪が溶けているあいだに1年分の食料や機材の搬入、新しい建物の建築や古い建物の解体、そして昨年越冬した隊の持ち帰り荷物の運び出しなど、昭和基地の周辺はトラックやクレーンが活発に動き、さながら工事現場の様相です。
夏の間は「白夜」と呼ばれ、太陽が沈まないので、ギラギラ照り付ける太陽の下、ひたすら動きます。あっというまに1月は過ぎていきました。
私たちを南極に送り届けてくれた海上自衛隊の砕氷船「しらせ」は2月に南極を離れ、帰路につきました。
夏の観測隊、昨年の越冬隊を含め100名以上が基地の中で働いていたのですが、しらせが離岸すると33人の越冬隊のみが基地に残されます。今年は雪の降るなかでしらせを見送りました。出航の汽笛をあげ遠ざかっていくしらせの後ろ姿を見送り、未知の越冬という生活への期待と基地を預かっていく責任をひしひしと感じたのを覚えています。
美しいオーロラをカメラに収める
2月も下旬になると夜が始まり、待望のオーロラが見え始めました。夜は冷え込みますが、多くの隊員が屋外に出てオーロラを撮影します。私もお小遣いをはたいて一眼レフを買い込んで南極に来ましたので、気合を入れてオーロラを撮影しています。
観測上オーロラは頻繁に出現しているのですが、肉眼できれいに見えるほどの強い輝きはそれほど多くありません。
空は広く、周囲に光源も少ないので、オーロラだけでなく南十字星をはじめとした星がたいへんきれいです。
こちらは太陽柱(サンピラー)と呼ばれる自然現象。大気中の氷の粒が一方向に揃った時、太陽の光が直上に反射され柱のように見えます。気象条件が難しく、まだ1回しか見たことがないレアな現象です。
地元の小学生にTV中継で授業する「南極教室」
越冬隊員の主なミッションは南極での観測ですが、南極観測を広く知ってもらう啓発活動も重要なお仕事です。
5月の初めから「南極教室」を始めていきます。南極教室とは越冬隊員がゆかりのある小中学校などにTV中継で授業を行うイベントです。私も地元の小学校に授業をさせてもらいました。「ペンギンはどうして凍らないの?」など子どもたちの真剣な質問に感心させられます。
ちなみにペンギンが凍らないのは細かくびっしりと生えた羽毛に空気を含ませ、まさにダウンジャケットのように保温をしているからです。皮下脂肪も厚く、極寒のなかでも体温を維持できる体をしているのです。
ほぼ1日中真っ暗になる、本格的な冬の到来
6月には「極夜」という冬のシーズンが始まります。白夜の逆で太陽が地平線から顔を出さなくなります。1日のうち20時間ほどが夜の暗さで、真昼の前後が夜明け前の明るさ、といった環境で生活していきます。
基地の中にいると室温も暖かく、PCに囲まれて仕事をしていると南極にいることを忘れてしまいそうですが、建物を一歩出るとそこはまさしく南極。6月は−20℃を下回る日が多く、涙や鼻毛も凍る厳しい自然が待っています。オーロラ鑑賞などの楽しみも、極寒の厳しさにも触れて「南極にいるなぁ」と感動がこみ上げてきます。
南極は降雪が多く、雪かきなど力仕事はたくさんあります。KDDI本社にはグループ会社であるKDDIチャレンジド社が提供するマッサージを受けられるフロアがあり、私も南極に来る前はお世話になっていました。そんなご縁から、58次観測隊はKDDIチャレンジドの協力をいただき、マッサージ研修を受けさせてもらい出発しました。そしてこちらでは有志が基地内でマッサージ店を開業しました。KDDIチャレンジド直伝のマッサージ術を駆使し、疲労した隊員に癒しのひと時を提供しています。
LINEやFacebookで日本とコミュニケーション
私の担当している衛星回線は研究データを日本に送ることが主目的の設備ですが、データのほかに電話での利用や南極教室などの動画伝送をおこなうなど南極観測活動の重要な基盤となっています。
伝送容量のスキマを使って隊員向けにインターネット通信も提供しています。基地内では低速ですがWi-Fi経由でスマホを使用することができ、LINEやFacebookなどのコミュニケーションツールで家族や友人と “つながっている” 隊員の姿を目にします。南極の物語に出てくる「衛星電話で100万円使った」という時代とは隔世の感がありますね。
文・撮影:笹栗隆司