2016/03/03

鹿児島の離島で生まれた人気者 auショップで買える『とうふ屋さんの大豆バター』の秘密に迫る

「au WALLET Market」のなかでも、日本の離島の"おいしい!"を集めたしまものマルシェ。島ならではのおいしい食材を販売して島の魅力を知ってもらい、離島地域を応援するというプロジェクトの一環だ。ここで爆発的な人気を誇っているのが「とうふ屋さんの大豆バター」だ。プロジェクトの発起人、KDDI総務・人事本部CSR・環境推進室長の鈴木裕子は、「しまものマルシェの産品製造現場と、ヒット商品の裏側を見ておきたい!」と鹿児島県・上甑島(かみこしきじま)へ向かうことに。そこで、取材陣も同行。日本の"離島"としまもの(離島産品)の魅力に迫ります!

鹿児島・上甑島『山下商店』の「とうふ屋さんの大豆バター」。「au WALLET Market」の「しまものマルシェ」で大人気の商品だ

"大人の背中を見せたくて"、島での豆腐屋さんの開業を決意

東京から鹿児島空港まで、飛行機で約2時間。そこからバスと船を乗り継ぐこと約2時間半。やっと到着した上甑島の港から見えるのは、広い海、広い空、遠くに続く山だけ。その日の天候はあいにくの曇りで風も強く、ゆっくり景色を堪能することは叶わなかったが、晴れていたら自然に笑顔が出てしまうくらい、のどかですがすがしい風景が待っていたに違いない。

上甑島は甑島列島の北部にあり、本土からはいちき串木野市の串木野新港から運航しているフェリーと、薩摩川内市の川内港から運航している高速船が主な交通手段となる

港では「とうふ屋さんの大豆バター」の生産者である山下商店の代表、山下賢太さんが迎えてくれた。

鹿児島・上甑島『山下商店』の代表、山下賢太さん。上甑島の出身で、店の隣が実家なのだそう

上甑島の出身である山下さんから、「お昼ご飯を食べたら、島内を案内しますね。ただし、いわゆる"観光スポット"案内ではありませんからね(笑)」と、なんとも楽しみな提案が。

きびなご丼。左にちらりと見える、焼ききびなごも美味

曲がりくねった細い路地。島のあちこちで見られる

ランチは、「きびなご丼」。甑島列島は、日本一のきびなご漁獲量を誇る。もろみと甘みを抑えた醤油に漬けたきびなごは、新鮮で肉厚でしっかり味も染みてて、旨すぎる! 今は、産卵に向けて脂がのってくる時期だそうだが、「初夏の子持ちきびなごもおすすめ」なのだそう。

そして、島内観光へ。美しい白浜の海水浴場、海風から家を守る玉石垣が並ぶ細い路地、長さ約4kmの砂州と海が織りなす「長目の浜」など島の風景に、山下さんのガイドが重なる。
「車の往来が面倒になるのに、路地が曲がりくねっているのは、強い海風から家や集落を守るため。実際、路地の奥に立つとあまり風を感じないでしょう? 長目の浜は国定公園に指定されていますが、保護するだけじゃなく、有効活用することも許されているので、実はさまざまな漁も行われています。しっかりしてるでしょ(笑)」
東シナ海に浮かぶ島の厳しくも豊かな自然や、それと上手につきあう人々の暮らしが浮かび上がってくるようだ。

山下さんは実家の隣にあった空き物件を改修し、「山下商店」を開店。売店&喫茶スペースと豆腐の工房が隣接している

一通り案内してもらい、大豆バター製造所へ向かう間、山下さんが豆腐屋を開業するにいたったエピソードを伺った。

「子供の頃は、隣近所の豆腐屋に豆腐を買いに行くのが僕の仕事でした。早朝から、冷たい水の中に手をつけて、腰を曲げて作業しているお婆ちゃんを見て、いつも"大変だなあ。こんなつらい仕事はしたくない"と思っていました(笑)。ですが、いざ島に戻ってくると豆腐屋がなくなっていて、島自体も過疎化が進んで活気がない。周りの人間や自分の子供にも"帰ってきたい"と思わせる、そして実際に帰ってこられるような仕組みを作っていかなくちゃいけないと考えたときに、当時のお婆ちゃんの背中が浮かんできたんです。豆腐が好きな人は多いし、毎日食べるものという日常感もいい。何より、自分が子供に見せたい"大人の背中"はお婆ちゃんの背中だったかも......などいろんな思いが重なって、豆腐屋さんをやろうと決意したんです」

いよいよ「大豆バター」の製作現場へ!

その豆腐屋から生まれた大豆バターの製作所へ、いよいよ到着。着いた場所は、山下商店から車で15分ほど離れた場所にある「上甑生活改善センター」。「ここは地元の共同加工所なんですが、あらゆる食品製造許可を持っています。おかげさまで、私たちもこの施設を通じてさまざまな商品開発に取り組むことができています」と山下さん。

材料を釜に入れるとカカオの豊かな香りが広がる

中では、大豆バターの新フレーバー、ビターカカオの第1回目の製作が行われていた。「しまものマルシェ」でも3月1日から取り扱いを開始した新商品だ。まずは、山下商店でも使用している九州産大豆のフクユタカを、豆ミンサーでしっかりとつぶす。それを、ほかの材料と一緒に二重釜に入れてじっくりと練り上げる。滑らかになったら加熱をやめて粗熱を取り、煮沸消毒した瓶に詰めて完成。と、製作工程はいたってシンプルだ。

左から、工場長の江藤さん、山下さん、KDDIの鈴木

その素朴さに、KDDIの鈴木も驚きを隠せない様子。「まだ知られていない島の良さを知ってもらいたいという思いで、しまものマルシェを開始しましたが、この製造工程もまさに知ってもらいたい島の良さの一つですね! それにしても、これほどまでに手作りされているとは、びっくりしました。すごい技術や機械など、何か特別な秘密があるのかと思っていましたから。本当はまだ隠していることがあるのでは?(笑)」と、思わず本音をぽろり。すると「ご期待に添えられなくて申し訳ないですが、本当にこれだけです(笑)」と山下さん。

素材のフクユタカを一晩水につけたもの。ふっくら大粒が特徴

いい素材を上手に組み合わせて丁寧に作れば、特別な技術や機械がなくてもおいしくできるのではないでしょうか? もちろん、定番の大豆バターも今回の新作も、素材選びは妥協しませんでしたし、思っていた味に近づけるまで相当苦労しながら試作しました。これだけシンプルな作り方だからこそ、練り具合によって味が全然変わってしまうので、製造は現場の責任者に一括して任せ、彼の経験と職人の勘を頼りにしています」とのこと。

「心がけているのは、丁寧に作り続けること」の本当の意味

責任者である、通称"工場長"の江藤さんは、「確かに、最後の煮詰め作業は気を使います。作るたびに、全体の固さをみながら加熱する温度や時間を小まめに調整していかないと、水分を飛ばしすぎたらボソボソした食感になりますし、残しすぎると味が決まらない。何回作っても、毎回緊張感がありますね。とにかく心掛けているのは、丁寧に作り続けること

新作のビターカカオを作る際も、カカオパウダーの粒子が予想以上に細かく、「うーん、ダマになりやすそうだから注意しないと」と、両手にへらを持って直径1.5mはあろうかという大きな鍋から、5mm大のダマを見つけてはつぶすという丹念な作業を繰り返す江藤さん。全体が煮詰まってくると、練り上げるのも重労働になる。加熱する蒸気の温度は約100度。夏場は暑さとの闘いも加わる。そうして練り上げること、なんと2時間! 思わず「機械ならあっという間では...」と思ってしまったが、できたビターカカオを見てすぐに考えを改めた。丁寧な仕事をしないと出てこない、美しいつやがあったからだ。

この湯気のなかで続ける作業は、夏場は本当に大変

植物性油脂しか使用していなくて、このツヤ!

定番の大豆バターも、工程はまったく同じ。ダマをすくってはつぶし、丁寧に練り上げられることで、動物性油脂は不使用にもかかわらず、バターのようなほどよいつや感が生まれる。2つの作業を見て分かったのは、「丁寧に作り続ける」ことは、口で言うほど簡単じゃないということだ。何時間も、何度も同じ作業を繰り返す。そこに慣れを生じさせず、毎回、丹精を込めて作るということがいかに大変かは、実際の作業現場に立つとよく理解できる。

責任者であり"工場長"の江藤さん

「今、本当に楽しいんですよ」と江藤さん。「しまものマルシェですごく反響があって、思っていた以上に忙しくなりましたが(笑)、自分が作っているものは全国に分かってもらえる味なんだと手応えを感じることができたので、やり甲斐を感じています。今の商品も、おいしい自信はありますが、まだ工夫したいことがあるんです。例えば食感でいうと、アーモンドの粒感が残っているのを好むのは男性、滑らかな食感を好むのは女性と好みが別れるので、これから試行錯誤を重ねていい塩梅を探りたいと思っています」

ヘルシーな国産大豆のバターが一人の人生を変える!?

深夜まで作業を続けるという江藤さんに挨拶をし、一行は山下商店へ。山下さんが淹れてくれたコーヒーを飲みながらひと息つきつつ、鈴木は島に来る前からもっとも気になっていたことを山下さんにぶつけてみた。

「さっき、江藤さんが『しまものマルシェですごく反響があった』っておっしゃってたんですが、どういう反響だったんでしょう......?」

「とうふ屋さんの大豆バター」のラベル貼りは、島唯一の障がい者施設の方が担当。島民で作り上げた1本だ

すると、「単純に売上数でいうと、従来の約3〜4倍に増えました。毎日注文が入るのを見て嬉しがると同時に、工場長と『これは、もしかすると生産が間に合わないんじゃない?』『いやいや、相当ヤバいっすね』と恐れおののいていたくらいです(笑)。もともと、豆腐の食のシーンをもっと広げたいと思って大豆バターを開発したので、こういう形で全国に広まってくれたのはすごく嬉しかったですし、少しでも健康的な食を取るきっかけにしてもらえたら本望です」と話す山下さん。

「でもね...」と続ける山下さんは、「何より良かったのは、工場長が甑島に踏みとどまるきっかけができたことなんです」と、まったく予想しなかったことを語り始めた。

「彼は、地域おこし協力隊の一員で、島出身者ではないんです。地方自治体が居住や雇用を保障するのは最長3年。それ以降は、本人の意思で島に残るか出るかを決めなくてはいけません。僕としては、当然残ってほしいわけですが、本人がこの島にいる意味を感じられないと、いずれ出て行ってしまうでしょう? 大豆バターの反響があったことで、工場長は自分が作ったものの対価を目の当たりにして喜びを感じられたと思うんです。それが何より良かったなと。山下商店で働くスタッフには、島で生きる喜びを感じて欲しい。そういう意味でも反響があって良かったと思っています」

それを聞いた鈴木は、「そういうお話を伺うと、このプロジェクトを立ち上げた意味があったとしみじみ感じます。もともとの狙いが、島の産品を売るだけでなく、島の認知度アップや教育にまで発展させることだったので。まさか一人の人生を変えることになるとは予想していませんでしたが(笑)、少しでも島の産業が発展するきっかけになったのなら、このプロジェクトは間違いではなかったと自信が持てます!」と嬉しそうな笑顔を見せた。

「せっかく島にいらしていただいたので、明朝は豆腐作りを見ていってください」と山下さん。本業の豆腐はどんな味なのかを楽しみにしつつ床につく。

「バカ正直に作りすぎ」といわれるほどの濃い豆腐たち

そして迎えた翌朝6時。山下商店に行くと、工房内はすでに湯気がもうもうと立ちこめていた。島案内をしていたときの笑顔は消え、山下さんの表情は真剣そのもの。豆乳を試飲させてもらうとほのかに甘い香りで、豆本来の風味も口の中に広がる。濃厚だが、後味はすっきり。すーっと喉を通る味わいで、これがフクユタカの持ち味なのだとわかる。

豆乳ににがりを投入すると、みるみる固まり始め、ふるんふるんとした状態に変わる。数分おくと寄せ豆腐の完成だ。正真正銘、できたてほやほやの寄せ豆腐の味わいに、一同は言葉を失う。「口の中で溶ける! 甘い!! 幸せになる味(笑)」と、感動しきりの鈴木に、全員が力強くうなづく。

後でいただいたざる豆腐も厚揚げも、本当に豆の風味が濃く味わい深く、口の中で凝縮した豆の旨みが一気に広がる。どちらも、甑島の塩で食べるのが抜群に旨い。

上/寄せ豆腐をカップに入れる山下さん。奥で作業をしているのが弟さん。下/見よ、この寄せ豆腐のハリとツヤ!

大豆バターが島にもたらすこと

豆腐作りと発送作業が一段落した山下さんに、「どうしましょう! 大豆バターの新フレーバーに豆腐や厚揚げと、扱いたい商品が増えてしまいましたよ」と笑う鈴木。山下さんは「ありがとうございます。実は、毎日『おいしい豆腐って何だ?』と不安に思いながら作ってるんですが(苦笑)、自分の師匠から習ったひとつの方法を、ひたすらやり続けるだけです」と言いつつ、ふと「実は、昨日気になったことがあったんですが......」と話を切り出した。「しまものマルシェは、販売促進だけじゃなく教育も考えていたとおっしゃいましたよね? 何の教育を予定されているのでしょうか?」と質問された。

「本当にシックでおしゃれな外観の山下商店。喫茶スペースがバルになるという夏に伺って、今度はゆっくりお酒を飲みたいです(笑)」と鈴木

ここで鈴木は、プロジェクト発案当初からの思いを一気に述べる。「ITを活用しながら少しでも島の人々の暮らしを手助けできたらと思っています。言わば、山下さんみたいな人を増やしたいんです。地理的にも情報的にも取り残されがちな離島では、たとえば大豆バターのような素晴らしいものを作っても、発信するための知識がなくて広まらない、というものがたくさん眠っているはず。それを、KDDIの通信を用いて、距離を超えたいというか。山下さんのように、コンセプトやパッケージのデザインができて、それらの情報を自分で発信できる人が増えてくれば、島の認知度アップや活性化につながると思うんです」。

それを聞いた山下さんは、「いいですね。ぜひやりましょう! いや、一緒にやりたいです」と俄然、乗り気に。その背景にある思いを語ってくれた。

「島の子供たちは全員、中学を卒業すると"島立ち(しまだち)"します。島内には高校がないので、いったん島を出て進学するんです。でも、島には仕事がないからと、そのまま戻らない人のほうが圧倒的に多い。親世代ですら『島に帰ってきたら苦労するから』と、半ば諦めているんですよね。

僕自身は、人と人との距離が近くて、人の働く姿が生きることと直結している島での暮らしは、都会生活とはまた違った意味でかけがえのない良さがあると思っていますし、自分が選びたかったのは島での暮らしでした。物理的にないものや困難な環境は多いですが、できない理由よりも"離島だからこそできるように目を向けたい"と思っています。

いつかはこの島にまちづくりファンドのようなものを作りたいと考えています。資金だけで解決するとは思っていませんが、例えば、パティシエになりたいという子供がいたら、ヨーロッパ留学の資金をひねり出せるようなシステムや組織があったらなと。そしたら、子供たちは夢を見られるし、大人たちも応援できるでしょう? そういう"誰かの人生の支えになる"ものを作りたいので、自分たちの発展だけじゃなく、横展開もどんどんしていきたいんです。

僕が、豆腐屋のお婆ちゃんに感じた"大人の背中"を、今の島の子供たちはどこで感じているのか。島民が多かった昔のように、街のあちこちで大人を見られるわけじゃない。だからこそ、自分たちのやり方で"大人の背中"を積極的に伝えていかなくちゃいけないのかなと。つまり、子供のときから『島は自分たちの手で作っていくものだ』という意識を育てることが必要だと思っているんです」

「それは素晴らしいですね! でも、そのためにも大豆バターをたくさん売らなくちゃですよね(笑)。私も頑張ります!」と鈴木。大豆バターはまさに、「自分たちの手で島を作ろう」という思いから生まれた産品だった。鈴木は、その思いをつなげることをあらためて胸に刻み、島を後にしたのだった。

文:知井恵理
撮影:有坂政晴

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