2015/12/14

【魁! 男子少女マンガ部】読めば男も初恋トーク! 『orange』の魔力

ここは新宿のある酒場。2階にある秘密の小部屋が彼らの部室だ。引き戸を少し開けば侃々諤々(かんかんがくがく)、テンションも音量も上がり気味のトークが溢れ出してくる。

「バスケ部の女子に告白された時には......」
「好きだった先輩を同じクラスの男にとられて......」
「好きなコに他の女子を薦められたときの失望感といったらもう!」

"彼ら"とは――。TS 男子少女マンガ部である。メンバーは20代、30代、40代のT&S編集部員3人。2015年6月、編集部内に新設され、『花より男子』全36巻を読破。ついで『ヒロイン失格』について語り明かし、今度のターゲットは高野苺原作の『orange』。

活動内容は、auブックパスで配信される少女マンガを読み、男子ならではの視点と価値観をあますことなく発揮して語り倒すこと。だがなんだろう、様子が変だぞ。『orange』読んだら、男たち、自らの思春期のラブを語り始めた!

実はこの作品、集英社『別冊マーガレット』で連載をスタートし、休載を経て、双葉社『月刊アクション』に移籍して連載を再開した作品。いわば少女マンガと青年マンガのハイブリッド、そしてSF!? 12月12日から実写映画も公開されたタイミングで、男たち、『orange』に取り組むの巻。

orange(双葉社刊・全5巻)
主人公の高宮菜穂は高校2年の始業式にある手紙を受け取る。差出人はなんと、「10年後の自分」。その日に転校してくる成瀬翔(なるせ かける)を救ってほしいという内容だった。その後に起こるできごとが日を追って細かに記され、取るべき行動まで記されていた。にわかには手紙の内容を信じられない菜穂。しかしその日、実際に翔は転校してきた。やがて菜穂は翔に恋心を抱き......。長野県松本市を舞台に、高校2年生の日常をスリリングに、みずみずしく描き、5巻という短尺で余韻を持って決着する良作。©高野苺/双葉社

少女マンガと少年マンガのハイブリッド

20代H(以下20)「冒頭からいきなり"未来の自分から来た手紙"って、むしろ少年マンガっぽくないですか?」

30代N(以下30)「オレも、"おっと〜"って思った! SF的青春マンガだよね」

20「たまに、ご都合主義的にあとづけでSF設定持ってこられて萎えちゃうことがあるんですけど、これは最初っからきちんと提示されてるのが潔いですよね」

40代T(以下40)「最初にはっきりとミッションとタイムリミットが示されてて、ちょっと時限サスペンス的な趣きもあるしね」

30「少女マンガ的な丁寧に描かれた恋愛ストーリーと、少年マンガのSF的要素がうまくバランス取れてて、最後まで楽しめた。最新のマンガは進化してるなって感心したよ」

菜穂のところに届いた「10年後の自分からの手紙」どおりに、成瀬翔が転校してくる。手紙にはその日のできごとが時系列に沿って書かれ、攻略本さながらにそこで取るべき行動が示されるているのだ(1巻より)©高野苺/双葉社

20「この作品では、パラレルワールドがひとつのキーになってます。パラレルワールドっていうのは、今自分たちが生きてる世界と並行したいくつもの世界が同時にあるという考え方ですよね」

30「そうそう、歴史は一本道ではなくて、過程でどういう選択肢をとるかによってどんどん枝分かれしていくっていう。それはたとえば戦争のような大きな分かれ道もあれば、"翔が転校してきた日に一緒に帰るかどうか"みたいな些細な分かれ道もあって、パラレルワールドは無限にある」

40「"翔が死んでない世界"もある」

30「だろうね」

20「ってことは、たとえ過去に手紙を送ることができて、当時の自分たちの行動を変えることで翔が死なかったとしても、現在の自分たちにはなんの変化もない、っていうことですよね?」

40「そう。それは10年後の菜穂たちもわかっている」

30「"最初から自分の未来がわかっていたら、人はそれにどう対処していくのか"っていうことなんだろうね。しかもキャラクターは高校生。おそらくいろいろな葛藤があるわけで、そこがこの作品の柱になってるんじゃないかな」

40「そうかー。男女仲良し6人グループの青春、キラキラしてるよね」

メガネが荻田朔、リボンが村坂あずさ、ネックレスが須和弘人、黒髪ロングが茅野貴子。この4人と菜穂、翔の6人組。クラスのイケメン&かわいこちゃんグループなのである。そんな彼らのキラキラした青春がまぶしい。1巻早々に須和の菜穂への思いは明らかになるが、恋愛というよりグループ交際っぽい。あと実は萩田とあずさが、ずーっといい感じ(2巻より)©高野苺/双葉社

まぶしいッス! キラキラ青春模様

20「実は結構菜穂たちみたいなグループに既視感があって。クラスにひと組はああいうリア充グループがいて、"オレは誰が好きであいつはこいつが好きで"......ってグループ内でイチャイチャしてたんですよ......」

40「菜穂たちってリア充なの?」

20「リア充ですよ! 僕に言わせりゃクラスのヒエラルキー上位ですよ! だってクラスのみんなが体育祭のリレーの選手譲るんですから(笑)」

40「あー、そうかあ。あと、オレも少なくとも女子のことをファーストネームでは呼んでなかったかなあ」

20「僕はときどき呼んでました」

40「ずるいなあ」

30「あのグループって男同士でも相当ウェットだよね。須和が翔に"オマエは悪くない"って慰めるシーンではハグまでしてたでしょ。オレが翔だったら"え、ちょwww なにそれwww"ってなる」

40「まあ、30は男子校出身だし違う意味が生じるしね(笑)。彼らとしてみれば、ほっておいたら近い未来に翔が死ぬことが分かってるわけだから、そりゃもう必死じゃない? 多少不自然でも"とにかく翔を死なせない!"がモチベーションになってる」

30「そんななかで、徐々に翔と菜穂の気持ちが通じあってくるんだけど、実は親友の須和も前から菜穂のことが好きっていう、ひとりの女子をめぐる三角関係......。あれはどう思った? 体育祭のときに須和が、自分が菜穂と付き合うぞって翔に言ったら、翔は"そのほうがいいかも"って返した件」

20「そこまで菜穂のことが好きってことじゃないですか! どうすれば彼女がより幸せになれるかを考えてるからこその言葉ですよ」

作中最大の盛り上がりシーンのひとつ、体育祭のリレー。翔が死んでしまうもうひとつの世界で、翔は体育祭のリレーで転倒。その後、ひどく落ち込むことになる。それを防ぐために菜穂たちはグループ全員がリレーの選手に立候補。文字通りそれぞれの思いをバトンでつなぐ。たしかにウェット。だが20と40は滂沱落涙。30は「死んだような目で読んだ」とコメント(4巻より)©高野苺/双葉社

40「それはかっこ良すぎると思うね。オレ若いとき彼氏のいる子が好きだったんだけど、オマエとあいつの"好き"を足しても、オレひとりがオマエを好きな気持ちのほうがデカイぞ、って理屈を脳内で絞り出したよ。オマエらカップルより、総量としてはオレの愛の方が遥かにデカイんだから、おれと付き合うべきだ......って(笑)」

30「すげーな! このキャラクターたちと真逆! 40さんは須和と翔がお互い譲り合う美しい姿を見習った方がいいよ!」

20「倫理的というか、スポーツマンシップというか。多少無理してでも歯を食いしばってでも、汚いことはしたくないっていう価値観ありますもんね......」

30「で、40さんは相手にそれ言ったの?」

40「言ってない。その理屈はしゃべってない」

30「だろうね......(笑)」

「告白」と「付き合う」のあいだにあるなにか

40「わりと物語の早い段階で、翔も菜穂もお互いの気持ちに気づくし、なんだったら告白もし合うじゃない。でも"付き合う"というところには至らないんだよね」

30「翔は自分のなかにいつも死の影を背負っているからさ、好きな人と気持ちを確認しあえても、付き合うという責任が持てない」

20「菜穂のことを幸せにできそうにないから。彼氏彼女じゃなくて、互いに"好き"って言い合ってるだけの今の関係性であれば、そもそも壊れることもないですしね。一歩踏み出して関係が変われば壊れる可能性もある。それ、ちょっとわかりますけどね」

30「そう? 普通、"オレの好きなアイツがオレのことを好きなんだ!"ってなるともう、歯止めが利かないけどね。その先ににめくるめく世界が待ち構えているということをまだイメージできない年齢なんだろうなあ。まあそれが青春か......」

40「そこから先のイメージは、滝になってて見えない。だから気持ちだけでストップできてしまう。その先のめくるめく世界が見えてる大人になると絶対ストップできないもんな」

20「ストップしちゃうからorangeの世界は美しいんですよねー」

30「"好き"っていう意志の表明="付き合う"ではないんだよね。"好き"までいっても、その先に進んでいってなにか新たな課題を克服しないことには"付き合う"にならないと思ってる。滝の先の作法がわからなすぎて、ひとまずは"好き"って言い合うだけでも、まあつまり幸せっていう」

40「大事なのは、気持ちの表明じゃなくて関係性の進展なんだけどね......」

30「まあ、オレたちも当時はそれに近いことをしてたような気がするよ」

翔は自分と同じく東京からの転校生である上田先輩に告白されて付き合うことにする。が、告白された直後、返事する前に菜穂に「先輩と付き合っていいか否か」を尋ねる。菜穂はここで初めて意志表示をする。30の推しシーン(1巻より)©高野苺/双葉社

40「この辺の感覚って、都市部のティーンでも共感できるのかな?」

20「それはできると思いますよ。今の自分が完全にいろいろ知ってるゾーンにいても、"オレにもこんな部分はちゃんとあるんだ"って。キュンキュンする気持ちは別腹なんですよ」

40「あああああ......!」

30「どしたの?」

40「電撃的に、自分の昔のこと思い出してきた......」

男たち、己の青い体験を語る

40「中学時代、まあまあ仲良しのバスケ部の別の女の子に呼び出されてさ......」

30「なんか語り始めた(笑)」

40「まあ聞け。全然知らない子だったんだけど、告白されたんだよ。で、"ついにオレにも彼女が!"って舞い上がってしまって、とっさにひねり出した返事が、"......どう答えるべきかな。......ハイなのか、イエスなのか、OKなのか......"」

文化祭のエンディングに打ち上がる花火を2人で観る約束をした菜穂と翔を引き裂こうとする上田先輩。作中ほぼ唯一の悪役だ。ときどき策を弄して2人の邪魔をするが、あまり強敵ではない。この人のキャラをめいっぱい立てて恋の行く手を阻ませるのがいわゆる少女マンガ的な手法だが、この作品はあまりそこに注力しない(2巻より)©高野苺/双葉社

30「そういうふうに言ったの!?」

40「言った」

20・30「ブハハハハハハハハハハハハハ〜〜〜〜〜〜ッ」

40「齢14にして、ライターらしい洒脱な回答というか......」

20「キモいっすね」

40「すんません。ともあれそれで付き合うことになったんだけど、菜穂たちとは逆に"好き"というプロセスを経てないから、何がしたいということもなくて。もちろん一般的に"付き合う"ってのがどういう営みかも知らないし。恋人活動としては学校から一緒に帰るぐらい」

30「ああ、オレも似たような経験あるなあ。ある日、自分が好きだったコに急に呼び出されて、浮き足だってついていったら、"○○ちゃんが30のこと好きなんだって。付き合っちゃいなよ!"って。少しでも期待した自分が恥ずかしいのと、呼び出しに来たってことは、そのコはやっぱり自分のことをなんとも思ってないということを宣告されたみたいで失望感がハンパじゃなかった」

萩田とアズが体育祭を控えてリレーの練習をするシーン。普段から口げんかばっかりしている女子と2人っきりで、学校外で練習というシチュエーションに30と40は萌えまくりである。しかも普段メガネ男子の萩田がメガネを外して意味深なことをいう。キャーッ、なに? 告白? そうではなく、ストーリー展開情重要な秘密を共有するのだ。この辺も少年マンガフレイバーだ(3巻より)©高野苺/双葉社

20「僕は好きだった先輩を同じクラスのヤツにとられましたね。どうせ年下の自分がなんとかできるわけないと思って何もしなかったら、同じクラスのヤツに先にいかれました。で、僕は結局その件を相談してた友だちの女のコと付き合ったっていう(笑)」

30「なんだそれ。易きに流れるのは昔からか!」

20「合理的と言ってください」

40「まあ、いずれにしてもさ、"考えすぎてなんかうまくいかないもどかしさ"がいいんだよね。この作品読まなかったら思い出しもしなかったわ」

未来からの手紙とは果たしてなんだったのか

30「あのさ、人間って若かろうが中年だろうが、"本当はこうすべきだ"っていうことを実はだいたいわかってると思うんだよね。傷ついている友だちがいれば、"なぐさめるべき"だし、好きなら"好きって言うべき"だし。でも、迷ったり勇気がなくてなぜかそれが素直にできないことがある。この作品の"未来からの手紙"っていうのは、その"べき"を目に見えるカタチにしてるっていうことだと思うんだよ」

40「そこで悩んでしまうことが高校生のむずがゆさと美しさだよね......」

30「"今こうした方がいい"っていう答えは本当はなんとなくわかってて、でもそれができなかった"フツーの青春"を送ったのが未来の世界の菜穂たち。手紙を受け取ったことで"そうした方がいい"ことを自覚して、勇気を出して踏み出していったのが主人公たちの世界」

20「主人公の菜穂はたぶん、なにもできずに26歳になっちゃった菜穂よりどんどん強くなっていってますよね。恥ずかしかったり辛かったりすることに負けたまんま大人になっていった菜穂よりも、きちんと自分で自分の意志を表す人間になってきてる」

30「そう、内向きだった子が、翔が先輩に告白されたときに付き合うべきかどうか聞かれて、きちんと"だ め"って意思表示する。そこが感動的だった。つかオレ泣いた」

序盤の「だ め」のメモよりも、ずいぶん強く積極的になった菜穂の「だめっ」。未来からの手紙により、菜穂がここまで自分の意志をはっきり表明することになったのが感動的なのだ。だが一方で、未来からの手紙があるにも関わらず、どんどん事態は思い通りにならなくなってくる。この作品で主人公たちが戦うべきは、意地悪なライバルキャラではなく、歴史そのものなのである。最終回直前エピソードにして、このままならなさ。翔が救われるのかどうかは、本当に最後の最後まで予断を許さないのだ(5巻より)©高野苺/双葉社

40「作中で過去の自分たちに手紙を送った側のコたちの方も、オレと比べると20歳くらい下でさ。オレはむしろそのコたちの方が心配になっちゃうんだよ。10年前のことをいつまでも悔やんでないで、今をがんばれよ! って。でも、そういう過去の引っかかりって自分にも心当たりがあるから、妙に感情移入しちゃう。オレ、子どももいるし、親目線になるんだろうね」

30「オレはストレートに高校生の主人公たちに感情移入できた。仲良きことは美しくて、もどかしくて、はかないよなって。ピュアな部分の喪失感を感じるためにオッサンになっても青春マンガを読んでいるようなものだから、そういう意味でもドップリはまれたよ」

20「僕はポジティブな気持ちになりました。なんというか、これから先、選択肢は無限に広がってるんだなっていうことを実感できました」

30「おお、さすが20代。感じ方がまぶしい......」

20「そういう意味でもこの作品、むしろオッサンたちに読んでいただいたほうが、より青春のキラキラを思い出せていいような気がしますけど」

40/30「だよなあ......(しみじみ)。......オッサン言うな!」

というわけで、双葉社刊の『orange』全5巻中1~4巻がブックパスで1月15日(金)まで読み放題。年末の忙しい日々に、青春のキラメキを注入し、すっきり癒やされるのはもちろん、年末年始の帰省時、よりリアルに青春に近づいたシチュエーションで読まれるのもよろしいかと。

なお11月12日に発売された(紙版・電子版同時)の最終第5巻は、ブックパス特別版(カラー見開き絵が追加された限定版)で配信。また購入額の最大50%分のポイント還元するキャンペーンを実施(読み放題対象外)。ブックパス限定版配信期間は2016年1月15日(金)まで。

つづく!

文:武田篤典
編集協力:auスマートパス

※掲載されたKDDIの商品・サービスに関する情報は、掲載日現在のものです。商品・サービスの料金、サービスの内容・仕様などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。