2015/09/18
【魁! 男子少女マンガ部】男たち、『ヒロイン失格』でいまどきのオンナ心を学ぶ
ここは新宿のある酒場。2階にある秘密の小部屋が彼らの部室だ。引き戸を少し開けば侃々諤々(かんかんがくがく)、テンションも音量も上がり気味のトークが溢れ出してくる。
「まさか安達さんがあそこまで豹変するとは!」
「この作品って、"ガールズトーク"なんだよね」
「1巻から『漂流教室』が出てきてオレ歓喜!」
"彼ら"とは――。TS 男子少女マンガ部である。メンバーは20代、30代、40代のT&S編集部員3人。2015年6月、編集部内に新設され、『花より男子』全36巻を読破。活動内容は、auのブックパスで配信される少女マンガを読み、男子ならではの視点と価値観を発揮して語り倒すこと。お久しぶりです! ここに第2回活動報告をお届けすることができました! ......お題は別冊マーガレット(集英社)にて2010年から2013年まで連載していた、幸田もも子原作『ヒロイン失格』だ。
2010年より2013年まで『別冊マーガレット』にて連載。主人公の松崎はとりは幼馴染みの寺坂利太に恋する女子高生。自らを少女マンガのヒロインになぞらえ、最後に利太と結ばれることを、告白すらせず妄想する日々。ところが利太は超地味系女子の安達さんと結構本気で付き合い始め、はとりには学校一のモテ男・弘光廣祐がアプローチ。ヒロイン"らしくない"ヒロインが、超絶デフォルメの変顔を駆使しつつ、2人のオトコのあいだで揺れ動く、現代的ラブコメディの傑作。コミックス全10巻
王道。そしてメタ視点!
30代N(以下30)「よかったねえ」
40代T(以下40)「うん、よかった」
30「最後の10巻目を開くときにはドキドキだったもん」
20代H(以下20)「結局はとりは、利太と弘光くんのどっちを選ぶのか!? っていうね」
30「ペースもパワーも落とさないままマンネリ化せずに駆け抜けたね。10巻っていう巻数も、読みやすくて丁度いい長さだった」
40「ストーリーの骨格はホント王道なんだよね......。"家が隣で幼馴染みの利太と、学校一のイケメン・弘光くんとのあいだで揺れる主人公・はとり"。そこにメタ視点が入ってるからすごく新鮮にみえる!」
30「メタ視点っていうのは、はとりの妄想のなかには常に"少女マンガのヒロイン"っていう視点があって、その行動規範に従おうとしたり、現実とのギャップに悩んだりするところだよね。で、ホントは利太のことが大好きなのに、"最後に結ばれる"にこだわって、友だちのボーダーを越えようともしない」
20「でも、はとりが"ヒロイン"である根拠って、実は"利太と家が隣で幼馴染み"っていうことぐらいしかないから、たとえば、超地味系女子の安達さんが利太と付き合っちゃったりして、はとりは焦りまくってジタバタしてるところがかわいかったです」
30「安達さんはいい子なんだよね。夢に向かってコツコツ努力をしてて、男子にはガツガツしていない。はとりが利太のことを好きなのも知ってて、もし利太がはとりを選ぶなら受け入れる覚悟も持ってる。むしろ安達さんのほうが王道少女マンガのヒロイン的なんだよなー」
40「これまでのヒロイン像って、そういうイメージだよね」
30「はとりみたいに好きな男に対してガンガンに攻めて、いろいろ戦略とか本音とかをぶっちゃけるタイプのほうが、いまの女子にはリアルに感じられるんじゃない?」
40「なるほどね。それを無理なく成立させるためのメタ視点なのかもしれないね。誰でも、"少女マンガのヒロイン"視点がいつも頭の片隅にあるよねっていう」
20「確かに清楚で地味な安達さんは今のマジョリティではないかもですね」
30「"これが今のあっしらッスから〜"的なぶっちゃけ感。読んでるコたちも"あるある〜"って思えるような」
20「ボク、ガールズトークみたいだなあって思いながら読んだんです。はとりは利太に対してはカワイイ女子の面だけ見せようって努力してますよね。ぶっちゃける相手って、親友の中島ぐらいで。実はボクもいつも女の子のカワイイ面だけを見せられてるんじゃないかっていう気がして、この裏側には正直ちょっとビックリするところがありました......」
30「オレとか40さんとかは嫁も子どももいるから、もう女の人をそこまで神聖視してないからなあ(笑)。『ヒロイン失格』はその辺の女子の欲望とかリアルをきちんと描いてるんじゃない? 男子が今の同世代の女子の"自意識"とか"リアル"を知るにはすごくいいかもしれないよね」
40「おっさん的には、はとりの顔が突如楳図かずお風とか、『ガラスの仮面』『キャンディ・キャンディ』『北斗の拳』とかの絵柄を彷彿とさせる画に変化するのがたまらなくよかった(笑)......。飽きさせないし、だすタイミングも絶妙で単純にオモロイ」
30「これって、いわば変顔なんだよね。現実の"あっし"系の女子たちも、色んな場面で心のなかではこんな顔になってて、それが妙なリアリティにつながってるような気がする」
天然系幼馴染み男子 vs 人間力あふれる学校一のモテ男子
30「驚いたのは、『ヒロイン失格』では高校生の利太が、かなり恋愛経験豊富に描かれてるんだよね」
20「一応、安達さんとも男女の関係になってますもんね」
40「このご時世、恋する相手が必ずしも純情ボーイじゃなくてもいいっていうことなんだろうね」
30「時代......なのかねえ(しみじみ)」
20「リアリティですよ。高校生でも恋愛非経験者はやっぱりモテない......(泣)」
30「その利太のことはどう思う?」
20「天然ていうか、オトコ視点で見ても、正直あんまりよくわからないんですよね」
30「それが女子の理想なんじゃない? 純情ではないけれども、一方では、やっぱり"ミステリアス"で、つかみどころがない存在っていう部分では、実はヒロインが恋する相手としては、王道ともいえる」
20「で、はとりは一方で弘光廣祐くんと付き合い始めちゃいますね......」
30「そこのはとりの割り切り方も少女マンガ的には斬新なんじゃない? 弘光くんって学校一のモテ男で、そんな彼が自分の興味を示してるんだから、このチャンスを逃すのは"もったいない"って言い切っちゃうぶっちゃけ感(笑)」
40「弘光くんも弘光くんで、モテすぎるがゆえに恋愛を信じてないんだよね。だから最初は、はとりの"何の見返りもなく利太を追っかけ続ける"っていう宣言に対して、"愛なんてない"ってことを示すために、はとりの心をゲットしようとするわけで。ゲームというか打算的というかエゴというか......」
30「それを包み隠さず言っちゃってるところが潔いんだよな」
20「しかも、そんな風にして始まった、はとりと弘光くんの恋愛が実はちゃんと本物になっていくっていう課程が個人的にはよかったです。スレたキャラがなにかをきっかけに人間的になっていくのって、好きな展開なんですよね」
40「もうひとり重要なキャラクターが、はとりの親友の中島ね」
20「はとりの気持ちをいちばん分かってるし、ある意味、常軌を逸したはとりの思想とか行動に対して、きわめて常識的な立ち位置からアドバイスするし、状況を全部わかってるし」
40「中島がいなければ、はとりの本音は読者には伝わらない」
30「中島って狂言回し的な立ち位置なのに、ストーリーに絡んで"利太ちょっといいかも"って思うくだりあるじゃん。どう思った?」
20「利太がちょっとヘコんでるときに、中島がそれを見てキュンキュンくるところですよね? ちょっとズレてるかもしれないですけど、利太うまいなあって(笑)。あの甘えん坊キャラが」
40「オレも実は甘えん坊だけど」
30「オレもでちゅね」
20「ただ、出し方のうまいヤツは、間違いなくいるんですよね」
40「上手か下手かなのかなあ......"ただしイケメンに限る"的な差じゃない?」
20「なんかやっぱり利太って天然で、"女を落とすぜ!"的なこと1ミリも考えていない風ですから。そういうキャラだから、ちらっと弱みを見せられるとグッと来るんじゃないですか」
30「それであの中島さえよろめかせる」
40「それも女子的には"あるある"なシチュなんだろうね。ただ中島は惹かれそうになりながら、"でたな、寺坂必殺さびしんぼう"って、利太のワザを見切ってはいる。あくまで冷静さを失わないところが好きだなあ。あいつは大学行ったら絶対モテると思うよ」
20「40さん、妄想キモいっす(笑)」
30「利太がヘコんだのって、安達さんと別れたあとじゃん? あのへんは良かったよね。あれで利太に血や肉が宿った感じがした。はとりのことが好きだと気づいて、きちんと安達さんに引導を渡すくだり。すごく嫌なヤツになりながら、必死にはとりを追いかけ始めるところは、ちょっと利太を見なおしたね」
40「一方で、はとり的には最高だよね。利太に追いかけられつつ、弘光くんとは付き合ってるし。弘光くんがはとりに惹かれるプロセスも。"今までの女とは違う"なんて言われたりして」
20「なぜはとりを好きになったのかを語るシーンあったじゃないですか。はとりのことは、タイプでいうとむしろ真逆なんだけど、だけど"カワイイと思えるものは仕方ない"って。......それが本当の恋ですよね!」
40「ただ、ホント弘光くんってちゃんとしてるんだよなあ。ものすごく大人。家庭教師のおねえさんにいろいろ教えてもらっただけでなく、とにかく女性経験豊富で。女性経験だけでなく、年上の友だちからも影響を受けて、他人の気持ちがすごくわかるんだよね」
30「はとりの気持ちが利太に残ってるのを知りつつ、それごと受け入れる。包容力ハンパない!」
40「あれ、たぶん中身は40代後半だね。一部上場企業の部長が中に入ってるね。あの余裕は高校生にはあり得ないよ」
20「その弘光くんが、はとりに一方的に振り回されてるっていう。はとりのことを年上の友だちに相談したら、『コントロールできないからって手放すのか』って諌められたりしてね」
30「世間が弘光くんに求めるレベル、高すぎだよね(笑)」
はとりはどっちを選ぶのか(ネタバレ)
40「最初の方にも言ったけど、やっぱりストーリー構成が面白い! 特に後半に向けての盛り上がりは、800m走で最後がデッドヒートになったみたいな。弘光くんがすごくいいアジ出してるんだけど、女子の友達は"史上最強の当て馬"って言ってた」
30「幸田もも子先生の今の連載、弘光くんの兄が学校の先生やってる物語で『センセイ君主』っていうらしいよ。やっぱ弘光関連案件人気なのかもしれないね」
40「で、ドキドキしながら10巻読んだわけですけど......」
20「まあ、やっぱりそうだよなあ。そうなるよなあって思いました......」
40「俺も。正直、納得はいかないんだけど、ストーリー上はそうならないと収まりがつかないからなあって、自分に言い聞かせた(笑)」
20「はとりは利太と一緒のほうが楽なんですよ」
40「そりゃまあ当然でしょ。幼馴染みで家が隣でずーっと好きだと思い込んでて、ここに至るまでもさんざん2人は気が合うっていう描写もされてきてたし」
20「そもそものはとりの感情は、弘光くんに対しては"好きになろう"なんですけど、利太には"好き"なんです。とにかく居心地がよくて......」
40「楽とか居心地とかはわかるよ。でも居心地がいいこと=ベストなのかね?」
20「でも恋愛ですからねー。奇しくも弘光くんが"カワイイと思ったらしょうがない"って言ってたように、はとりと利太はお互いに好きと思っちゃったからしょうがないんです」
40「なんかね『キッズ・リターン』見てるみたいな、"ダメだ、そっちへ行くとろくなことにならないぞ! ここはオレの言うことを聞いておけ!"みたいな。なんていうの? ......老婆心?(笑)」
20「中島が2人のことをバカップルって呼んでましたけど、2人にしてみればそれでいいんですよ」
40「あー、そうかもなあ。弘光くんは少なくともはとりと一緒にいてあんまり楽しそうじゃなかったもんなあ」
30「弘光くんにだってたまには彼女と♪ウェ〜イ♪ってやりたい時があると思うんだよ。でもはとりと付き合ってる限りは"合わせていく""保護する"立場しかなくて。仮に最後にはとりが弘光くんを選んでも、実は弘光くんのほうが長続きしなかったんじゃないかな」
40「その、保護者的立場から愛を育てていくことだってできるんじゃない?」
30「渡辺淳一か! ......弘光くん、まだ高校生だから(笑)」
20「弘光くんには、今度は一緒に♪ウェ〜イ♪ってできるようなコと付き合ってほしい(切望)」
そんな『ヒロイン失格』をau「ブックパス」で全巻お読みください
10巻。ギャグもふんだん。パロディー作画を見つけるのも楽しい。少女マンガビギナーでも十分楽しめる1作です。折しも桐谷美玲主演実写化作品も9月19日(土)から公開。ぜひとも男子のみならず女子のみなさんにもお読みいただきたい。そのうえでまた、男たちのだらだらトークをツッコミ入れつつお読みいただければ、と、かように考えるわけであります。
今なら、11月末まで期間限定で『ヒロイン失格』の1・2巻が読み放題。さらに言うと、「ブックパス」では現在、マーガレットコミックスの数々の人気作品や定番作品が月額562円(税抜)で読み放題となるキャンペーン実施中です。しかも、初回入会なら、14日間無料でお試しできます。
「ブックパス」によるマーガレットコミックス読み放題のキャンペーンが続く限り、TS 男子少女マンガ部の活動はこれからも続くだろう。第3回TS 男子少女マンガ部の開催日と作品名はまだ決まっていないが、やはり皆、心の中でこうつぶやくのであった。「10巻ぐらいがちょうどいいぞ」と......!
つづく!
文:武田篤典
編集協力:auスマートパス
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