2017/02/02

建築家の夢を現実にする“AI+3Dプリンター建築”の実力やいかに

写真提供:Ai Build (London)

一度は建設が試みられたものの頓挫してしまった新国立競技場の例に限らず、建築家が考える設計案は時には実現化するのが難しい場合がある。特に複雑で美しいデザインほど難しく、建造材や加工などにかかるコストも大きくなり、技術者の手腕も必要となる。

複雑性・高コストを打破した「AI Build」

そうした課題に対し、ここ数年でますます高機能化が進み、扱える材質も多様になっている3Dプリンタとロボティクス技術で打破しようと取り組んでいるのが、ロンドンの建築デザイン事務所AI Buildである。正確には、AIを搭載した工業用のロボットアームに3Dプリンタ用のエアガンを装備し、複雑で巨大な構造物を自動で製作するという、ロボティクス技術と3DプリンタにさらにAIを組み合わせた最新の建築技術を用いるという独自の手法で、今までにない複雑な建築物を造り出すことに成功している。

写真提供:Ai Build (London)

ロボットには、マシンラーニングのミスを学習する独自アルゴリズムのシステムが搭載されており、使うほどに効率が上がるという。また、建築家がこれまで実現したくても不可能だった複雑な構造物のアイデアも可能にしている。先日もオランダで巨大構造物を完成させ、その幻想的なデザインに訪れる人たちの多くが魅了されているという。

同社の創業者であり、CEOのDaghan Cam氏は、伝統的な商業建設を効率的で自動化されたプロセスにするためのアイデアを追求してきた人物だ。2016年10月に技術コンサルティング会社Arup Engineersと提携し、アムステルダムのGPU Technology Conferenceというイベントで、「Daedalus Pavilion」という建築物を発表した。幅約16フィート(約4.9メートル)、高さ14フィート(約4.3メートル)にも及ぶ構造物は48のパーツで構成され、たった15日で完成させたことでも大きな話題になった。

今後はコンクリートやモルタル製も

アルスエレクトロニカのアート作品の写真

実はAI Buildと似たようなアイデアは以前からあり、オーストリアのリンツで毎年開催される国際メディアアートイベントのアルスエレクトロニカでも、ロボットアームと3Dプリンター技術を組み合わせて、巨大な立体彫刻を造るというインスタレーションが発表されている。また、エンターテインメント施設の装飾でも一部、同じような技術が用いられてきたが、これからは本格的な建築物に用いられるようになりそうだ。

アルスエレクトロニカのアート作品の写真

今後の課題は、コスト効率の高い材料を使ってこの建築手法を使えるようにすることである。コンクリートやモルタルなどが3Dプリンターで自在な形に自動出力できるようになれば、建築現場のあり方から大きく変革させるかもしれない。

文:野々下裕子