2016/11/21
離着陸指示は、音声よりテキストがトレンド? 米航空局が整備中の『データ・コム』 とは
パイロットと空港の管制塔のやりとりは、昔から音声による無線通信が基本。航空無線独特の緊張感を含んだフライトプラン(飛行計画)の確認からプッシュバック、地上走行経路指示、滑走路での待機指示、離陸許可、そしてレーダー管制へと続く一連の交信を受信して聞くのが楽しみという人は少なくない。
だが、離陸やフライトプランを口頭で伝えるのは、複雑で手間がかかる。コールサインの確認から始まって、フライトプラン、誘導路の指示などは間違いないようフォネティック・コード(世界共通の航空無線特有のアルファベット・数字の読み方)を交えて行われるため、普通に話すよりも時間がかかるし、それが正確に伝わるまで双方が復唱を繰り返すため、さらに時間がかかる。そこまでやっても、聞き間違いや思い違いによるヒューマン・エラーの可能性も指摘される。
航空管制はテキストメッセージで
この状況を改善するために、アメリカでFAA(連邦航空局)が導入を進めているのが、「データ・コム(Data Comm)」システム。2025年の完成予定で整備を進める次世代航空輸送システム(NextGen)の中核システムのひとつだ。
パイロットと管制官のやりとりをテキストのメッセージとして送受することで、やりとりを正確かつ迅速に行う。ジョン・ウェイン空港、ボブ・ホープ空港、ロングビーチ空港、オンタリオ空港など、既に30以上の空港で導入されており、全米では50以上の空港で導入が予定されている。
2016年3月に導入したロサンゼルス国際空港(LAX)は、1日に1,950回もの離着陸のある大空港で、6月末の時点で、データ・コムの利用は1日60〜100便程度。だが、「新しいシステムに対応した機体が増え、担当者の訓練が行き届けばどんどん増えるはずだ」と専門家は語る。
復唱や訂正の時間が不要になることで、離陸前の時間を6分から12分短縮できるというから、LAXのような超過密空港では導入メリットが大きい。さらに、フライトプランを航空機のコンピュータに入力するのもワンボタンになるので、ここでもヒューマン・エラーの可能性を減らすことができる。
「管制待ち」解消で、環境にやさしくスムーズな運航を実現
写真提供:Federal Aviation Administration
データ・コムは、悪天候や緊急事態発生時など、多くの航空機に対して針路変更を要請する必要がある時にも威力を発揮する。従来は、針路変更も管制官とパイロットのあいだで音声のやりとりを逐次行う必要があったため、混雑する空域では後回しにされた航空機が「管制待ち」で上空を旋回しており、時間と燃料を無駄にしていた。データ・コムであれば、関係する航空機に対して一斉にテキストメッセージを送信することができる。進路変更までの所要時間が短縮されることで、遅れは最小限にとどめられ、燃料は節約でき、迅速な針路変更により安全性が飛躍的に高まる。
航空会社にとって、「安全」と「定時運航」はどちらも顧客満足度につながる重要な指標。6月末現在でデータ・コムに対応しているのは、ユナイテッド、デルタ、サウスウエストなど航空会社約20社だとのことだが、今後さらに普及が見込まれる。
文:WirelessWire News編集部