2016/10/25
世界初、AIが脚本を書いた映画本編がこちらです
囲碁や将棋ではプロを負かすほど急激な進化を見せているAI(人工知能)だが、まもなく芸術や創作の分野でも人間を追い越してしまうかもしれない。
SFショートムービー「Sunspring」は、AIが脚本を書いた、世界初の映画作品である。毎年ロンドンで開催されている映画祭「SCI-FI-LONDON Film Festival」に設けられた、48時間以内に映画をつくる「48-Hour Film Challenge」部門に応募された作品で、残念ながら受賞は逃したものの、"AIが映画をつくった"という事実は、SF以上に夢のある話として世界中で大きな話題になった。
先日、サンフランシスコで開催されたGitHub Universeというソフトウエア開発者向けのイベントで、制作の裏側を披露するセッションが行われたが、それによると、監督兼脚本家であるOscar Sharp氏は、以前から映画作品にデジタル技術や最新のテクノロジーを取り入れることに興味を持っており、これまでSF扱いされていたAIが世間で注目を集めていることから、脚本をAIに書かせるというアイデアを実現してみることにしたという。
AI研究者でありアドバイザーのRoss Goodwin氏に協力を求めたところ、スーパーコンピュータではなく、プログラミングとアルゴリズムのアイデア次第で脚本をつくることが可能だといことがわかった。ただし、一から脚本を書かせるのはさすがに難しいため、『2001年宇宙の旅』や『ゴーストバスターズ』など、過去のSF作品の脚本を学習させ、セリフをつなぐパターンを調整する方法を試行錯誤した結果、「Benjamin」という名の脚本を書くためのAIが誕生した。
「Sunspring」は、ロンドンで開催されているSF映画祭の作品として制作された。会場にはAIのBenjaminも登壇し、その場で短い脚本を書いてみせた。
Benjaminによる脚本は、元のデータが映画の脚本なのでそれらしいものにはなっていたが、さすがにストーリーや言葉の使い方はかなりちぐはぐで違和感があり、そのまま作品にするのは難しそうだった。普通ならここで一度人間の手を入れるところだが、Sharp監督はあえてそのまま手を加えず、48時間で映像化を進めた。ちなみに作品内では切ない女性の歌声が挿入歌として流れるが、その歌詞もBenjaminが書いたものだ。
脚本の全文はネットに公開されている。会場ではプログラミングの方法なども紹介された。
映画の内容は、ある宇宙空間を舞台にした一組の男女と人型ロボット(?)による三角関係かのように見えるが、急に場面が変わったり、会話が成立していなかったり、難解な古典文学を無理やり映像化しただけという印象がある。とはいえ、それも受け手側の解釈次第で、ストーリーが成立しているといえばそういう感じでもある。セッションではBenjaminがその場で書いた脚本をプリンタで出力し、女優が即興で演じるという興味深い試みも披露されたが、プロが演じているせいかそれほど違和感はなかった。
正確に言えば、BenjaminはAIというより過去の脚本のデータベース化したコーパス(集積された言語資料)であるというのは制作者2人も認めている。
初のAIによる映画予告編として、アメリカ版『攻殻機動隊』の予告トレーラーがIBMのWatsonで制作されたが、こちらも最後に人が編集に手を加えており、完全に自動化されたわけではない。とはいえ、技術は確実に進化している。アカデミー賞にAI脚本部門が登場する日もそう遠くはないのかもしれない。
Sunspringは公式サイトで公開されており、誰でも見ることができる。
文:野々下裕子