2016/07/21
サンタモニカに登場したhulu自転車は、好きな場所に乗り捨てOK
ロサンゼルス郊外の街、海の近くの観光地のサンタモニカで、ハイテク自転車のシェア・プログラムが人気だ。
昨夏に始まったこのプログラム、稼働している自転車は、スタート当初の60台から500台まで一気に拡大し、ハブ・ステーションは7カ所から、最終的には市内75カ所に増える予定だ。人気の秘密は、シェア用に特別に開発されたGPS内蔵のスマート自転車にある。
通常のバイクシェアは、借りたバイクを必ずステーションに戻さなければならないが、サンタモニカ市では、ステーション以外の公共バイクの置き場や、公園、学校、道ばたのポールなどに鍵をかけてとめれば、プラス2ドルで「乗り捨て」が可能なのだ。自転車を返却したいステーションがすでに自転車で満杯のときは、100フィート以内のどこかに路駐すれば追加料金はかからない。
道に乗り捨てられている自転車をステーションに返すと、1ドルのキャッシュバックがある。また、自転車を回収する専用の車両が市内を巡回しており、自転車をステーションに戻している光景が頻繁に見られるので、乗り捨て自由の運用でも特定のステーションに自転車が一台もない、という事態はあまり起こらない。
ステーションではなく「自転車1台1台」を管理する発想
GPSで位置管理し、借りた場所とは違う場所に返却が可能なレンタサイクルサービスは、実は日本でも運用が始まっている。サンタモニカのシステムが新しいのは、個々の自転車がステーションハブ経由ではなく、直接クラウドに接続されていることだ。
リアルタイムGPSを利用して、「現在空いている自転車が、どのストリートのどの位置にあるのか」を、管理者だけでなくユーザーも自由にアプリやネットでチェックできる。また、ハブ・ステーションの電源が切れていても、ネットで事前予約したり、スマホにダウンロードしたアプリを使えば、その場ですぐ借りることができる。
管理システムには、ジオ・フェンス(バーチャルな柵)の機能があるので、サンタモニカ市外の道ばたに自転車が放置されてしまった場合は、罰金の20ドルがユーザーに課金される。この罰金を避けるため、市外に乗り捨てないように気をつける必要がある。ユーザーは、自分と自転車が市外に出てしまっているかどうかを、アプリの地図とGPSで確認できる。ただし、サンタモニカ市と隣接するベニス地域の海岸は、観光客に大人気のため、ベニス地域の一部では、市内扱いで駐車、乗り捨てできるようになっている。
万一自転車が盗難された場合は、走行できないように遠隔で自動ロックされる。色を塗り替えたりしても走らないから盗んでもムダ、ということになる。アメリカらしいシステムだ。
日本と異なるアメリカの自転車通勤事情にも対応
利用料金は、サンタモニカ市の住民の場合、1年間の会費は約99ドル。1日上限60分まで乗れるシステムだ。延長分は分単位で課金される仕組み。この住民用年会費プログラムは、大きなバスの停留所や、最寄りのメトロの駅まで、通勤に自転車を使いたい人に人気だ。
日本と違い、電車の駅の近くに駐輪場がないアメリカの場合、自分の自転車を駅に置いたまま電車に乗ることはできないため、バイクシェアが重宝されている。このシェアプログラムでは前日に予約ができるので、朝、家の近くのステーションに行ってみたら自転車が1台もなかった、という状況が避けられる。
数時間から数日間、自転車を利用したいという観光客の場合は、1時間あたり6ドルのプリペイドカードがある。もっと長く乗りたければ、キオスクで追加入金すれば何時間でも延長が可能だ。
予約と貸し出しは会員番号をキーにして行う。予約はアプリに会員番号を入力し、貸し出し処理は自転車に装着されたキーパッドに会員番号を入力する。解錠・施錠はPIN番号入力で行う。まだ自転車を返却したくないが、ちょっとコーヒーショップに寄りたい時など、短時間、路上に駐車する場合は、「ホールド」ボタンを押せば、ほかの利用者が使えないようにできる。
人気レストランの前や、公園、ショッピングセンターの横など、人目につく場所にいつも数台の自転車がある状態なので、運動のため、ちょっと1時間だけ乗ってみようか、という気にもなりやすい。市営バスに乗る時は、自転車をバスの車体の外に乗せてもらえるのも利点だ。
直接管理でコストを抑えて普及を拡大
通常のバイクシェアは、ハブ・ステーションのキオスクに多額の費用がかかるため、コストの面で普及速度に限度がある。だが、スマート自転車を使い、ハブ・ステーション経由ではなく、自転車1台1台が管理システムとクラウドで直接つながり、アプリでも直接自転車を予約できるサンタモニカのプログラムの場合、キオスク設置の費用を抑えられる。それにより、普及のスピードが上がるという仕組みだ。
コストを下げるための方法として、もうひとつ有効なのが、広告収入だ。サンタモニカ市の場合、テレビ番組や映画のストリーミング・サービスでお馴染みのHuluの緑色のロゴがシェア自転車のカゴの部分についている。
つまり、カゴ部分を利用して、企業に広告スペースを売り、マネタイズできるのだ。企業側も、CO2を排出しない、環境にやさしい交通手段をサポートするというメッセージを、「街中を動く媒体」で伝えることができる利点があり、ウィン・ウィンの関係だ。
また、この夏開通したサンタモニカとLAダウンタウンをつなぐメトロ線の電車を利用する観光客にとっては、駅からサンタモニカビーチまでちょっと自転車で、という利用方法が可能になったことも利用者拡大への大きなプラスになっているようだ。
文・写真:長野美穂