2016/06/29
翻訳機はついに耳の中に! スマホ連動のイヤホン型翻訳機
1977年に公開された映画『スターウォーズ』では、昔々の遠い銀河が舞台とされているが、登場人物は(R2-D2やチューバッカなどを除き)全員が英語で話している。一方、イギリスのBBCラジオドラマ『銀河ヒッチハイク・ガイド』(1978年)は、小説化や映画化もされているSFだが、人間と宇宙人は言葉が通じないことになっている。
人間同士でも言葉が通じないのは、旧約聖書によれば、バベルの塔という神を畏れぬ高層建築物を人間が作ろうとした罰だそうだが、『銀河ヒッチハイク・ガイド』では、「バベル・フィッシュ」という小さな魚を耳の孔に入れることで、宇宙語がわかるようになる。お互いが別の言語で話しても、脳の中には母国語に翻訳されたものが響くのだそうだ。会話者の脳波を餌に、宇宙のさまざまな言語に対応してくれるから給電も必要なく、いったん、耳の中で飼い始めたらメンテナンスは不要だ。
現実の世界では、1997年にAlta Vistaが「Babel Fish」というウェブサイトを公開した。テキストやウェブページを各国語に翻訳してくれるサイトで、現在のBing Translatorや、Google翻訳の原型となっている。もちろん、「Babel Fish」の名前は『銀河ヒッチハイク・ガイド』に由来する。
さらに最近では、スマートフォンとクラウドのおかげで、音声の自動翻訳がより身近になってきている。言語を選んでスマホに話しかければ、外国語の音声を機械が読み上げてくれるから、外国旅行や外国人旅行者の対応に重宝する。さらに、Skypeにも音声のリアルタイム「機械」通訳機能が追加されているし、国際電話などを自動通訳してくれるサービスもある。
スマホを使うにせよ、電話やPCの音声チャットを使うにせよ、自動翻訳にはマシンが介在する。スマートフォンに向かって自分の言葉を語り、そのスマホを相手に向け、翻訳された音声を聞かせたりすることになる。ショッピングやレストランでの外国語会話ならスマホに語りかけたり、電話機を交互に持って自動通訳の音声を聞きつつ会話したりでも事は足りるかも知れない。だが、きちんとしたコミュニケーションでは、相手の顔を見ながら会話したい場面も多いだろう。
ニューヨーク市に本拠地を置くWaverly Labsが開発した「Pilot」は、補聴器のようなイアピースを両耳の中に装着することで、スマホと連動した自動通訳を直接、装着者の耳に届けるシステム。イアピースそのものに各国語の音声認識や通訳エンジンを搭載するのではなく、スマホにやらせることで、軽量化と低価格化を実現している。
『銀河ヒッチハイク・ガイド』のバベル・フィッシュと違って、Pilotは充電しなければならないし、スマホと一緒に使わなければならないし、両耳に装着することになる。また、双方向で使うためには、2セット必要になる。だが、相手の目を見ながら外国語を話す人と会話できるのは嬉しい。
Pilotの販売開始は2017年春の予定だ。当初はラテン系言語とゲルマン系言語、ゆくゆくはスラブ言語や東南アジア言語にも対応する予定。ちなみに、日本語は話す人口が比較的多いわりに自動翻訳が難しいらしい。多少時間がかかったとしてもぜひ対応してほしいのだが。
文:信國謙司