2016/02/03
脳波を検知して「自分のなかの音楽」を聴く? 未来のヒーリングヘルメットとは
人間の脳波にはさまざまな種類があり、それぞれがどのような心の状態を表しているかを知るための研究が長らく続けられている。心拍数や血圧を測るウエアラブルギアは、今の体の状態を客観的に知ることで健康維持や生活ペースをコントロールすることに使われているが、同様に、なんらかの方法で脳波を知覚して心の状態を知ることができるようになれば、大事な発表の前に集中力を高めたり、はじめての相手と会うときに気持ちを落ち着かせたりできるようになるかもしれない。
写真:Natalja Safronova/モデル:Aiste Noreikaite
ロンドン芸術大学の音をデザインするプロジェクトは、脳波と音の関係に着目し、脳波を音楽として再生できるヘルメット「Experience Helmet」を製作した。見た目は普通のオートバイのヘルメットのように見えるが、かぶるとヘルメットの中に装着されたセンサーが脳内の神経細胞活動を検知し、それに合わせた音楽を再生する仕組みになっている。
音楽そのものは、プロジェクトで開発された独自のソフトウエアによってつくられている。瞑想状態のときに脳が発するアルファ波と、連続的なビート音を聴いたときに発せられる10Hzの振動周波数の2種類を検知し、それを単なる脳波ではなく自分が今ある状態を知るための音と捉え、それを音楽として再生することができる。たとえば、歩いているときと走っているときでは、発せられる脳波が変わるので、それぞれ聞こえる音楽が変わってくるというわけだ。また、同じ歩いている時でも気分がいい時と考えごとをしている時などでも、聞こえてくる音楽は変化する。
写真:Natalja Safronova/モデル:Aiste Noreikaite
音楽もただ聞かせるだけではなく、左右の耳から異なる周波数の音をうねりのように聞かせることで、集中力を高めたり、リラックス効果をもたらすといわれる「バイノーラルビート」という手法が用いられている。「バイノーラルビート」は19世紀頃から研究が進められていて、主にヒーリング音楽としてネットでもいろいろな音源が公開されているが、効果については賛否両論だった。しかし、最近になって効果を証明する実験結果が発表されるなどして、再び注目を集めはじめている。
作者のひとりである、リトアニアのサウンドアーティストAiste Noreikaite氏は、自分の頭のなかにある音楽を、自分のための「サウンドトラックのようなもの」と考えているそう。「Experience Hel-metによって自分の心の内側にあるもの、あるいは心の状態が音楽としてはっきりと聴けるようになるというまったく新しい経験が、自分を変化させるきっかけにもつながるかもしれない」としている。
プロジェクトでは、「Experience Helmet」を個人はもとより、オフィスやホテル、カフェなどで手軽に使える瞑想ツールとして使えるようにすることも考えており、近い将来、どこでも当たり前に使う日々がやってくるのかもしれない。
文:野々下裕子