2016/01/22
明日からアメリカに出勤する方法! “つながる”ではなく、“召喚する”Beam Proが目指すリモートワークの未来
アメリカのIT企業で働くある女性は、自宅から1,266マイル離れたパロアルトに毎日出勤している。飛行機で3時間かかる距離。もちろん、しっかり者の彼女は朝のミーティングに遅れることはなく、昼には同僚とパロアルトの街を散歩しながら午前中の会議のフィードバックを行い、夕方には家族との時間を過ごすために帰社する。確かに、彼女はリモートワークをしている。しかし、メールや電話、あるいはテレビ会議だけでつながるような一時的な出勤ではない。同僚たちからみれば、彼女は確かにオフィスに"ずっと"いたといえる。少しの違和感はあるが、ハンガーラックにモニターを付けた彼女の分身が、確かに出勤していた。
Beam Proは、いってしまえば動くSkype。2013年に発明された、地域や国を跨いで、その人が登場することができる遠隔ロボットだ。彼らは、商品の説明の際に一貫して、"コミュニケーション"ではなく、"プレゼンス"という言葉を使っている。つまり、相手とやり取りするだけでなく、遠方からその人を召喚することこそが、Beam Proが今なし得るところなのだ。
この遠隔プレゼンスが必要とされる場面は少なくない。なにかしらの理由で自宅から出ることが難しい場合に、オフィスにあるBeam Proを代わりに稼働させる。急遽、海外に出張する際には、現地にあるこれにアクセスして、オンライン出張を行う。活躍が期待されている場面は、オフィスだけではない。身動きが取れない難病に悩まされている患者さんが、もう歩けないと思っていた街のなかを散歩することができるだろう。世界中のあちこちをBeam Proで移動して、1時間で世界一周なんてのもありかもしれない。
Aging2.0会場の様子
そんなBeam Proをいち早く体験してきた。サンフランシスコで開催された「Aging2.0」(世界的に進行している高齢化社会を、テクノロジーをもって解決していこうというカンファレンス)にさっそく取材へ。Beam Proを取り扱うSuitable社のケーマ氏は、イベントへやって来る参加者にモニター越しに挨拶をし、談笑をする。こうした光景は慣れてしまえば、なんの違和感もない。ケーマ氏はこのとき、コロラドにいた。彼女と話している途中で、さらにテクニカルな話をもっと聞きたいと尋ねてみると、モニターがワシントンにいるエンジニアを担当している男性に一瞬でチェンジ。シームレスに別々の遠隔地にいる者同士が会話できる体験は、これまでの映像通話では味わえない、ちょっと不思議な感覚だった。
Beam Proが持つ最大の特徴は、モビリティだ。今までの遠隔システムとの違いは、動くか、動かないか。この発展で思い出すのが、あの固定電話から、いつの間にかケータイへと変わっていった進化。固定された電話の前でしか、同僚だけでなく、家族や友達とつながることはなかった。それが今や、いつでもどこでも、つながることができる。Beam Proが広がった世界とは、いつでもどこでも、その人がそこにいる未来だ。
文:山田俊輔