2016/01/20
【世界のドローン23】人工知能で障害物をすいすい避けて高速飛行するドローンが登場
自律飛行するドローンのなかには、搭載されたセンサーを使って、ある程度、障害物を避けて飛行できるタイプも開発されているが、そうしたドローンは高度な処理能力を持つセンサーやキネクトのようなカメラシステムが必要になるため、飛ぶ能力はそれほど高くなかった。だが、MITの人工知能研究所CSAIL(Computer Science and Artificial Intelligence Lab)が開発中のドローンは、時速30マイル(時速約48km)の高速で自律飛行しながら、障害物をやすやすとくぐり抜ける機能を実現させている。
開発を手掛けたMITで博士課程を専攻するAndrew Barry氏によると、通常の自律飛行型ドローンが障害物をよけながら飛行しようとすると、せいぜい時速5〜6マイル(時速約8〜10km)ぐらいしかスピードが出せなかったという。そこでBarry氏は、同研究所のRuss Tedrake教授による人工知能に関する研究論文をもとに、新たな障害物検出システムを構築し、飛行速度に対して障害物をよける必要がある範囲だけを計算する独自のステレオビジョンアルゴリズムを開発した。
その結果、新システムは既存の20倍の速さで計算し、進行方向にある木や枝などさまざまなオブジェクトを検出しながら、毎秒120フレームという、ほぼリアルタイムの速さで周囲をマッピングできるようになった。ドローンはそれら情報をもとに、1フレームにつき秒速8.3mmで深度を計算しながら進行方向を調整することで、自分で障害物を避けながら高速で飛べるというわけだ。
提供:MIT's Computer Science and Artificial Intelligence Lab
デモ飛行の様子を撮影したビデオでは、ドローンがシステムを通じてどのような視界で飛行しているかが紹介されているが、空間をリアルタイムでワイヤーフレーム状に分析していて、まるでシューティングゲームの画面のように見える。
システムを動かすのに必要な機材は、両翼に積まれた2台のカメラとパソコンだけというシンプルな構成に抑えられている。ドローン本体は全体で34インチ(約86cm)あるが、重さは1ポンド(約0.5kg)を超えるぐらいしかないほど軽量なため、高速飛行と障害物をよけるだけの機動力が実現できたといえる。しかも、カメラやパソコンは既製品を使っているため、製作コストは全体で約1,700ドル(約20万円)と、性能を鑑みるとかなり安く抑えられている。
今後は、深い森や障害物がたくさんある場所でも高速で飛行できるよう、アルゴリズムを改善していくという。開発したシステムはウェブ上に公開されているため、誰でも開発に参加することができる。
自律して高速に飛行できるドローンを使えば、山での遭難や緊急時に急いで薬や救命器具を届けるといったことができる。複雑な地形でドローンを操作するスキルも不要で、救命器具として常備するといった使い方も考えられる。
ドローンのさまざまな有効利用が世界中で検討されているが、目的によってはドローン本体もさることながら、高度な飛行システムが必要になっており、MITの研究にかかる期待は大きいといえるだろう。
文:野々下裕子