2015/11/16

災害時、スマホのプライバシー情報が、迅速な救助救援を可能にする

煙の立ち込めた火災現場のなかで、消防士がフロアレイアウトを推測しながら消火や救助に当たり、見落としがないか目視確認しながら、逃げ遅れた人を探す。現場から救急車で搬送された人に投薬したいが、現在の服薬歴が分からないので、本当にこの処方で良いのか確証が持てない......。火災現場の図面や、そこにいる人の健康情報があらかじめ消防隊に知らされていたら、どれだけ迅速に救命救助活動ができるだろうか。

サウスカロライナ州ビューフォート郡がスタートさせたスマート911(Smart911)プログラムは、Rave Mobile Safety社(以下、Rave社)が提供するPublic Safety(公共安全)システムで、緊急時に備えてさまざまな情報を安全に保存しておき、緊急時には消防隊などに提供するというものだ。「911」は日本の109番(消防、救急)と110番(警察)に当たる緊急通報番号。こうした取り組みは、すでに40の州、1,500以上の地方自治体で行われているという。

システムは、住民がデータを蓄積する機能と、緊急時にデータを消防隊や救急隊に提供する機能に分かれている。「スマート911セーフティープロファイル(Smart911 Safety Profile)」は、個人が自分や家族の名前や写真、健康情報、携帯電話番号、クルマのナンバー、自宅、勤務先、ペットなどの情報を登録する。「スマート911ファシリティー(Smart911Facility)」は、ビルオーナーや管理者がフロアプラン、緊急連絡先、AEDの場所や鍵の保管者などの情報を登録しておく。

Smart911 Safety Profileの情報登録画面(奥)とオペレーターの情報表示画面(手前)(画像提供:Rave Mobile Safety)

Smart911Facilityの登録情報。フロアレイアウト上にAEDの位置やキーボックス、警報機、防火シャッターの配置、管理責任者の連絡先情報などが表示される(画像提供:Rave Mobile Safety)

これらの情報は全国向けデータベースに格納され、自分が住む自治体がスマート911に対応していない場合でも、情報を登録しておけば、対応している自治体内を旅行中に火災に巻き込まれた場合などにデータが活用される。情報を最新に保つように、住民や事業者に対しては半年ごとに情報の更新が促される。

緊急時には、上記の情報に、位置情報(Samrt911Location)、外部データとの連携(Smaert911Connect)、テキストメッセージ機能(Smart911Chat)などを組み合わせて、緊急通報を受けたオペレーター(ディスパッチャーと呼ぶ)のスクリーンに情報が表示されると同時に、現場に向かう警察官や消防士にも情報が伝達される。オペレーターは、緊急通報の発信者に対して助言したり、緊急車両などを派遣する業務の高度化、高速化を支援している。

Smart911 Locationを活用して、救急隊がタブレットで通報者の位置情報を確認できる(画像提供:Rave Mobile Safety)

iPhoneのデバイスロック中でも、健康情報や緊急連絡先を医療関係者などの第三者が閲覧できる「メディカルID」機能など、緊急時に備えて自分のプライバシー情報を開示する仕組みが広がりつつあるが、スマートフォンに登録しておくだけでは、これから救援に向かおうとしている人に情報を伝えることはできない。Smart911は、登録する側の自発的な意志でプライバシーに関する情報をセキュアに登録しておくことで、不測の事態に住民や企業側が備えるという枠組みである。

文:信國謙司