2015/10/30

Wi-Fiで壁の向こうを透視?

画像提供: National Instruments

人質を取って立てこもる犯罪者。しかし、見えない壁の向こうには人質がどのように拘束されているのか、犯人が何人いて、どのように配置されているのか分からず、身動きがとれない警察。そこにさっそうと現れた主人公が壁の向こうを透視し、救出作戦を指揮して突入する......。SF映画ではよくあるワンシーンだ。

人質が閉じ込められた部屋にWi-Fiのアクセスポイントがあれば、壁を透視できるヒーローがいなくても、壁の向こうの犯人の居場所が分かるようになるかもしれない。そんな技術の開発が進められている。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究者チームが開発したシステムは、Wi-Fiや携帯電話など、さまざまな場所に普通に飛び交っている電波を利用して、ドップラー・シフト、つまりは周波数のわずかな変化を検出することで、厚い壁の向こう側にいる人の動きを「見る」ことができる。もちろん、壁の向こうにいる悪い奴の動きを察知するだけではなく、商業施設や駅、そのほかの交通機関、観光地、イベント会場など、さまざまなシチュエーションで、壁の向こうの人の流れを知るために利用することができる。

壁の向こう側の人を検知した例(画像提供: National Instruments)

以前から、Wi-Fiを使って壁の向こうの様子を探るさまざまな研究が行われている。たとえば、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のYasamin Mostofi教授は、2台の台車型ロボットを使って、四角い壁で囲われた中にどのような形の物体があるのか「見る」システムを開発している。1台から発した電波を、四角い壁の向こう側を並走するもう1台に送り、受信した信号を分析する。同教授のチームは、Wi-Fiの電波だけで、カメラの映像を使わずに、付近を歩いている人の数をカウントするシステムを開発している。また、マサチューセッツ工科大学(MIT)のDina Katabi教授らは、Wi-Fiの電波を壁越しに室内に向けて発射し、反射波を使って中の様子を視覚化するシステムを研究している。

UCLのWi-Fiドップラーレーダーがこれらの技術に比べてユニークな点は、受信機さえあれば、後は日常の生活空間に普通に飛び交うWi-Fiの電波を利用して検知できること。壁の向こうにある人質の救出だけでなく、子どもや高齢者の見守りなどさまざまな技術に応用できそうだ。

文:信國謙司